2011年9月30日金曜日
Caught Running 第四章
Jake と Brandon 、なかなか仲良しシーンが出てきませんね!
こんなに仲良くなるまで引っ張ってたの?
もうこの際だから!ということで、もう1章、続きを投稿させていただきます。
どうぞ、引き続き、息を潜めて、こっそり読んでいただければと思います。
『Caught Running』
第四章
「他にも誰か疲れたなんてグチりたいやつはいるか?」と、ジェイクは、標的となった運の悪い子供が、グランド5周のノルマの一周目を始めるとまさに叫び声をあげた。彼の声の様子はいつもと違っている。ジェイクはいつも叫んでいる。でも叫ぶのとキレるのとは別物で、ジェイクはほとんどキレることはない。今日の彼はしかし、キレていたし、子供たちはそれを感じ取っていた。日暮れは迫っていたが、誰一人として練習が終わりに近づいているなどという希望を持ちはしなかった。トロイですら、眉をひそめてジェイクを眺め、子供たちを注意深く見守っている。彼は、割って入りたそうにも見えたが、明らかにトロイもこんな機嫌の時のジェイクには近づくべきでないことを経験上知っているようだった。彼はまたジェイクがどんなに機嫌が悪くても、決して子供たちを傷つけるようなことはしないということも知っていた。
ブランドンは近くに立ち、身がすくむのに近い感覚を覚えたが、それはジェイクの言葉よりも、その声の調子に対してだった。それにしてもキレて怒鳴り散らす声というのはいたたまれない。ブランドンは、もしジェイクが本当に子供たちを虐待するようなことをするなら、素晴らしいコーチという名声はありえないことは承知していた。さらに、ブランドン自身の心に秘めた意見としても、子供たちはもっと走り込む必要があると思っていた。彼らは耐久力を強化する必要がある。何人かの子は、一マイルと持たずに脱落してしまうくらいだったから。
ついにジェイクは、いまいましげに子供たちの練習をやめさせ、子供たちに背を向けながら、一言も発することなしにグランドから出て行けと手を振った。ゴロのエラーに、ボールの取り損ね、一マイルも的を外したバッティング、極めつけは、そうでなくても彼の神経に障る泣き言を言うやつら、そんなことが際限なく続いた。自分はこんなところにいていいのかという疑問が湧いてくるのは、こんな日だ。他のコーチたちはただ静かに待っていた、唸り声をあげる虎を突つくべきでないことを承知しているのだ。トロイすら大人しくしているというのは、ブランドンにとっては驚きだった。
ジェイクは他の男たちに唸ってみせ、頭を振った。「ビールだ」と、男たちの前を通り過ぎながら、彼らに向かい怒鳴りつけるように言った。肩をすくめ、ブランドンは先頭を切って、ジェイクの後に続いた。コーチたちは今夜、ヘッドコーチの家に行くことになっていた、ジェイクの悲惨な機嫌にも関わらず、その約束はまだ生きているのだと、彼は推測した。「君たち、僕の車に乗っていくかい? 終わった後、またここで降ろしてもいいよ」と、彼はトロイとジョナサンに申し出た。
「その申し出を受けさせてもらうよ」と、ジョナサンが笑顔を見せる横で、トロイが首を振った。
「ありがとな。だけど俺はいい」トロイはそう答え、彼らの前方を大またで歩くジェイクを見やった。「ジェイクは今日、車で来てるから…」彼は、ジェイクが古いシボレーのトラックへと歩き、彼の用具バッグを後部座席に乱暴に投げ入れるのを目にして言葉を途切れさせた。ジェイクはいつも必ずバッグの扱いには十分に注意を払っているのに、だ。「実際のところ、うん、頼むかな。俺、助手席に乗る」トロイは彼らに向かい、そう言った。ジョナサンは彼に顔をしかめて見せて、三人はブランドンの車へと歩みを進めた。
ブランドンは鼻を鳴らし、皆が乗り込めるようドアの鍵を開けた。「ライムの上に座るなよ」と、彼は今にも助手席に飛び乗ろうとしたトロイに警告した。床には、六本入りのコロナの瓶も積んである。
「これって法律違反じゃないのか?」トロイは、シートに滑り込み、床からビールを引き上げるとそう訪ねた。「くそっ! ジェイクのやつ、俺にはキャンパスにアルコールを持ち込んじゃ駄目だって言ったんだぜ」と、彼はふてくされて、ドアを閉めた。
後部座席でジョナサンが笑い声をたて、トロイの頭をぽんっと叩いた。「それは君がランチ用に持ち込もうとしたからだよ」
「くそったれ」トロイはせせら笑いを浮かべ、ビールを抱きしめた。「お前ら皆くそったれだ」彼がそう宣言した時、ジェイクのトラックが彼らの横に来て停まった。
「俺んちに集合な」ジェイクはトラックの窓から頭を出して彼らにそう言った。「俺はひとっ走り店まで行って、何ケースか買ってくる、お前ら皆、先に行っててくれ」
「僕にコロナをもう一パック買ってきてくれないかな、僕が持ってきたコロナにトロイがすっかり愛着を感じちゃってるみたいなんで」ブランドンは、今や透きとおったボトルに向かってささやきかけるような声を出しているブロンドの男を見やって、おどけて言った。ジェイクはブランドン越しにトロイを見やり、呆れ顔で目をくるっと回した。「コロナだな?」と、彼は確認のために尋ねた。
ブランドンはうなずいた。「うん」彼は手を伸ばしてトロイから六本パックを取り返そうとしたが、その手はぴしゃりと叩き落された。「ろくでもないやつだな!」彼は、トロイに向かって怒鳴って見せたものの、その顔には笑顔が浮かび、後部座席のジョナサンは大笑いしている。
ブランドンが自分の権利を主張する様子を笑顔で見つめつつ、ジェイクはロッカールームでの感情が再び湧き上がってきていることをゆっくりと自覚した。「やつをライムに近づけるなよ。お前、一生心に傷を負うことになるぞ」突然の感情になんとか抵抗し、微かに声を強張らせつつ、彼はそう警告した。それ以上見つめ続けることになる前に、彼はエンジンをふかして、駐車場から素早く走り出た。
トロイに向かってぶつぶつと文句をいい、睨む振りをしながら、ブランドンは車のエンジンをかけた。「運も尽きだな。せっかくビールを持って来ても、君にくすね盗られるんだから」と、彼は低い声で悪態をついた。
ジョナサンはシート越しに体を乗り出しつつ、まだ笑い続けていた。「トロイにライムを与えたらどんなことになるか、まあそれを見てみなよ」
「それは、ああ、それはかなり見ごたえがあるぞ」と、トロイは邪悪な笑い声を立てた。「それより、なあ、ジェイクのやつなんであんなに虫の居所が悪かったんだろうな?」
「マジで、コーチ、食物繊維かなにかとった方がいいと思うよ」と、ジョナサンが言う。
ブランドンは大笑いしそうになるのをこらえた。「わからないけど。彼、最後の授業の後は、機嫌よかったんだよ」と、彼は言った。「僕が思うに、今晩の彼って、ちょっと…」
「キレてた」
「ああ」
「あいつがあそこまでキレるなんて、あん時以来だ、あの…」トロイは突然そこで言葉を切り、じっと窓の外を見つめ、それから口が滑ったとでもいうように首を振った。「よっぽど嫌なことでもあったんだろうよ」と、身動きもせずにそう言葉を終わらせた。
ジョナサンがトロイの肩を突つく。「いつ以来だって? 今日のキレ方って、今後も僕たちが目にする可能性があるってこと?」
「わかんねえ」トロイはしぶしぶと答えた。「つまり、今回キレた原因はわからねえってことだけど。前にやつが今日みたいなとんでもないキレ方をしたのを俺が目撃したのは、肩が駄目になっちまったってことをあいつが知った時だったんだ」
ジョナサンが、十年前にはどれだけ多くの選手たちが無理をさせられすぎた挙句、それが原因でキャリアを棒に振ることになったかについて熱心に語り始める中、ブランドンはハンドルをきつく握り締めた。ジェイクの肩? くるぶしと、ぶっ壊れた膝のほかに? そんな状況に立ち向かうため、彼はこれまでどれほどのことをくぐり抜けてきたのだろう? ブランドンは、ジェイクがどれほどスポーツを愛していたかについて、全く知らないという事実に気づいた。二人の男たちがおしゃべりを続ける中、彼は深く思いに沈みながら運転を続けた。
ジェイクのドライブウェイに車を乗り入れても、まだトロイはコロナをしっかりと掴んでいた。「それ返してもらえないみたいだな?」ブランドンは力なくそう言った。
「うん」トロイは満面の笑顔で答えつつ、車から降りる。
「ライムは独り占めにはさせないからな」と、ブランドンは言い返した。
「どっちにしても俺がライムちゃんを用済みにする頃には、お前はライムを欲しいとも思わなくなるさ」トロイはそう呟くと、まるでこの家の住人であるかのように、ふんぞり返って玄関まで歩いていく。彼はドアの上の隠し場所からスペアキーを取り出し、ドアの鍵を開け、むかつくような笑顔で彼らを手招いた。
ジョナサンは笑って、階段を弾んで上っていった。「早く、ブランドン。ライムが欲しいなら大至急確保しないと」彼にそう言われたブランドンは、バックパックを掴むと、階段を駆け上がり家の中へと入った。
ジェイクはそれから間もなく家に着いたが、そのまま座って、自分の家の玄関を睨みつけた。「手綱を引き締めろよ、自分」彼は両手首をハンドルに預けて座ったままそう呟いた。彼はこれまでにもこんな状況に対処した経験がある。惹かれてはならない相手に惹かれてしまうという状況に。今度も上手くやれるさ。不機嫌に鼻を鳴らし、彼はトラックから降りて、トロイに荷物を取りに来させるため、物音荒くドアを叩きつけた。そして買ってきた数ケースのビールを掴むと、玄関まで苦労して運び上げた。
車のドアが閉まる音を聞いて、ブランドンは玄関へと急ぎ、ジェイクのためにスクリーンドアを開けてやった。「トロイには気をつけろよ。あいつ、もうばか騒ぎしてるから」ブランドンが警告する間もなく、ブロンドの男が、くすね盗ったコロナの瓶をマイクに見立てて歌いつつ、靴下履きの足で堅木張りのフローリングの玄関ホールにすべり込んできた。
「ああ、なんてこった」トロイがターンをして、彼らに向かって尻を振り、気取った歩き方で退場すると、ジェイクはうめき声を上げた。「やつにライムをやったな?」彼は、ブランドンにぶつぶつ言ったものの、わずかに笑顔を見せて、荷物と一緒にキッチンへと向かう。「座れ!」と、彼はトロイに向かって、最高にばかでかくて、もっとも高圧的な声で怒鳴った。トロイは素直にソファにポトンと座り、唇をとがらせて彼を見上げた。「酔っ払いすぎちまう前に、俺たちはチームを仕分けなきゃならないんだ」と、ジェイクは彼に思い出させた。
トロイは、ふんっと息をはき、ジョナサンはドリトスの袋を抱えて彼の隣にどさっと腰を下ろした。ジェイクは軽く唸って見せて、サンルームにおいてある回転式のホワイトボードを取りにいき、それをテレビの前に据えると、大またにキッチンへ入っていって、マーカーを何本か探し出した。戻る途中、彼は冷えたビールを一本つかみ、小さな薬の壜を沢山しまってあるキャビネットの扉を開けた。
ブランドンは二本目のコロナとライムを取ろうと別のドアからキッチンに入ろうとして、キャビネットのところに立っているジェイクに衝突しかけ、ドア口で立ち止まった。「ごめん」彼は低く呟き、ジェイクを迂回して冷蔵庫へと向かった。
「問題ない」と、彼は呟いて、錠剤を掌に出し、そこから二つ取り上げた。「狭い台所は仲良し家族を作るのに役立つ」と彼は考えもせずに言った。この家は相当に広くてキッチンもそれほど狭くはないのだが、彼の母親が好んで口にしていた言葉だ。
驚きに背筋を伸ばし、ブランドンはライムを切るためまな板の方へと移動しながら、興味を持って、ジェイクを見やった。それは面白い格言だった。その言葉は、彼が生まれ育ち、今だに暮らしている家には、ぴったりだと思った。この言葉には愛情がこもっている感じがする。彼は瓶の蓋をねじあけ、瓶の口にライムを押し込みながら、ジェイクが錠剤をビールで流し込むのを見つめた。今の言葉を口にしたのが他の誰かだったら、ブランドンは絶対に何かコメントしていただろう。
ジェイクは肩越しにブランドンに視線を投げ、自分が今何を言ったのか、と、ブランドンが静かに自分を見つめていることに気づいた。「ん?」ゆっくりと顔を赤らめながら、何の気ない口調になっていることを願いつつ、彼は尋ねた。
ブランドンが必死に葬り去ろうと努力している、あの惹きつけられる感覚が、その魅惑的な頭をもたげてきて、彼は瞬きしつつジェイクを見つめることしかできなかった―今、目の前にいる男が、彼の本当の姿なのにちがいない。威張り散らしてもいない、コーチでもない、怒鳴ってもいない、ジョークも言わない。ただ疲れきって肩を落とし、のど仏をびくびく動かして、髪はくしゃくしゃで、肌は上気して。科学教師は目の前の情景を断ち切るため、完全に目を閉じなければならなかった。「準備はいいかい?」彼はかすれた声で、トロイとジョナサンがアメリカンアイドルについて楽しそうにくだらない口論をしているのが聞こえてくる別の部屋の方をボトルで指して、そう聞いた。
ジェイクはその機会をとらえ、自分の指を引き出しで勢いよく挟んでみることを真剣に検討した。そうすれば簡単に気を散らすことができる、そうだろ? そうとも。 「おう」と、彼は呟き、三本のマーカーと自分のビールをつかむと、別の部屋へと向かった。
ブランドンは彼について歩きつつ、白い野球ズボンに包まれたジェイクの尻を見つめないよう必死で努力した。とにかく必死で。なんだよ、もう! 考えるな。ジェイクがホワイトボードの前に立つと、彼は、トロイをドリトスから引き離す方向へと押しやって、ソファに腰を下ろした。
「頼むよ、バートレット、いじわるすんなって」トロイが哀れっぽい声を出し、チップスの袋に手を伸ばそうとして、実際にブランドンの上によじ登ると、ジョナサンは身もだえして大笑いし、ソファから床に転がり落ちた。
「トロイ!」ジェイクは怒鳴った。長い一日の後で、ただでさえうんざりして、疲れて、暑くて、薄汚れているってのに。 「落ち着きのない子供に飲ませるあのリタリンでもなんでも飲め!」彼はイライラと怒鳴り散らしながら、マーカーのキャップを外した。
トロイは彼に向かって中指を立てて見せたものの、ソファの自分の端へと戻った。ブランドンはチップスの袋をつかみ、トロイの胸元へと放った。 「ほら、いい子にしてなさい」彼が静かにそう言うと、トロイは笑いを噛み殺して、きちんと座りなおした。その顔には子供のような笑顔が浮かんでいる。
「ったく」ジェイクは呻き、マーカーの先をホワイトボードにつけたものの、その手を引っ込めた。「お前は、チーズを過剰摂取してハイになっとけ、俺は着替えてくる」彼は力なくそう呟いて、マーカーを置くと、階段を上りながらシャツを脱ぎ、それを使って胸元をぬぐった。
ジェイクの代わりにイライラを引き受け、ブランドンは手を伸ばして、トロイの後頭部を叩いた。 「君は彼の友達だろ? 彼がどんなに疲れてるかわからないのか? ちょっとは口を閉じたらどうだ、トロイ」
「なんだよ。もしあいつが疲れるたびに口を閉じてたら、俺は年がら年中黙りっぱなしでいなきゃならないぜ」と、トロイはぶつぶつ言って、生物の教師を睨みつけた。
「ま、ちょっと大目にみてやってよ」と、ジョナサンが床に落ちたままの場所から言った。「じゃなきゃ、トロイとジェイクなんていうガキどものことは放っておくかさ。僕らだって、ヘッドコーチから酷い目に遭わされてるんだから」
トロイとジョナサンは低い声で話し続けていたが、ブランドンはただじっと階段を見つめ、彼が目にした裸の胸と背中で、筋肉が動いていた様子を思い出していた。彼は唇を引き締め、今晩はこれを最後の一本にしておこうと決めていたにも関わらず、手にしたビールをごくごくと飲んだ。
ジェイクはシャワーを浴びなかったが、清潔な服に着替えただけでもだいぶ気分がよくなり、彼はそのまま階段をドスドスと下りた。彼はゆったりしたスウェットと、柔らかくて薄く、第二の皮膚のように体にフィットする大学の友愛会の名前の入ったTシャツを着ていた。くつろぎウェアってやつだ。彼は、他のメンバーにもそれぞれ一枚ずつTシャツを持ってきて、ソファの大体の見当に向かって投げ、再び自分のビールを取り上げた。
「よし」彼は短く息を吐き、マーカーを取り上げた。「みんな落ち着いたか?」彼は、トロイがアンダーアーマーを脱ぎ、居心地良くジェイクのTシャツを着込むと、疲れた声で尋ねた。ジョナサンはTシャツを受け取ったものの、たたみなおしてそのまま横に置いた。あきらかに、小柄な男はアンダーアーマーを着たままでも窮屈でないのか、もしジェイクのシャツを着たら、パパの服を着た五歳児のように見えることを知っているようだ。
ブランドンは、ジェイクが彼に向かって投げたシャツを持ち上げた。 『男女混合裸レスリング』 なかなか趣がある。彼は控えめの笑顔を浮かべ、トロイがジェイクに小声で謝っているのを聞きながら、ジャージを脱いだ。次にアンダーアーマーを脱ぎ、ブランドンは肌に触れた冷たい空気に驚いた。ユニフォームの中にこんなに熱が籠もっていたことに気づいていなかった。ただ熱を冷ますため、彼はTシャツを持ったままその場に座り、トロイがちゃんと座って、少なくとも自分の半分の年齢くらいの態度をとるようにする、と約束しているのを聞くともなく聞いていた。
ジェイクは振り返り、何かを言おうとして、突然言葉を止めた。彼の目はブランドンの裸の胸を捉えていた。彼は瞬きし、素早く視線を逸らすと、赤面しないように努めながら、しばらくの間ホワイトボードを凝視した。ったく、どんどん重症になっていく。無言で、彼は野球部のトライアウトに参加した少年たちの苗字を書き始めた。六十人全員分、記憶だけで。アルファベット順に。学年ごとに。
科学教師はあくびをし、ちょっと伸びをして背中のこりをほぐしてから、Tシャツを着て、それが実際彼の体によくフィットすることに驚いた。お気に入りで着古した感じがする。彼はショッキングな言葉を手でなぞり、笑いを抑えた。
「一年が二十二人いる」ジョナサンはジェイクにそう言って、ソファに背中を預ける形で床の上に落ち着いた。「少なくとも五人は残したい」
「四年が十五人」ジェイクは一つうなずいて応えた。「なんてこった、三年は全滅しちまうぞ」彼はぞっとしたように呟いて、また一連の名前を書き始めた。彼はしばしその場に立ち尽くして、計算した。選抜チームに入れられるのは二十人きっかりだ。そしてそれでも目一杯なのだ。「誰か名簿を取ってくれ、やつらの学年じゃなく、生年月日で考える必要がある。それと、去年の統計からな。ったくなー」彼は首を擦りながらひとりごちた。
「これって、俺のチームを皆殺しにすることになる。それはお前の来年のチームを皆殺しにするってことにもなるんだぜ」と、トロイは、ついに素面に戻った声で言った。 「三年たちに残された時間はわずかだし、もし今年外されたら、辞めるやつが出てくるかもしれない。大学に向けて、試合に出るチャンスをつかむためにバークマー高へ転校するやつさえ出てくるかも」
ブランドンは移動してジェイクのバッグをつかむと、自分の足元へと引きずってきて、コーチが要求する名簿を引っ張り出した。彼は生徒たちの略歴のページを開き、ヘッドコーチを見上げた。「読み上げようか?」
「待て待て」ジェイクは首を振りながらつぶやいた。彼は首の後ろを擦り、ボードの名前をしかめっ面で眺める。 「いいさ、なんとかなるだろう。最初は、完全に野球の技能だけでやってみる。それぞれ二十人に絞るんだ。それからってことにしよう、いいよな? 成績がどうかなんてことはとりあえずどうでもいい。第一選考に残るほどの技能があるなら、代表チームに入るに値する。それからあれこれいじくり回してみることにすればいい」と、彼は言い、確認のため他の三人を振り返った。
科学教師は肩をすくめ、トロイとジョナサンを眺め、二人が揃ってうなずくのを目にした。ブランドンはソファに深く座り、両足をコーヒーテーブルに乗せ、足首を交差させた。長い夜になりそうだ。
ジェイクはうなずき、ホワイトボードに向き直るとリストの名前を読み下して、確実に代表チームクラスである生徒たちの名前をチェックした。彼は明らかな初心者、そして何らかの理由で、実戦に向かない数人の生徒の名前を線で消し、一歩後ろに下がった。
十四人の代表候補が残った。その内五人は三年だ。彼はため息をつき、助言を求めて振り返った。トロイは肩をすくめてうなずいた。 「四年を削るのか?」彼は疑わしげにそう尋ねた。
「やつらの何人かは三年に負けてるからな」ジェイクはわずかに眉をしかめて呟く。「それにあのチビのガーナーは、もうちっと成長するまで、木に付けといた方がいいだろう」彼はそう付け加えて、その子の名前に思いっきり線を引いた。
「ガレットを削った方がいいかもしれないよ」と、ブランドンは、昨年の代表チームにいた四年生の名前を挙げ、静かに提案した。非常に優れた選手でもなければ、スターというわけでもないが、常に信頼の置ける選手だ。
「削るって?」ジェイクは真面目な顔で聞いた。科学教師からアドバイスを受けたという事実に瞬きすらしない。
「ああ。彼は毎日練習に来てるし、試合でもきちんとプレイする、だけど心ここにあらずだ。彼は、君が見てない時には、ほかの考え事に気をとられている。それに、ある噂を聞いたんだ…」ブランドンはそこで話を切った。野球に関係ない話なんかを皆聞く気があるのか確信が持てなかった。
「続けろ」ジェイクは一つうなずいて促した。
「クリスマス休暇の間に、彼がレイチェル・リチャーズに結婚を申し込んだって聞いた。噂では、彼女は妊娠してて、彼は天にも昇りそうに大喜びしてるって」
ジェイクは目の前の男をしばらくじっと見つめ、それから喉の奥で唸って、目をくるっと回し、首をコキッと鳴らすと、ホワイトボードに向き直った。 「坊主、頑張れよ」彼は低くつぶやき、その名前を消した。
ブランドンは肩をすくめた。 「クラークも問題ありかもしれない。女の子じゃなくて。成績の方で。マーティからは、今日ラウンジで、中退して、軍に入ろうかと思うなんていう話を聞かされた」
「ヤツは確かに殺しが好きだよな」トロイは、冷笑を浮かべ小さくコメントする。
「ああ。去年は、バッティング練習中、バッドを銃みたいに構えるなって、警告したくらいだったからな」ジェイクは低く呟いてリストから名前を消した。
ジョナサンはそれまで大人しくしていたが、突然、甲高い声で、完全にテーマからはずれた質問をした。「今年のロッカールーム係って誰が担当するの? 皆で分担?」
「去年と同じようにな」ジェイクはうなずいてそう答えた。「トロイ、どいつを入れたい?」と、彼はリストをじっくりと検分しつつ、突然聞いた。トロイがボードへと小走りに近づくと、二人の男は気楽な様子で肩をくっつけて並んで立ち、五分ほどをかけて、リストの名前を使ってぞっとするような〇×ゲームを展開した。
ジョナサンはその様子を首を伸ばして眺め、ブランドンに笑顔を見せた。 「ビール、おかわりは?」彼は静かにそう申し出た。
ブランドンは首を振った。 「運転する時は、二本が限界なんだ。それに、夕飯を食べてないから、まじで何か食べた方がいいみたいだ」と、彼は付け加えた。 「トロイのドリトス以外に何か食べるものある?」
「ねえコーチ、ピザなんかどうですか?」ジョナサンはブランドンの膝をポンッと叩いてそう聞いた。
ジェイクは振り返ると、ぽけっと二人の姿を凝視し、瞬きした。彼は、実際にジョナサンに嫉妬したのだという事実を無理やりに脇へと追いやり、うなずいた。なんてこった! ジョナサンが全く男に興味がないってことは、百も承知だし、そして彼の知る限りではブランドンも同様だっていうのにだ。彼は全くどうかしてしまったのだろうか? 「金は引き出しに入ってる」彼は片手を振って、上の空で呟いた。
ジョナサンは立ち上がると、わざわざブランドンの上にかがみ込んで、こう囁く、「もし飲みすぎれば、コーチ、ここへ泊めてくれるかもしれないよ。今日は長引きそうだしさ」 彼は、相手の教師の耳へと囁き、体を起こして言葉を続けた。 「何かトッピングのリクエストはあるかな?」
「肉!」トロイはそう要望を出した後、直ちにホワイトボードのところへと戻った。ブランドンは首を振った。彼は何でも食べるし、食べたくないものは摘まんでよける。その時、ジョナサンがよろめいてバランスを崩しかけたので、ブランドンは手を伸ばして尻を押し上げてやった。 「モレリの店に電話するなら、パークビューが州大会にでるところを見たいなら、大急ぎで配達しろって言ってやれよ」と、彼は言う。 「あそこのオーナーは卒業生だから」
「はいはいはい」ジョナサンは片手を振って、ふんっと息を吐き、電話をかけにキッチンへと言った。 「タダで尻を掴まないでよね」彼は、にやにや笑いながら、そう付け加えた。ブランドンは呆れ顔で目をくるりと回し、手を振って彼を追い払った。
ジェイクは小さく唸り、背をそらせ、眉をしかめてジョナサンを眺めた。 「ピーマンを追加だ」彼は、ブランドンがジョナサンの尻を掴んだことは自分にはなんの関係もないことだと、自分自身に言い聞かせようとしつつ、そう付け加えた。 「それからマッシュルームも!」と、彼が追加する横で、トロイが笑いを噛み殺している。 「おう! それとタマネギ!」さらに彼が追加すると、トロイは抑えきれずに体を震わせ始めた。 「黙れ」
「その顔なんだよ?」トロイは馬鹿げた大笑いの合間にそう尋ね、その結果、ヘッドコーチから強烈な一撃を喰らうことになった。
「どんな顔だって?」ジェイクは身構えるように言った。
「その、誰かが僕の子犬をけっとばしちゃって僕はそのことにムカついてます、って顔」と、トロイは描写を試みる。 「ったく。俺、お前のそんな顔見るの、初めてな気がするぞ。どうしたんだよ、何が気に食わないんだ?」
ブランドンは二人の男を交互に眺めながら、ソファからその会話を聞いていたが、最終的にジェイクに視線を落ち着け、トロイが描写する表情というのを識別しようとした。彼の目には、ジェイクはなんともないように見える。
「黙れ」ジェイクはぶつぶつ言って、リストから別の名前を線で消した。トロイはそのままソファの上に倒れて大笑いしている。
「君、コロナを何本飲んだんだい?」ブランドンは、ほとんど期待すら込めて尋ねた。
「一本だけさ」トロイは、だがクスクス笑いをしてジェイクを指差す。 「でも、俺はその顔知ってる。今、その顔の意味を思い出したもんね」彼が歌うようにそう言うと、ジェイクは振り返って彼を睨みつけた。 「お前、気になる娘を見つけたな」トロイは、歌うような声のままそう追求する。 「あーあ! そのコに振られたのか? お前が一日中、マジギレしてたのって、そのせいか?」と、彼は大喜びで尋ねた。
ブランドンの両眉が飛び上がった。なんてこった。まるで高校時代に逆戻りしたみたいだ。ここで再び、彼は物言わぬ傍観人へと格下げになるわけだ。ジェイクの顔が雷雲のように暗くなり、ブランドンは、キッチンにいるジョナサンのところへ合流した方がいいのだろうかと思い巡らせた。そうすれば、事件の目撃者はいなくなる。
「お前の母ちゃんにはいつだって振られっぱなしだからな」ジェイクは最終的に、その目にからかいの気配を込めてそう答え、ホワイトボードに向き直った。彼は、自分に向けて投げつけられたビールの空瓶をひょいっと掴み、ジョナサンが両手を広げて、いったい何を見逃したんだ? と聞きながら部屋に戻ってくると、鼻で笑った。トロイは再びソファに倒れこみ、ブランドンは、ジェイクが口にしなかった言葉はなんだったのだろうと考えた。こ気味いいやり返しの言葉の前、ちょっと長すぎる間があった。トロイは気づいている風もないけれども。金髪の男が、数本のビールですっかり出来上がってしまうくらいに酒に弱いことは明らかなようだ。ブランドンは、ソファの自分とトロイの間にジョナサンが座れるよう横にずれたが、ソファとコーヒーテーブルの間に体をねじ込もうとするジョナサンがバランスを取るため、ブランドンの肩に手を乗せたことには気づきもしなかった。
ジョナサンが再びブランドンに触れるところを目にして、ジェイクはさらに両肩を緊張させつつ、これは全て自分が考えすぎているだけのことなのか、と不思議に思い始めた。 「よし」彼はほとんど唸るようにして言い、吐息をついて、緊張をほぐそうと首を回した。 「あと十三人切らなきゃならない」彼は数えながら、そう宣言した。 「名簿を持ってるのは誰だ?」と、彼は尋ね、コーヒーテーブルにどさっと腰をおろした。ブランドンはバインダーを持ち上げ、空中でそれを振ってみせた。 「それに目を通して、こいつらの中で、九月以降に生まれたやつがいるか見てくれ」ジェイクは、彼が丸をつけた複数の名前を指しつつ、そう注文を出した。
ブランドンはページを繰って確認し始めた。 「エリス。ウォーカー」数ページ進む。 「あのスティストンって子。それだけだ」
「三人とも二軍だ」ジェイクは直ちにそう言明し、自分のビールを取るため、後ろに体をそらした。 「残りは…、くそっ、ここからがとにかく最低なんだよな」彼は呻いて、座った姿勢に体を戻し、眉間を摘まんだ。
トロイはため息をつき、これから彼らが下さなければならない厳しい選択を前に再び大人しくなった。あと十人の子を切らなければならない。 「俺は、ミラーとロドリゲスを除名候補に挙げる」と、彼は静かに言った。
「理由は?」ジェイクは望みを込めて聞いた。理由があるなら、結論を出し易い。
「やつらは一つのポジションでしかプレイできない、強みが一つしかないってことだ。他は全員複数のスキルを持ってる」トロイはそう答えた。 「代表チームに融通性を持たせることができるだろ」
ジェイクはしばらくこの点について考えをめぐらし、残念そうにうなずいた。 「やつらには、来年またトライアウトに参加しろってきっちり伝えとかないとな」彼はそうコメントすると、ゆっくりと立ち上がってホワイトボードのところへと戻り、その子たちの名前を消した。 「この中で、成績に問題があるやつは?」と、彼は尋ねた。
ブランドンは、リストに残っている名前をチェックした。あと八人切らなければならない。 「グレゴリーは、補習を言い渡されたところだ。化学の平均点がC以下に落ちたもんだから」と、彼は名前を挙げた。
「実際問題さ、マネロとスロダメシュを切ってくれ。もし今度あの馬鹿野郎どもがトイレでタバコをふかしてるところを見つけたら、ムチで尻をひっぱたいてやる」と、トロイが言った。 「あいつらも、それがチームの規則に違反してるってことは承知の上だ」
「そうか」ジェイクは、興奮ぎみにそう応えた。 「フルクとギリアムは冬休み中、飲酒で補導されてる」彼は皆にそう伝えた。彼はその事実を名簿に書き込むつもりだった。彼は名前の挙がった五人の名前を消し、最後の二つの名前に向けて頭をかしげた。 「トロイ、どうだ、お前のチームに十九人抱えられるか?」と、彼は尋ねた。
「しょうがないな。やつらがベンチに座ってるのに飽きれば、二軍のチアリーダーでもやってればいい」ブロンド頭のコーチはそうのんびりと言って、周囲からうめき声のコーラスを集めた。
「なに言ってやがんだ」ジェイクはぶつぶつ言いながら、自分にはまた別に対処が必要なチアリーダーたちがいることを思い出した。時々彼は、単にあの時の女性と結婚して、彼女を惨めにしておけば、彼の人生は今よりずっとシンプルだったろうと考える。 「いいだろう」彼はしばらくリストを見つめた後、そう言った。 「俺たちのチームが決まったぞ」彼は、ちょっと驚いたような声でそう宣言した。なんだかあっという間に決まった。まるでそれを祝福するかのように、ドアベルが鳴った。
「おおう、僕が出る」ジョナサンは興奮して大声をあげ、ソファーから離れるため、実際にブランドンをよじ登った。
ブランドンはどう見ても膝蹴りを喰らったらしく、呻き、あえぎ声をあげた。 「くそっ、ジョナサン、気をつけろよ!」彼は、するどく息を吐いて、年下の男の太ももの後ろを叩いたが、ジョナサンはそのまま玄関へと続く廊下へと駆け出て行った。彼は目をくるっと回し、ちょっと体を動かして、ニヤニヤしているトロイを睨んだ。 「君も気をつけろよ、ライム坊や君」ブランドンは喉の奥で唸り声をあげた。
「なんだよ?」トロイは戸惑った様子で尋ねた。その顔に浮かんだ表情を見ただけでジェイクは思わず含み笑いをし、部屋を出て、皿を取りにキッチンへと向かった。
ため息をつき、ブランドンはソファの端に頭を乗せ、思いっきり体を伸ばして横たわった。彼は現在、もはや礼儀をわきまえてなどいられないくらいに疲れていた。それにトロイなんか、礼儀が近づいてきて尻を噛まれでもしなければ、礼儀なんてものを知らないってことは確かなのだ、なんでブランドンが気にする必要がある? ブランドンの無礼にジェイクがムカついたとしたら、彼は遠慮せずにそういうだろうし。 「やだやだ」彼は最終的にそう呟き、天井を見上げ、明日のことを考えた。
「チームのメンバーは掲示板に張り出す」ジェイクは、ブランドンの嫌悪の表情を、チームメンバー絞込みに対する考えの表明と受け取って、そう応えた。 「選手たちは、自分たちがメンバーに入ったかってことは朝の放送で知らされるんだ。俺たちは、ガキどもが打ちひしがれるところを見なくてすむ。臆病者の逃げ方ってやつだな」彼がそう認めた時、ジョナサンが二つの大きなピザを持って戻ってきた。ジェイクは皿を置き、全員に新しいビールを手渡した。
ブランドンはビールに目をやり、心から飲みたいと思った。でも、もし今晩ここに泊まることになったら―もうそれほど寝る時間もない、今や九時になろうとしているのだから―いつもよりもずっと早く起きて、家まで運転して帰り、着替えて、学校が始まる前の朝の補習のため、街へと車で戻って来なければならないってことになる。彼はため息をつき、ボトルをコーヒーテーブルに置いて、自分の皿に数切れのピザを取ると、再び座って、トロイとジョナサンのそれぞれのチームに対する計画についてのおしゃべりを聞きながら、食べ始めた。
ジェイクはコーヒーテーブルの前の床に腰を下ろし、箱からピザを一切れ掴んで、皿なんかには構わずに食べ始めた。 「もう飲まないのか?」彼は手付かずのビールをちらっと見て、ブランドンに聞いた。 「俺んちには寝室が4つと、ソファも腐るほどあるんだぞ」と、彼は半分本気で冗談を言った。トロイは時々、床を荒らしてやりたい気分になったらしい時には、床で寝ている。
「僕は、今晩どうしても運転して帰らなきゃならないんだ」ブランドンは口一杯にソーセージとペパローニを頬張りつつ、そう言った。 「もしここに泊まったら、とんでもなく早い時間に起きて、家に帰って、それからUターンしてまた街に戻ってこなきゃならない」
「お前な、俺にとっちゃ、家に帰らずここに泊まることをあきらめさせるほどの早起きなんて存在しないぜ」トロイはある種子供のような陽気さでそう表明する。 「お前んちまで車でどのくらいだ?」彼はしかめっ面で聞いた。
「マウンテンパークまでは、四十分弱だよ。暗くなってからだともっとかかる、鹿も沢山出るし」ブランドンはそう答えて、前に屈み、全部乗せピザを一切れ掴んで取った。 「もし泊まったとして、いつもどおりの時間に学校に間に合わせるためには、僕はここを午前三時に出発しなくちゃならない」
「なんだって?」ジョナサンは恐怖に慄いて聞いた。
「お前、毎朝何時に学校に着いてるんだ?」ジェイクは、自分で聞いておきながらその答えを知りたくもない、そんなことは彼の知ったことではないし、それに、ブランドンの喉を凝視するな! と自分に言い聞かせつつ尋ねた。
「六時ちょっと前」と、科学教師は低く呟いた。彼は視線を端から端へと動かし、三人の男たちが、様々な度合いの恐怖の表情を浮かべて彼を見つめているのを確認した。弁解なんかしないぞ、絶対…と思いつつ、「なんだよ?」と、彼はうっかり口を開いてしまった。
「なぜだ?」トロイは、いつもより少し甲高い声で断固として尋ねた。彼の口調は人類を代表して憤っているかのようだった。
ブランドンはピザを飲み込んだ。 「僕は、補習を受け持ってるから」彼は短くそう言って、体を少し動かし、片足を体の下に敷きこんだ。
「自分で進んでか?」トロイは同じ信じがたいという口調で尋ねた。
「うん、自分で進んでね」ブランドンは身構えるようにそう言い、攻撃に備えるかのように少し体をすくめた。
ジョナサンは眉をしかめた。 「そういうことをやらせるのに、フルタイムで人を雇ったっていうのを地区の回覧メモでよまなかったっけ?」ブランドンはきまり悪そうに肩をすくめた。皆にそれが無報酬の仕事だということを話すつもりはなかった。
ジェイクは目の前の男をじっと観察し、彼が少し自分の殻に引きこもり始めたのを見て取った。そんなことをする理由は全くないのにだ。そしてジェイクは、ブランドンが早朝に子供たちの勉強を手伝っているという事実について、皆で寄ってたかって彼に恥ずかしいことだと思わせるようなことをしている自分たちを彼はどう思っているのだろうと考えた。ある理由から、それは彼をちょっと苛立たせたが、それ以上に、居心地悪そうなブランドンのことが心配だった。 「去年の秋、俺たちが毎週末チームを引き連れて回ってたのと大した違いはないだろ」と、彼はトロイに静かに指摘した。
「まあ、そうだけど、でも早朝六時だぞ?」と、トロイは言った。 「それって拷問だぜ! 少なくとも俺たちが働いてたのは昼過ぎだ」
ジョナサンはブランドンとトロイを見て、そこに不穏な空気を見て取った。 「黙れ、トロイ。ブランドン、君、今はコーチの仕事を引き受けたわけだけど、これからも補習は続けるってことかい? それって、一日十二時間から十四時間も働くことになる、それも練習日の場合ってことだ。試合の時は―遠征だったら、まじで―時には午前一時まで帰れない時だってあるんだぜ」
ブランドンは再び顔を上げ、皆が彼の答えを待っているのに気づいた。 「子供たちは僕を必要としてる。それが補習だろうが、コーチの仕事だろうが関係ない。僕は子供たちのためにそこにいる」彼はそう静かに言った。しかし彼の声は断固としていた。
ジェイクは目の前の男をもうしばらく見つめた。彼はいまだにこの男のことを気に入っているのかどうか、決めかねていた。二人きりの時は気に入っている、しかし他人が周りにいる時に自分の殻に引きこもってしまうような不器用な様子を見ると―というか、ったく、ジェイクに対してすらそんな態度を取るやつだ―ジェイクはどう対処していいものかわからなくなる。彼の周りの人間は、常に、彼が気楽にしていて欲しいと思う時には気楽にしている人間ばかりだったから。 「お前がもしエネルギー切れになりそうだと思ったら、俺たちに知らせろ。遠征試合はサボってもいいから」ジェイクはそう静かに提案しながら、三本目のビールを開け、ごくごくと飲んだ。薬とビールがやっと効き始めたが、まだ足りない。
そんな風に仕事をサボったりするという考えは本当に嫌だったが、ブランドンはその事実については既にたっぷり心配していたことだったから、反論しなかった。少なくとも今のところは。 「覚えておくよ」と彼は言った。 「ありがとう」
トロイとジョナサンは意味ありげな様子でお互いを見やった。その後、一年生チームのコーチは甲高い声を出した。 「僕、テストの採点手伝えるよ」と、彼は申し出た。ブランドンは彼を眺め、片方の眉を上げた。トロイは低い声でぶつぶつ何事かを言った後、鼻の頭にしわを寄せた。 「俺だって手伝えるさ」と、彼は呟いた。それから彼は急に明るい顔になった。 「俺、スクールバスの座席で寝る最高の方法を実地で教えてやれるぜ」
ブランドンはあまりにびっくりして、言う言葉が見つからなかった。彼はこの男たちのことをほとんど知らないっていうのに、彼らときたら、こうして助けの手をさし伸ばしてくれている。自分をとんでもなく小さく感じる、まさにそんな感じだ。これがチームのメンバー同士の仲間意識っていうものなのだろうか? チーム仲間はいつだって協力し合うものだって言うのは、こういうことなのか? ブランドンが一度も経験したことのないことだった。
「それに坊主たちだって、お前がちょっとだけ信用してやれば、たぶん何かしらできると思うぞ」ジェイクは、完全なショック状態のブランドンには気づいた様子もなく、ピザに手を伸ばしながら追加した。
「あー」ブランドンは何と言っていいかわからないままだったが、「嬉しいよ」という言葉で落ち着いた。
ジョナサンは身を乗り出し、彼の肩を叩いた。 「ブランドン、君はもうチームの一員なんだ。俺たちはお互い面倒見合うもんなんだよ」
「それか、お前の下着を旗竿の天辺からぶらさげるか」と、トロイがにんまり笑って付け加えた。
ジェイクは呆れ顔で目をくるっと回し、何年も前、ライバルチームに勝利した祝いに、自分自身のボクサーショーツがぶら下げられたことを思い出した。 「俺たちはもうそういうことはしない」彼は目の前の男に保証した。 「この頃じゃ、どんな種類のいじめをやっても、チームから放り出されるからな」彼は殊の外、彼に向かって満面の笑みを見せているトロイに向かって言った。
「僕のライムたちに対して行われた、不快で自然に反する行為もいじめにカウントされる?」ブランドンは真面目を装ってそう尋ね、トロイを睨みつけた。ジョナサンが含み笑いをする。
「とにかく、そんなライムなんか捨てちまえ」ジェイクは素早くそう言って、イメージを払拭するかのように頭を振った。 「なあ、お前、そんなことばっかやってると、悪い評判が立つんだぞ」と、彼はトロイに向かって追加で言った。
「俺、自分の男らしさには自信あるもんね、巻き毛ちゃん」トロイはクスクス笑って言い返し、笑顔でコロナの残りを飲み干した。
ブランドンは思わず笑い出した。 「巻き毛ちゃん?」彼はジェイクの短く刈った髪を見た。
ジェイクは大っぴらに顔を赤くして、視線を下げたかと思うと、その場に座ったまま、なんと実際に言い訳をし始めた。 「俺の髪は、これ以上長くなると、カールし始めるんだ」と、彼は説明する。 「学生時代を覚えてるだろ。巻き毛ちゃんなんて、最高の悪口だぜ」彼が肩をすくめてブランドンを見上げると、トロイとジョナサンは大笑いした。
科学教師は頭を傾け、いたずらっぽい光をその目に浮かべ、軽く声を震わせて歌い始めた。 「サンダー、サンダー、サンダー、サンダーキャット!」
ジェイクがびくっと視線を上げ、完全に百八十度変わった彼の態度に驚き、信じれないという顔で目の前の男を見つめると、トロイは盛大に噴き出し、彼を指差して小さな少年のように全身で笑い続けた。ブランドンは大笑いしすぎて、ソファから落ちかけた。 「なんだい?」彼は笑いの合間に聞いた。 「あの歌、覚えてないのか?」
「俺、あれを覚えてるやつは全員脅して記憶喪失にさせたと思ってた」ジェイクがそんなことを口にすると、トロイはわき腹を押さえてソファの上で転げまわり、制御の効かない笑いの発作に襲われ始めた。
ブランドンは肩をすくめようとしたものの、単にもっとひどく笑い始めた。 「だったら、僕のことを見落としたんだね。まったく。あのフレーズは学校中を巡ってたんだ。トイレの壁にまで書かれていたんだから」ジョナサンとトロイは、そこでまた新たに一連の笑いの発作に取り込まれた。
ジェイクは居心地悪そうに体をもぞもぞさせた。 「なんでだよ?」彼は実際半泣き状態だった。フットボールの試合中の掛け声で、彼がどうしても理解できなかったのがまさにそれだった。なのにチアリーダーたちは、いくつかの試合でまで使っていたのだ。
ショックに目を見開き、ブランドンはただじっと彼を見つめた。 「君、理由がわからないっていうのかい? まったく、僕ですら理由はわかるよ。マンガがあっただろ? 『サンダーキャット』っていうさ? あのマンガのリーダーの若い男は、大きな声をとどろかせて、チームを戦いの勝利に導くんだ。あれって、賞賛の掛け声だったんだよ、フットボールコートにいる君へのね。今となっては、死ぬほどおかしいことだとしてもさ」
「マンガ?」ジェイクは疑わしそうにオウム返しで聞いた。彼は不満そうに息を吐き、より一層顔を赤くして、ビールを飲み干した。
「知らないの。今度、君のためにレンタルで借りてきてあげるよ」ブランドンはそう言って、頭を振った。 「とにかく、僕を信じてくれ。あれは賞賛の掛け声だった」彼は再び含み笑いをし、片足でジェイクの膝を軽く突いて、聞こえよがしの囁き声で言った。 「スピードボール君」
「わかった、もう思い出話は沢山だ!」ジェイクは大声を張り上げ、空中で両手を振って目を閉じた。 「なんてこった」と、彼は呻く。 「あの当時ですらこっぱずかしかったってのに、何年経っても余計にひどくなるだけだな」
ジョナサンとトロイは、笑いすぎでほとんど泣きそうになっていて、ブランドンはなんとか真面目な顔を保とうと唇を固く引き締めたものの、惨めにも敗北した。 「どれも、僕が昔呼ばれてたあだ名に比べたら比較にならないくらいマシだよ」科学教師は当然だという顔でそう指摘した。
「お前な、観覧席に満杯の人間からそれを叫ばれて初めて、本当の比較ってことになるんだからな」ジェイクはそう反論したものの、昔のいくつかの試合のことを思い出してさらに赤くなった。相手のチームが大笑いし始めるまでは、それほど悪くなかったのだ。もちろん、やつらが笑っていられたのも、試合でコテンパンに打ちのめされる前までだったが。 「ったく。しまいには対戦してる選手まで、俺をそう呼び始めやがったんだ」
トロイは鼻を鳴らして笑った。 「それでお前が余計に怒ったおかげで、俺たちはやつらをメッタメタにしてやったんだよな」ブランドンは、トロイがジェイクのワイドレシーバーだったことを覚えていた。このやりとりの間ずっと笑い続けていたジョナサンは立ち上がり、再びブランドンをよじ登ると、『サンダーキャット』のフレーズを口ずさみつつ、もっとビールを取りにキッチンへと向かった。
ジェイクは物騒に唸り、依然として盛大に赤面したまま体を丸め、その場の全員を睨みつけた。ブランドンは我慢できずに忍び笑いをもらしたものの、ジェイクに同情を表明した。 「ごめんよ」彼はそう呟いたものの、その顔は思いっきり笑顔だ。
「ろくでなしどもが」ジェイクはふてくされた様子で応答した。ったく、こういう思い出を掘り返されるのはこんなに恥ずかしいものか。なぜここまで恥ずかしいのか、彼にも判然としなかった。ひょっとしてそれは、この午後一杯ブランドンに劣情を抱き続けていたっていうのに、当のブランドンが昔の彼について覚えていたのは、馬鹿げたニックネームだけで、しかもそれを彼が大声で口にしたってことに、何かしらの関係があるのかもしれなかった。
ジョナサンは三本のボトルと、ブランドンのためにコーラを一本持って戻ってきて、皆にそれを手渡して回った。 「さあ」と、一年生のコーチが口を開く。 「他にも僕らが知っておくべき、美味しいゴシップ話が何かあるかな?」と、彼は尋ねた。
「ゴシップ? パークビュー高校のならいくつかあるけどな、でもお前、パークビューの職員知ってるのか?」トロイは中学校の教師に聞いた。ジョナサンはただニッと笑顔を見せた。 「よし」と、トロイは言った。彼は他の男たちを見回した。 「俺、ジェイソン・ビールズとタミー・パーカーが美術室の用具入れの中にいるところをレナータが見つけたって話を聞いたぜ」
「なんだ、俺は前にそいつらをロッカールームから追い出したことがあるぞ」ジェイクは頭をふりつつ笑い声をあげた。 「うっ」そこで彼は自分が今何を口にしたかに気づいて、声を上げた。 「そろそろ俺の口にガムテープを貼った方がよさそうだな」彼は呻いて、立ち上がると自分が飲んだ三本のビールの空き瓶をつかんだ。 「薬が効いてきた、じゃあな、お前ら」
「僕はもう行かないと」ブランドンは残念そうにそう言った。 「君たちここへ泊まるのかい?」彼はトロイとジョナサンに尋ねた。
「お前が乗っけてくれるなら、学校まで乗っけてもらう」トロイはうなずいて立ち上がると、柄にもない心配げな表情を浮かべて、キッチンへ入っていくジェイクを見つめた。
「僕も」ジョナサンはそう答え、ピザをまとめ始めた。
ブランドンはトロイの視線の先を追った。この二人は本当にいい友達なのだろうと彼は思った。金髪の男が常にふざけまわっているにも関わらず。そしてそんな彼が心配な顔をしているということは…、ブランドンは頭を振り、名簿をジェイクのダッフルに押し込むと、空き瓶を集めてキッチンへと運んだ。トロイとジョナサンも、それぞれピサの箱と瓶を数本手に彼の後に続く。ジェイクはビールを片手にキッチンカウンターに座り、両足をぶらぶらさせていて、トロイはピザをカウンターに置きながらクスクス笑った。
「なあ、俺たち試合の後、こんなことやってた夜が何回あったかな?」ブロンドの男は、突然神妙な顔に戻って、考えにふけった。彼はジョナサンとブランドンを笑顔で振り返った。 「毎週金曜の夜の試合の後、俺たちはここに溜まってたんだ。チームのほとんど半分くらいが来てた。学校のやつらは俺たちが外に繰り出して飲んだり、パーティーをやったりしてたと思っていたけど。でも俺たちはキャンベル家に来てたんだ。こいつの母さんが皆にフライドチキンを作ってくれてさ、俺たちは焚き火を囲んで一晩中裏庭にいたんだ。そん、時ビールなんてあったかな、俺、思い出せないや」彼は懐かしそうにジェイクにそう語った。
「あるもんか」ジェイクは「そんなもんがみつかったら、親父に俺たち全員尻の皮が剥けるほどひっぱたかれてた」彼は頭を振りながら笑った。 「ドリトスとゲータレードだ。神々から授かった食い物だ」
トロイは鼻を鳴らして笑い、ジェイクを指差して満面の笑みを浮かべた。 「アトランタのトーナメントから運転して帰った夜のこと覚えてるか?」彼は大笑いしながらそう尋ねた。ジェイクは笑顔になり、その夜のことを思い出して頭を振ったが、昔話に没頭してブランドンとジョナサンを置いてきぼりにしてしまったことを詫びるように視線を向けた。 「俺たちは土曜のトーナメントのために車でそこへ行ってたんだ」と、トロイが続けて二人に語り始める、 「で、そっからの帰り、ジェイクの車には俺たちと、あと二人のやつらが乗ってた。俺らはどっかのガソリンスタンドで停まって、腹をもたせるためスナックを買ったんだよな、それから皆で車に戻って、ジェイクは運転しながら自分の飲み物を袋に入れたまま飲み始めたんだ」
「ちなみに俺たちが買ったのは、ドリトスとドクターペッパーだ」と、ジェイクが口を挿む。
「するとあるおまわりが、こいつが運転しながら茶色の紙袋に入れたものを飲んでるのを目撃したわけだ、な? その警官は俺たちの車を停めさせた」トロイは笑いながら話を続けた。 「で、その警官、スポーツやってる人間になんらかの反感を持ってたんだろうな、なにしろすげえ勢いでキレ始めたんだ。俺たち全員まだユニフォームのままってのもあったし、警官はジェイクを車から降ろして線の上を歩かせた、だよな? こいつが酔っ払ってるとでもいうみたいにさ! それから警官は顔をくっつける勢いでジェイクのまん前に立つと、『坊主、俺に息を嗅がせてみろ』って言ったんだ。この時点で、残りの俺たちは車の中で死にそうだった、だってジェイクはその警官より余裕で一フィートはでかいっていうのに、そいつはやけにいきがってて、しかもジェイクはほとんど一日中ってくらいずーっとドリトスを食ってたんだ。ジェイクはこう言った、『俺の息なんかまじで嗅ぎたくないはずですよ』」トロイは、楽しそうな笑顔を浮かべているジェイクのことを指差しながら笑いすぎて話を続けられないくらいになった。 「それで、警官は余計いきり立った」トロイはほくそ笑みながら続けた。 「だからジェイクはただ肩をすくめて、皆さんご存知のドリトス臭い息をやつに思いっきりかけてやったんだ」トロイは甲高い笑い声をあげた。 「ったく、あれは笑えた」そう言って、彼は懐かしそうにくすくす笑う。
ブランドンは驚きに目を見張った。 「じゃ、君が逮捕されたっていう噂はその件が発端なんだね?」と、彼はジェイクに聞いた。
「たぶんな」ジェイクはちょっと笑顔を浮かべてのんびりと言った。 「俺がどんなに言っても、誰もそんなことはなかったって信じてくれなかったけどな」
ブランドンはただ頭を振り、時計を見て、身をすくめた。九時十五分だ。 「行かなきゃ。さ、みんな。バスが出発するぞ」彼はバックパックをとるためリビングに向かった。
ジェイクは黙り込んで、胸の奥の落ち込む感覚に浸った。これはやばい。この男におかしな気持ちを抱くなんてことはやっちゃいけない、ブランドン・バートレットは駄目だ、とにかく今は駄目だ、この先だって駄目だ。今の彼は、あの男を目にするたび見惚れてしまい、それからブランドンが誰かを自分自身に思い出させ、そんなことをする自分を責めるか、もしくはそもそもブランドンに見惚れたりした自分を責めることになるのだ。この状況にはイライラする、控えめにいっても。
ジョナサンがトイレに行ってくる、と声を上げると、トロイはブランドンの後に続いて歩き出しつつ、ジェイクの肩を叩いた。ブランドンは体をかがめてバックパックから鍵を探し、ジャージを肩にかけた。 「ねえ、ジェイク、このTシャツ洗って返したほうがいい?」彼はアンダーアーマーをバックパックに詰め込みながらそう声を上げた。
「いや、どうだっていいさ」ジェイクは微かに震えながらぶつぶつ言った。
ブランドンはゆっくりうなずき、ドア口に立っている男を見やった。 「また明日」と、彼は言った。
「おやすみ」と、ジェイクは言い、奇妙な顔つきでブランドンを見つめた。彼は、トロイが咳払いするとひどく驚いて、頭を下げ、少し顔を赤くした。 「俺、寝るわ」彼は、きまり悪そうな口調でそう付け加えた。
トロイは横目で彼を見て、うなずいた。 「おやすみ」と、彼は言い、ドア口に佇んで皆を見送っているヘッドコーチを一人残して、他の二人に続いて車に向かった。
「コーチって今、何錠くらいあの薬飲んでるの?」と、ジョナサンがトロイと一緒に歩きながら低い声で尋ねた。
「あの薬は単なる関節炎用タイレノールだ」と、トロイは肩をすくめて答えた。 「ヤツがおかしな態度をとってたのは、薬品のせいじゃない」
「処方薬の瓶に入った関節炎用タイレノール?」車に乗り込みつつ、ブランドンは静かにそう質問した。
トロイは一瞬口をつぐんで考え込んだ。「あの瓶のことは聞いたことないな」と、その後彼は答えた。
彼らは赤信号で停まるまで黙り込んでいたが、ブランドンはふと、ジョナサンが変わった質問をしていたことを思い出した。 「ジョナサン、ロッカールーム係がどうとかって、あれ、なんだい?」
「あー」話題が変わったことに明らかにほっとした様子で、ジョナサンがそう返事の声を出した。 「えーっと、僕ら試合の前はいつも見回りをやってるんだよ。興奮状態の選手たちが行き過ぎたことをしないようにさ」
「って、つまり?」ブランドンはさらに追及した、どういうことが起こるのか、心の準備をしておきたかった。
「つまり、試合の前も勝った後も、あいつら少し気持ちが高ぶってるってことさ。だから、あいつらの冗談とか、いたずらとか、ふざけてひっぱたき合ったり、くすぐり合ったり、なんていうのが手に負えなくなったりしないようにするってことさ」と、トロイは言った。
「ふざけてひっぱたき合ったり、くすぐり合ったり?」ブランドンは驚きあきれてそう聞いた。高校のロッカールームで?
トロイは単に肩をすくめただけで、彼もジョナサンもそれを特別奇妙だとは感じていないようだった。 「大抵の場合、僕らがロッカールームにいるだけで効果があるんだ」ジョナサンはそう付け加えた。 「僕らの存在があの子らを落ち着かせるんだよね」
ブランドンは頭にぽんっと浮かんできた様々な質問を飲み込み、ジェッタを駐車場に乗り入れ、ジョナサンの車のところで停まった。 「皆、また明日」と彼は呟いた。
「乗せてもらってありがとう」ジョナサンはそう応えて、後部座席からすべり出た。
トロイはドアハンドルに手をかけ、ジョナサンが自分の車へとのんびり歩いていくのを眺めながら、ちょっとの間、助手席に座ったままでいた。 「あの処方薬だけどな」と、彼はついにゆっくりと話し始めた。 「あれのおかげで、やつはあれ以上の馬鹿なことをせずにもってるんだ」
彼はブランドンがこれまで見たことのない真面目な顔をしていた。 「君って、彼のことをとてもよく知ってるんだ。そうだよな?」と、科学教師は尋ねた。
「ああ」トロイは頭をひょいっと動かし、顎を引き締めてそう答えた。
ブランドンはゆっくりとうなずいた。 「わかった」と、彼は静かに言った。それ以上追求するつもりはなかった。ちゃんと事情をトロイが把握しているというのなら。
トロイは、もっと何か言いたい様子でもう少しそのままでいたが、しまいに彼はドアのハンドルを引き、ドアをゆっくりと押し開けた。 「乗せてもらってありがとな」彼はそう静かに言って、車を降り、芝の中に停めてあるゴルフカートに向かって歩き出した。
ブランドンは家への帰り道の間中、トロイの顔に浮かんだ表情のことを考え続けた。
***
ひょっとしたら、もう少し続きを投稿するかもしれません。
だってこの後が…!もごもごもご…。
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