2011年9月20日火曜日

Caught Running 第三章

どうしても、Jake と Brandon がもうちょっと仲良しになるところまで、ご紹介したい!



ので、ちょっと大丈夫なのぉ…???と、我ながら少々びびりつつ、続きを投稿させていただきます。



どうぞ、引き続き、息を潜めて、こっそり読んでいただければと思います。




『Caught Running』






第三章




科学教師は三塁線のところのフェンスにジョナサンと並んで寄りかかっていた。年下の男は、入部適性トライアウトでジェイクが実施しているいくつかの基礎練習の根拠について深く考え込んでいる。昨日から今日にかけ、大体四人が不合格となっていたが、それは、一年生コーチによると、予想よりも少なかったのだそうだ。

グランドでのジェイクは力そのものだった。ハンサムボーイのトロイでさえ、ジェイクの圧倒的な個性の前では影が薄らいだし、ブランドンはヘッドコーチの中に皆から人気のある学園祭のキングの姿を容易に見て取ることができた。しかし今やその魅力は、自分に自信を持ち、その自信を行使することをためらわない男へと姿を変えていた。またもやブランドンは仕事上の関与を超えて湧き出した興味の瞬きを抑えつけた。彼は、そんな感情の発露を抑えつけ、絶対に日の目を見させるようなことはさせないと心に決めていた。

ジョナサンが、自分がやると申し出てくれたのだが、今日もブランドンは走り込みを担当した。彼はジェイクの夕べの痛みを覚えていたし、ヘッドコーチに走らせるようなことはさせたくなかったのだ。今回は二人ではなく、三人に振り切られてしまったが、その差は半歩となかった。公園での練習に、ダッシュの練習を少し取り入れるべきなのかもしれない。

ジョナサンからサイドステップの練習をしている生徒たちを見るよう指摘され、生徒たちの努力を観察する間に、ブランドンは、サイドステップに関係するバランスに長けた生徒は多くないことを見て取った。そこへジェイクの厳しい声が浴びせられれば、尚更バランスを崩すことになる。

「お前らグローブすらはめてないんだぞ!」とジェイクが怒鳴る。「まともに立ってもいられないで、どうやって打球をさばくつもりだ?」彼は、複雑な基礎練習を行う少年たちの列の間を歩きながら、そう問いかける。この練習を行う最大にして最も重要な理由は、生徒たちの筋肉に記憶として染み込ませることにより、もっとも効果的なターンの仕方や走り方を教え込むことだった。しかしそれはまた、ベース間を上手く走る訓練ともなり、昨日の練習をすり抜けた雑草を引き抜く手段にもなるという二つの意味も備えている。

「足を上げろ!」トロイが選手たちの列の反対側から声を張り上げた。二人はタッグを組んで、ハゲワシのように子供たちの周りを周回しながら、生徒たちを威嚇する。ジェイクは、他のコーチたちが子供たちに励ましの声をかけているフェンスの辺りに視線を投げ、善玉悪玉に分かれて取調べを行う刑事たちのように、実に上手く機能するコーチングスタッフが揃ったものだと考えた。彼は、ちらっと視線の端にブランドンの姿をみとめた。ジョナサンの隣に立ち、二人で何かを囁きあっている。彼はそんな二人の姿に気を散らされる前に視線をそらせた。彼は夕べブランドンに語ったことの一部を思い出した。おそらくはどんな相手であっても語るべきではなかったことで、彼はその記憶に少し顔を赤くした。彼が自分のプライベートを公にしないと決めているのには理由がある。そしてブランドンという男に対し突然湧いたこの興味は、いいこととは言えない。



「うーん、僕も初めてやるとしてそう上手くできるかはわからない。でも僕は、バランス感覚はかなり良い方だから」とブランドンは言った。彼は視線を上げ、ジェイクが彼ら二人に視線を投げ、それから子供たちの方へ視線を戻したのを目にした。「僕らも何かした方がいいのかな?」

「いや、基礎練習が終わるまで待つ、じゃないと邪魔になるだけだから」ジョナサンは手を振って答えた。「で、ガキどもを観察するんだ。群れの中から一番弱いのを見つけ出す、ま、そういうことをするわけ」

ブランドンは、夕べ集めた情報に今目にしていることを併せながら、ゆっくりうなずいた。ふと思いついて、彼は夕べ思いついたことを小さなポケットサイズのノートに書き留めておいたのだ、そのノートは今、尻ポケットに入れてある。「君は学生時代、野球をやってたのか?」と、彼は尋ねた。

「うん、ここ、パークビュー高校でね。ジェイクが四年の時、僕は一年だったんだ」ジョナサンは、太陽の日差しに目を細めながら、一つうなずいてそう答えた。「時々、僕らのコーチは練習を止めさせて、勉強のために代表チームを観察させたんだよ」彼はそう言って笑った。「まったく、彼らはとんでもない才能の集まりだったな。チャンスさえあったら、あの人たちの何人かは凄いキャリアに進んでたと思うんだけど」彼は、ジェイクが倒れこんだ生徒のところへ大またで近づき、その子のベルトを掴んで体ごと地面から掴みあげるのを見ながら、考えに耽った。

少年の顔に浮かんだ恐怖の表情を見て、笑いを噛み殺しながら、ブランドンは隣の男に向き直った。「君が、この学校に通ってたなんて知らなかった。長い間には、いったいどれだけの人間が戻って来てるんだろうな」彼は数えてみようとした。戻ってきてまた移っていく人間もいた、特に彼が勤め始めた最初の数年間には、ここで教育実習をして、その後もっと大きくて、もっと金のあるアトランタや、時には州外の学校へと向かう人間が大勢いた。

「大学で挫折した人間が戻ってくるのかもな」ジョナサンはあえてジェイクを目顔で指しながらそう言った。



「次に倒れこんだやつが出たら、全員グランド一周だぞ」ジェイクは、掴んだ生徒を列に投げ戻して大声を出すと、徘徊を再開した。基礎練習はそれからさらに一分ほど続き、これ以上やれば子供たちがバタバタと倒れ始め、もう起き上がれなくなるだろうという、まさにその直前、ジェイクは止めの声をかけた。「水を飲んで来い!」彼はそう命令し、フェンスのところへ戻ってきた。彼の背後では、何人かの生徒が文字通り這ってベンチに向かっている。

ブランドンはジョナサンのコメントに一瞬ショックを受けたが、ジョナサンはスポーツのことを言っているのだと気づいた。ジェイクは教員免許の資格を取らなければならなくなったかもしれないが、スポーツができなくなったからといって、それで彼がおしまいということにはならない。膝の故障の意味が、より納得できるようになってきた。そして、なぜジェイクがここにいて、どこかのプロ野球チームにいないのかということも。そこで彼は、打ち合わせがあるという話を思い出した。彼はジェイクが近づいてくるのを見て、少し姿勢を正し、ノートを取り出していくつかメモを書くと、数人の選手の背番号を確認した。

ジェイクは小さなノートをいぶかしげに見て、もの問いたげに片方の眉を上げ、フェンスのところに来てフェンスに寄りかかった。「あのチビはお前のチームの先頭打者になるぞ、俺が保証する」彼は身長がやっと五フィートちょっとという一年生に顎をしゃくって見せながら、ジョナサンにそう言った。「ショートだな」

ジョナサンはうなずいた。それは別の中学校から入ってきた子で、彼が知らない生徒の一人だった。しかし、ジェイクが認めた才能は、彼の目にもはっきりと映っていた。

「見ていて何か気づいたことは?」トロイがうるさい足音を立てて、弾むように駆け寄って来ると、ジェイクはブランドンを会話に招き入れた。

ブランドンは自分の殴り書きを眺めた。「ジャックは走りが速い、エヴァンもだね」彼は二人の三年生の名前を挙げた。「ジミーは凄く足が速いとか、走りに向いてるってわけじゃないけど、安定してる。一塁、かな。で、外野にいる三年、彼は持久力がある。視力がどうかはわからないけどね」彼は視線を上げ、三人が揃って彼をじっと見つめていることに気づき、もじもじし始めた。「なんだい?」本日、もう数え切れないくらいになるが、彼はそう尋ねた。

ジェイクは笑いを噛み殺し、首を振った。「いいだろう、ってことで」彼は質問に答えることなくそう応えた。「やつらを仕分けるか」彼はフェンスから離れつつそう指示し、命令を怒鳴り始めた。

「あれがどういうことなのか、知りたくないような気もするんだけど?」グランドに戻っていく代表チームのコーチの後に続いて、他のコーチと一緒に歩きながら、科学教師はそう低く呟いた。

「わからなくてもいいんじゃないかな」ジョナサンは笑って頭を振った。

子供たちは、重い足取りながら従順にグランドへ出てきて、昨日と同じ基礎練習に取り組み始めた。ジェイクは、日が沈み始めるまでその練習を続けさせ、そこで練習の終わりを告げると、生徒たちは用具を片付け始めた。

「誰かが金を払って野球をしてくれと頼みにくるまでは、お前ら、自分の道具は自分で片付るんだ!」ジェイクは監視しながらそう怒鳴った。「もし誰かに仕事を押し付けるのが俺の目にとまったら、俺が特別に仕事を作ってやるぞ!」

ブランドンは三塁ベースの近くに立ち、子供たちがあちこち動き回るのを見ていた。全く、あの子たちを見ているだけで疲れる。じきにグランドはきれいになり、彼はホームベースへと歩いて、他のコーチと合流した。

「明日からリスト作りに取り掛かる」ジェイクは、彼の周りに集まったコーチたちにそう告げた。辺りはどんどん暗くなり始めており、彼はきちんと片付いたかを確認するためグランドを見回した。「金曜までには、チームを決める。まあ、そんなところか?」他のコーチたちが従順にうなずくのを目にして、ジェイクは目をくるっと回しかけた。「また明日」ジェイクは、コーチ陣にそう告げ、一人の大学生の背中をばしっと叩いて前によろめかせると、ゲートへ歩き出した。

ジョナサンからバイバイと手を振られたブランドンは、それに一つうなずくと、彼自身も体育館へと歩いて戻り始めた。トロイはゴルフカートに乗り込み、うなりをあげて走り去った―一体全体彼はどこであんなものを手に入れて、ジェイクはその乗り入れを許しているのだろう? ―そんなことを考えつつ、生物教師は薄暗がりの中、気づけば駐車場を抜けて歩いていた。そこは静かでひんやりとしていて、彼は少し身震いした。

ジェイクは入り口近くの階段にどさっと腰を下ろし、スパイクを脱いでスニーカーに履き替え、再びゆっくりと立ち上がると、重たい用具バッグを肩に担ぎ、他のコーチたちが帰っていくのを眺めた。彼は、その時点で自分が何を考えているのかもはっきりしないまま、ブランドンをしばらく見つめた。ブランドンに対して湧いた感情の意味がつかめないという今の状況にはイライラさせられる。彼はその場に立ってストレッチをした。彼の長身が優雅にアーチを描く。それから彼は家まで歩いて帰るため、道路に向かいかけた。

その時突然、ブランドンが甲高い声を響かせた。「もう家に帰れるのかい? コーチ」彼は、コンクリートの上で、カチッとスパイクを鳴らして立ち止まり、なんということもない口調でそう尋ねた。ジェイクは体を回して、男を見返した。「ああ」と、彼は答えを返した。「道っ端でトロイをハイジャックして、やつのゴルフカートを盗んでやろうと企んでる」と彼はまじめな顔で言う。「仮にあんなもんでハネられたとしても、大したダメージも受けないだろうしな」と、小さく笑う。

ブランドンは鼻にしわを寄せて笑った。「一体、なんで君は彼にあんな非常識なものの乗り入れを許してるんだい?」と彼は聞いた。

ジェイクは芝の上から出て、駐車場へとぶらぶら戻ってきた。「あいつはあれで通勤してるんだ」と、ニヤニヤ笑いながら答える。「やつは、向こう側の一マイルくらいのところに住んでる」と、彼は自分の家とは反対の方向を指差した。「あいつはせこくて、ぐうたらってことだな。それに恥知らずと抜け目がないってのを足したら、恐ろしい組み合わせになる」

思わず笑い声をたて、ブランドンはただ頭を振った。「それって、とんでもないことだよ」とコメントし、目を躍らせる。

ジェイクは微かに笑みを浮かべてうなずき、これから歩いていく道路の暗がりを見やった。それは興味深い感情の混合だった。早く家に帰り着きたいという気持ちが、これまで全く関わりもなかった男と話し続けていたいという気になる感情と同居しているのだ。まあ、そんな窮状を解決するのに、簡単な方法が一つあった。「なあ、お前さえよければ、家まで乗せていくっていうお前の申し出を受けてもいいんだがな」彼は、もう一度ブランドンをちらっと見て、そう言った。「日もずいぶん短くなったし」

「構わないよ」ブランドンはあっさりとそう答え、ドアのところで立ち止まった。「ただ、僕は荷物を取って、靴を履き替えなきゃならないけど。すぐに戻るから」硬い床で靴をカチカチ鳴らしつつ、彼はすばやく校舎に入っていった。

ジェイクは静かにうめき、大きな体をドスンと階段に落として、そこに腰掛けて待った。実際問題、もう車で通勤せざるを得なくなるだろう。朝、歩きたい気分だったからといって、十二時間後に同じ気持ちだとは限らないのだ。

ブランドンは二分ほどで、外に出てきた。「僕、今日はこっち側に車を停めたんだ」彼はそう言って、駐車場の中ほどにある車を指差した。「その方が夜、楽になるんじゃないかと思ってさ」彼はジェイクに立ち上がる手助けのための手を差し出した。

ジェイクは、何のためらいもなくその手を掴み、男に引っ張ってもらいながら、小さなうめき声を上げて立ち上がった。「俺ももう年だな」彼は素直な気持ちでそう不平をもらし、ブランドンと並んで車へと歩き出した。

ブランドンは笑い声をあげた。「昨日、君、僕らは老いぼれてないって言ったじゃないか!」と指摘する。

「老いぼれたのは俺のある一部分だけってことで、それだけだ」ジェイクは言い訳がましくそう答え、笑顔で用具バックをぐいっと引き上げた。

「気持ちだけは若いっていうのは、ありふれた言い草だけど、それも一理あると思うな」ブランドンはそう言い、ジェッタの近くまで来ると、車の鍵を探してバックパックに手を突っ込んだ。「とにかく君にとってはね」

「おう、そうか?」ジェイクはちょっと面白がって尋ねた。「どうしてそう思う?」

「君に当てはまるってこと?」ブランドンは、リモコンで鍵を開け、バックパックを後部座席に投げ入れた。「君は、スポーツを愛してる。胸躍る試合をね。君は情熱を持ち続けてる。時にはうんざりすることがあったとしても、夜、痛みに耐えていても、君はそれでもスポーツが大好きなんだ」

ジェイクは暗闇の中で顔が赤くなるのを感じ、咳払いして後部座席のドアを開いた。「ああ、まあな、そうだな」彼は呟きでそう答え、自分のバッグを投げ入れると、ドアを閉じた。

ブランドンは、ジェイクが少し照れているのに気づいて、ちょっと微笑んだ。なので、彼はそれ以上追及することなく、車に乗り込んだ。すぐに彼らは出発し、ジェイクの家へと向かった。朝、彼が付けっぱなしにしていたラジオからは、静かにクラッシックロックが流れていた。ジェイクはこんな風な静かなドライブ中、何を話していいものかわからなかった。何か話すべきだとは思うのだが、気楽に会話できるほど、相手の男を知らないことに気づいていた。彼らは本当の意味では、共通の仕事さえしていないのだ。二人とも確かに教師ではあるが、種類が違う。彼は脳みそを絞って何とか話題を探した。「あー、お前、昨日より前からジョナサンと知り合いだったのか?」彼が、ついに口にしたのがその質問だった。

「ううん、知らなかった。彼は、僕もパークビューに通ってたってことすら知らないんじゃないかな」とブランドンは答え、昨晩と同じ信号で停止した。「彼は君の名前を知ってたって言ってたよ。君の事を尊敬してたってさ」と、彼はちょっとからかった。

ジェイクはもっと顔を赤くして、唇を噛んだ。「そうだな」彼はそう同意して、窓の外に視線を投げた。多くの人間が彼を尊敬していた。誰を差し置いても、彼こそ大物になると考えていた。フットボールと野球の奨学金をもらい、メジャーリーグとNFLのチームからスカウトされ。

でもその代わりに、彼はここにいる。

笑顔を浮かべ、ブランドンはそこで話をやめた。それ以上、ジェイクを突いて、ちょっと面白がらせる代わりに、不快な気分にさせたくはなかった。彼は交差点をすぎ、一分もしないうちにドライブウェイに乗り入れ、車を停めた。「練習の前に聞くつもりだったんだけど」ブランドンは静かに口を開いた。「君の足、今日は調子が良くなったかなって」

「まあな」ジェイクは自動的に返答した。「リフトパッドをまた靴に突っ込みさえすれば、足首の問題は解決なんだ。気を遣ってもらってありがとな」と、彼は素直な気持ちで付け加えた。

「よかった」ブランドンは一つうなずいて答え、それっきり何も言うことがなくなった。彼はその場に座ったまま、頭をひねり、なんとかして何か言うことを探そうとしたが、どうしてそんな風に思ったのかはわからなかった。でも、実際は違う、その理由ははっきりとわかっていた。ただ、それを認めたくなかっただけだ。

「ビールと飯を勧めてもいいんだが、…」ジェイクはブランドンに顔を向け、微かな笑顔を見せた。「午後の三時をすぎると、俺は、一緒にいて楽しい相手じゃなくなるからな」

ブランドンは笑いを抑え込むため、唇を引き締めた。笑いの発作が治まると、彼は口を開き、「夕べの君はよかったよ」と、どちらかといえば平坦な口調で言った。とはいえ、彼は理解していた。夕べは例外だったのだ。今は立ち去るべきだ。やるべきことも山ほどあるのだし。「おやすみ」と、彼はつぶやき、影になった男の顔をちらっと見た。

ジェイクは少し笑って、「俺は、いつだって、夕べはよかったって言われるタイプなんだ」と、言いつつ、ブランドンを肘で突きながらかろうじて吹き出すのを堪えた。「また明日な。乗せてもらってありがとう」

ジェイクの切り返しに首を振り、ブランドンは片手を挙げてひらひらと振った。「じゃあね」そう、彼は静かに言い、この奇妙でむずがゆいような感情はしっかりとしまい込んで、現実の世界に戻れ、と自分に言い聞かせた。彼は車のギアをバックに入れた。

ジェイクは手を振って、車から離れ、それから片足で小さく一歩跳んで、車の屋根をバンッと叩き、身を乗り出してドアを開けると頭を車内に突っ込んだ。「コーチの飲み会は明日だ」と彼はブランドンに言った。「練習の後、ここに集合する。ピザに、ビールに、またビール…ってやつだが」

ブランドンはジェイクに車を叩かれて、びくっとしたが、彼の話が終わる頃には、どきどきも治まった。彼は、ほんのちょっとだけ笑顔を浮かべずにはいられなかった。「僕もコーチなんだから、僕も招待されてるってことだよな。何か持ってきた方がいいのかな?」

「ビールとかチップスとかに、特別こだわりの銘柄があるならな。まじで、単なる飲んだくれるための言い訳なんだ。ただし、ジーマとかそんなナメたもんを持ってきやがったら、ぶん殴る」ジェイクはそうからかって、ウィンクした。

ブランドンの顔に浮かんだ表情は、所謂、無言の恐怖というヤツだった。「ジョナサンがそれをやったなんて言わないでくれよ」

「いや、トロイだ」ジェイクは声を上げて笑い、車に寄りかかってドア越しに覗き込みながら、車内の男に満面の笑みを見せた。

「全くもう。あいつ学校はどこだったんだろう? 工科大でそんなものを飲んでるところを見つかったら、七十五号線のハイウェイの高架から投げ落とされかねないよ」ブランドンはまだ身をすくめたままそう言った。

「やつは、冗談だって言い張ってたけどな」ジェイクはくすくす笑った。「ヤツは単にクローゼットに隠れたオカマなんだと思うぜ」彼は肩を揺らして笑い、頭を振って体を起こし、その手でもう一度車を叩いた。「また明日な」彼はその声に笑いをにじませてそう言い、体を翻して玄関に向かった。

その場に固まったまま、ブランドンはジェイクが階段を上っていくのをただ見ていた、コーチに今現在の顔を見られなくて良かったと強く思った、なぜなら、見られたくないと思うあらゆることが、今の彼の顔全体に、確実に書いてあるだろうから。クローゼットに隠れたオカマ。くそっ。ブランドンは髪に指を通し、ドライブウェイから車を出した。ジェイクが今口にしたことを、いくらかでも愛情を込めた、からかうような気持ちで言ったのであることを心から願った。汚いものから目をそらすような気持ちからではなくて。

ブランドンは、そんな声をもう一生分も聞かされてきていたから。



「おはようございます、バートレット先生」翌朝、元気のいい小柄なチアリーダの子があいさつしてきた。「おはようっす、コーチ」彼女と一緒に歩いてきた少年がそう言いつつ、ブランドンに敬意を払って会釈をし、笑顔でそれぞれの席に向かっていく。

「ケイティ」ブランドンは、上の空でそう言いつつ、彼女の名前を名簿でチェックしたが、ジミーの挨拶には不意を突かれて、彼は思わず顔を上げた。眼鏡を押し上げて、体裁を整えなおす。「あー、おはよう、ジミー」

「おはようっす、コーチ」ほぼ同時にまたもう一つ挨拶が飛んできて、それに続いてパラパラと別の挨拶の声がいくつか、子供たちが列をなして入ってくるのと一緒に飛んできた。一日の最初の授業というのは、大抵の場合、疲れた様子の子供たちが、思い足を引きずって教室に入ってきて、うめき声と共にどさっと椅子に座り込む様子を目にするものだ。なのに、昨日までの二日間に野球部のトライアウトに参加していた少年たちは一人残らず、その朝、快活と言ってもいいくらいの態度でブランドンに挨拶した。

目をぱちくりさせ、そこで彼は、選手たちは授業を休まない、と、ジェイクが話していたことを思い出して、出席簿に目を落とし、コーチの言葉が正しいことを認めざるを得ないことになった。彼ら全員、欠席なしだったのだ。心地よい驚きとともに、ブランドンは教室の端にあるデスクへと移動し、この時間の指導目録を手にした。「さて、四つのグループに分かれてくれ。それから各グループごとにいくつか机をくっつけてくれるかな。今日は対話式の課題を行うことになるから」ブランドンが確実にいい手応えを感じるのは、こうした、教科書を離れた課題について、生徒たちが一緒に作業をするという活動だった。彼は個人的に、生徒たちは、見たり聞いたりすることよりも、実際に行動することによって、多くを学び取ると感じていた。そんなことを考えながら、彼は、お絵描き連想ゲームの生物用語版を始めさせ、生徒たちが取り組む様子に聞き入った。

一時限目の授業が始まると、ドアの近くのスピーカーから朝のお知らせが流れはじめた。放送の声がいつもの連絡事項をだらだらと読みあげ始めたが、声の主は明らかにこんなことは誰も聞いてないと承知しているようだった。最後には、こんな連絡があった、「それからキャンベル・コーチから全校生徒に覚えておいて欲しいことの連絡です。今度誰かロッカールームの天井に、濡らしたトイレットペーパーを丸めて投げてるところを見つけたら、そいつは…、待って、これって放送で言っていいんですか? 言っても大丈夫か、わからないんですけど」咳払いの音と、判別できないくぐもった声の後、放送を担当する生徒が続けた。「とにかく、そういうことはやめてください、これだけは信じたほうがいいです」

クラスの何人かの男子たちが声を殺して笑いつつ、何とか大きな声を出さないよう頑張っていたが、彼らのコーチが使う脅し文句は明らかにお馴染みのものであるようだった。ブランドンは眉をつり上げた。ジェイクが言いそうなことは、彼にも想像がつく。頭を振り、彼は小さく笑うと、シンシアの頭を軽く叩いて、屑籠を指差してガムを捨てるよう無言で伝えた。トロイが、最後の言葉をそのまま読み続けられるような上級生を見つけられなかったのは残念だ。もしそうなれば午前中一杯楽しい気分に浸れただろうに。

歩き回っている間、ブランドンは野球部の子の一人が絵を描くのに苦労しているのに気づいた。右手の代わりに左手を使っている。彼がそのことについて何か言おうと口を開いた時、その子の右手が目に入った。彼の指にはテーピングが巻かれている。教師は、邪魔をしたくなくて、口にしようとしていたコメントを取りやめ、そのまま観察した。その少年のペン使いは、確かにぎこちなかったが、その子はやり遂げ、他の生徒たちはきちんと答えを当てることができた。ブランドンは笑顔を浮かべ、その子の肩をポンッと叩いた。「よくできました」と、小声で言って、次のグループへと移っていった。

「ありがと、コーチ」と少年は自動的に答えた。

ブランドンのその日の他の授業も似たような感じで過ぎていった。三時限目、膝を固定する支持具をつけているため、片足を伸ばして座らなければならないチアリーダの子がいた。四時限目には、手首を固定しているソフトボール部の選手がいた。五時限目には、片目に青あざをつけているラクロスの選手がいた。教師はどうやってこれまでこうしたことの全てを見逃すことができたのか、理解に苦しんだ。全ては、彼の目の前にあったっていうのに。彼が生徒たちのことを良く思っていないとか、注意を払っていなかった、ということではない、単に彼は子供たちの怪我や、その子たちがその怪我にどう対処していたのかに、気づかなかったのだ。その事実を知った今、彼は心から自分を恥じた。六時限目が始まる九分前、書類やファイルをバックパックに詰め込み、デスクの下からダッフルバックを引っ張り出すと、体育館へと、そして『愛すべき』保健のクラスへと向かった。彼は、生徒たちが嫌がって逃げ出したがるに違いない解剖学の勉強に対し、いくつか計画があった。それに彼はまだ生徒たちとの間になんとか親密な関係を築こうと努力しているところで、ちょっとした楽しみを授業に挿むのも、長い目で見れば、生徒たちとの関係の向上に貢献する材料になるかもしれないと考えたのだ。彼は、ベルが鳴るほんの数分前に、体育施設棟にある教室に辿りついた。

体育館と、ロッカールームや職員のオフィス、そして教室を繋ぐ迷路のような廊下のどこかから、怒りに満ちた怒鳴り声がタイルにこだまし、開いたいくつものドアを通り抜けて響いてきた。その声は、駆け足の音と一緒に次第にはっきりと聞こえてくる。「隠れていた獲物がついに姿を現したようだな」廊下に立ち尽くしているブランドンに愉快そうな声が届いた。科学教師は振り返り、廊下の薄暗い一角の壁に学内在駐警察官が寄りかかっているのを目にした。彼が身につけている手錠と銃は、校内の廊下で、冗談抜きに場違いだった。再び叫び声が響き、どこかでドアを激しく叩きつける音がした。「やつは、何週間も、あの子ネズミどもを追い回してたんだ」と、警察官は笑い声をたてて言った。

「一体、なにごとですか?」ブランドンは、生徒たちが彼の横を抜けて教室に入っていく中、教室の外に立ち止まって尋ねた。

「ロッカールームにたむろしてるガキどもがいるだろ、ああいったやつらだよ」と、学内警察官は答えた。「ったく、やつらにとっちゃ、俺なんかよりも、よっぽどキャンベルの方が恐いんだからな」彼は静かに笑って、ペプシの缶を口元に持っていくと、慎重にタバコをその中に吐き出す。

ブランドンは思わず笑顔になった。「ああ、わかりますよ。僕もそうだから」と、彼は言った。二人の生徒が両開きのドアを飛び出してきて、彼らの前を通り過ぎ、本校舎へと続く屋根つきの渡り廊下の方へ全速力で走り去っていくと、彼の笑顔はさらに大きくなった。

学内警察官は、子供たちが彼の目の前を飛ぶように走り抜け、その少し後、再びドアが開いて、ジェイクが大またに歩き出してくるのを見て、大きな笑い声をあげた。「くそガキども」と、ジェイクは唸り声を上げ、周囲を見回して初めて、その場に他にも人がいたことに気づいた。「この次は、やつらを撃ってくれ、誰にも内緒にしとくから」と、彼は警察官に息巻いた。ブランドンと学内警察官は顔を見合わせ、二人揃って大笑いした。「うるせえよ!」ジェイクは不機嫌にそう言って、別の両開きドアを押し開け、広い体育館に入っていく。「てめえら、そのヘリから降りやがれ!」彼の背後でドアが閉まる瞬間、彼は突然そう地鳴りのような声を響かせた。

二人の男はそのままベルが鳴るまで笑い続けた。「野獣の館にようこそ」学内警察官はそう言って、ぶらぶらと歩き去った。ブランドンは笑顔のまま教室に入り、出席簿を取り上げだ。なんて騒ぎだ。デスクの前の角に腰掛け、彼は仕事に取り掛かった。まだ生徒たちの名前と顔を一致しきれていないのだ。

「紳士淑女のみんな。そしてロドニー」ブランドンは、窓の外をじっと見つめている一人の生徒を呼び戻した。生徒が慌てて前を向くと他の生徒たちが忍び笑いをもらす。「今日、僕らは人体の構造について勉強します」

このニュースへの返答として、笑い声や口笛が飛んだ。この騒々しいクラスで唯一大人しくしていたのは、ブランドンに対してしきりに睫毛をパチパチさせる女の子たち数人と、野球部のトライアウトに参加して、ブランドンのことをコーチだと認識している男子二人だけだった。

「いいだろう。誰か、宿題として言っておいた、このページの予習をしてきた子はいるかな? ほんの5ページだけど」と、彼は催促した。「やってきたという子は手を上げて」

数人が手を上げ、何人かは咳払いした。「絵は見たぜ!」と、一人の子が生意気な口調で申し出た。

ブランドンは手招きでその生意気君を教室の前に呼び寄せた。「君の名前は? ラリー・ウォレス? よし」彼は、手を上げている数人に視線を戻し、大人しくしていた女の子の一人を選んだ。「ここへ来てくれるかい、メリッサ。今回の課題の目的は、正しい名前を使って、体のパーツを確認することなんだ」

メリッサは呼び出されると顔を真っ赤にしたものの、素直に教室の前に歩いてきた。メリッサの横では、ラリーがクラスみんなの注目を一身に集めて、満面の笑みを浮かべている。ブランドンは二人の『ボランティア』の反応を心に留めた。「課題のルールは、体の部分を指一本で触ること、だ」

さざ波のような笑い声が教室に広がり、メリッサはさらに顔を赤くした。「本当にそんなことするつもりですか? バートレット先生」彼女は、少しかすれたような声で尋ねた。

ブランドンは励ますように彼女の肩を掴んだ。「ラリー、もし君がルールを破ったら」教師は、生徒の注意を引くため、あえて名前を強調して呼んだ。「つまり、もし君が不当にいやらしいタッチをしたりしたら、君は二つの選択肢から一つを選ぶことになる」

「ひっぱたかれるか、そのまま続けるか。そんなのなんもめずらしくないけど」ラリーは、鼻先でせせら笑ってそう言った。

「君の行動をメリッサのお父さんに説明するか、キャンベルコーチに説明するか、だ」と、教師は答えた。

ラリーの笑顔が引っ込み、その両肩ががくっと下がると、残りのクラスから笑いが起こった。ブランドンは続けた。「もちろん、同様のことがメリッサにも適用されるぞ。僕としては、なぜ彼女がウォレス夫人の可愛い坊やの尻を掴んだのかについて、彼女が説明している様子が目に浮かぶようだけどね、だろ? そうだよな。では。君たち二人とも、課題のデモンストレーションに向けての心の準備は整ったかな? それとも別のボランティアを募ろうか?」

二人は揃って半信半疑といった様子でうなずき、お互い無言の警告を込めて相手をにらみつけた。ブランドンは、思わず笑い声を漏らしかけた。「ああ。それから点数をつけるって言ったかな?」彼は何食わぬ顔でそう聞いた。二人とも再び甲高い声をもらし、教室にもう一度笑いが波のように広がった。

一時間後、教室のドアは閉まっているのにも関わらず、大きな歓声が廊下に響き渡っていた。その声は突然止まっては、湧き起こる。止まり、また湧き起こった。それからブーイングが響く。その後はまた歓声。そして今度は繰り返しの応援の声が、「ライーアン、ライーアン、ライーアン、ライーアン」そして「ネリー頑張れ、ネリー頑張れ、ネリー頑張れ、ネリー頑張れ!」と続いた。

ドアが突然開き、ジェイクが教室に頭を突っ込んで、子供たちとブランドンをいぶかしげに眺め回した。机はすべて教室の脇に寄せてあり、中心で向き合った男子と女子の二人のためにスペースが設けられていた。他の生徒たちが性別ごとのグループに分かれ、教室の両側から、それぞれのチャンピオンを応援する中、ロドニーがホワイトボードに点数を記録している。ブランドンはデスクの端に腰掛け、片足を床に、そしてもう片足は、選手たちに向かって単語を投下するのに合わせてぶらぶらと揺らしていた。解剖学の本を片手に、眼鏡がずり落ちている。

「よし。女子四点、男子二点だ。ライアン、デルトイド(三角筋)」と、ブランドンが挑発する。歓声のあまり、誰もドアが開いた音に気づかない。ライアンは注意深く考慮し、女の子の体を眺め、それから指を一本伸ばして、彼女の肩の正面をちょんと突いた。女の子が呻き、男子たちが歓声を上げる中、ブランドンが言った。「正解」すると、ロドニーがライアンの名前の横にチェックマークを追加する。

ジェイクは片方の眉を上げ、咳払いした。「随分とお楽しみのようだな?」と、彼は一目瞭然の事実を尋ねた。

ブランドンは笑顔で顔をあげ、何人かの生徒がもう一人のコーチに挨拶の声を張り上げた。「女子四点、男子三点だ。ネリー、ヒューメラス(上腕骨)」と、科学教師は言った。女の子は、がくっと元気をなくしたが、他の女子たちは彼女を励ました。ちょっとの間をおいて、彼女は肩をすくめ、指を一本突き出して、ライアンの鼻の頭に触れた。

ジェイクはもう片方の眉もあげ、ブランドンと一瞬目を合わせた。ブランドンはしっかりと状況をコントロールできているようだ。後で、授業の邪魔をしたことを謝らなければならない。「ってことなら、続けてくれ」彼は静かに笑い、ドア口から引き下がった。

授業の終わり間際には、さらに大きな女子たちのキャーッという喜びの声と、男子のうめき声が上がっていた。ベルが鳴ると、生徒たちは退出していったが、その多くは弾んだ様子でバートレット先生に「バイ」と声をかけ、「教育的」エクササイズについてのコメントを残していった。生徒たちがいなくなると、彼は一人くすくす笑いながら、デスクを押して列を戻し始めた。

開いたドア越しに、更なる叫び声が聞こえ、笑いがタイルにこだました。「もし神が、お前らを屋根の梁からぶら下げさせたいと思ったとしたなら、尻尾をつけてくれていたはずだ、このいまいましいサルどもが!」と、ジェイクが声を張り上げる。その声には明らかに笑いがにじんでいて、彼の声に反応して、もっと大きな笑い声がおこった。体育教師というのは、学校というシステムの中で、子供たちを罵ってもトラブルにならない、唯一の存在であるようだ。その少し後、ジェイクは開いたドア口に立ち、小さく笑顔を浮かべてドア枠に寄りかかった。

いまや随分と馴染みになったキャンベル怒鳴りを耳にして、ブランドンは机を元の位置に戻しながら視線を上げた。「やあ」と、彼は挨拶する。

「よう」ジェイクは笑顔のままそう返した。「さっきは授業に割り込んじまって悪かったな」と、彼は謝罪を申し出る。「大抵の場合、この辺りで大声が聞こえる時ってのは、教師が天井からつま先を上にして吊るされてることを意味するもんだから」

「尻尾でじゃなく、かい?」と、ブランドンは冗談を言った。「皆、いい生徒だよ。あの子達がゲームを楽しんでくれてよかった。少なくとも、僕に打ち解けやすくはなったと思う」彼は体をまっすぐにし、伸びをして、眼鏡を押し上げた。「君の一日はどうだった?」彼は慇懃に尋ね、まじまじとジェイクを見つめた。

「訳あって、俺たちはもうガキどもを拷問することを許されてないからな」と、彼は真面目な顔で不平をもらす。「俺、もう行かないと、スクールバスの監督があるんだ」そこで彼は実際に唸り声をあげた。「また後でな」

後に残され、ブランドンはこの三日間どれほどたっぷりと笑ってきたかについて思い巡らした。とにかく笑わずにはいられないのだ、特にジェイクのとんでもないユーモアセンスの前では。一つため息をつき、デスクに腰をおろして、彼は書類ばさみを取り出すと、いくらか―できればほとんど全部の―採点をこなしてしまおうと腰を落ち着けた。グランドにいくまで一時間ある。

五十分後、彼は来客用のロッカールームで服を脱ぎ、白い野球ズボンだけでストレッチを始めていた。彼は走り込みの準備をしておきたかったのだが、それには、グランドに出てやるよりも、ここでやる方が簡単だった。ジェイクは今日、チームのメンバーを絞ると言っていた。彼は、頭の中で選手たちについての自分のメモ書きを反芻することになかば気をとられながら、ゆっくりとストレッチを続けた。



ジェイクは、生徒たちが教室から出た後、いるべきでない場所に入り込んだやつらを追い出すため、ロッカールームの最後の点検を行っていた。猫のように物音を立てずにドアを押し開けては、部屋から部屋へと入り込む。彼は、ロッカーの最初の列を見回し、それからシャワーに入って、誰もいないことを確認した。それから別のロッカーの列に入り込んで、そこでブランドンを見つけた。半裸で、その長い足をゆっくりと伸ばしている。なんてこった。

コーチははたと立ち止まって瞬きし、突然湧きあがった強烈な欲情に襲撃されつつも、なんとかそれを抑えつけた。彼は、ごくっとのどを鳴らし、もう少しの間、目の前の光景を見つめてから、静かに退却した。苛々と唇を舐め、流し近くのコンクリートの壁に体を預ける。くそっ。ブランドンが人の気配に気づく前に、部屋から抜け出るべきだとは承知していたが、動くことができなかった。かつて、ここまで強く誰かに飛び掛りたいという衝動に駆られるほどの欲望に襲われたことがあったか、思い出せないほどだった。まさに、青天の霹靂ってやつだ。ここ何日かずっと心の片隅にあった感情はこれだったのか? 自分でも気づかない欲望だったのか? まったく。



静かにため息をつき、ブランドンはゆっくりと腰を折って、太ももの後ろを掴み、目を閉じた。その姿勢を保った後、体を起こして、両腕を上に伸ばし、首がポキッと音を立てると小さく呻く。彼は思わずあくびをし、喉の奥で低い声を出して、ストレッチを続ける間に湧いてきた眠気を振り払おうと頭を振った。



ジェイクは頭を振り、動けと自分自身に命令した。何食わぬ顔で男の前に姿を現すというのは、まだありだろうが、この場に立ち竦んで、相手の尻の形をじっくりと観察しながら、盗み聞きしているというのは、自分を汚らわしいと感じる領域に入るボーダーラインだと言える。彼は部屋の反対側へとすり抜け、誰に頭の中を覗かれているわけでもないとは知りつつも、より激しく赤面した。彼はロッカールームのドアを開けた。「就寝点検!」と、彼は声を張り上げたが、いつもの怒鳴り声は完全には機能せず、少しかすれた声になった。



ブランドンの目が、ぱちっと開いた。その場でくるっと向きを変え、ロッカーの角からひょこっと頭を出す。「就寝点検?」彼はオウム返しに言う。「ここって軍隊ですか? 軍曹殿」彼は頭を傾け、ジェイクがなんだか不機嫌そうなことに気づいた。

「ガキは一人もいないか?」ジェイクはからかいには反応せず、既に答えは承知していながら、目の前の男にそう聞いた。彼の声は硬く、ぶっきらぼうだった。彼が、何があっても避けたいのは、同僚の教師なんかに惹かれてしまうことだ。しかもその教師が、自分が大人になる前から知っている人間だとしたらなおさらだ。言うまでもなく、カミングアウトしたいなんていう気持ちはさらさら持っていないというのに、彼は目の前の男をいやらしい目つきで眺め回していたというのだから。まったく。だから彼は過剰に反対の態度をとった。彼の黒い目は険しく、彼の体は緊張していた。

正体のわからない冷たさの波長を感じ取り、ブランドンは頭を振ると、からかいの態度を引っ込めた。「いないよ」彼は短く言って、着替えを終えるため、ジェイクの視界から消えた。ジェイクにどう対処していいものか、彼には全くわからない。彼は子供たちを怒鳴り散らすが、しっかりと面倒もみる。友好的な態度にもなるし、冷たい態度にもなる。優しく説明してくれるかと思えば、威嚇する。そりゃあジェイクは、好きなようにどんな態度でもとれるさ、と、ブランドンは静かに認めた。「ただ予測がつかないっていうだけで」彼は、アンダーアーマーを頭から被りながら、低く呟いた。

「なんだ?」ジェイクは向きを変えて、ドアに向かいながら声を出した。実際に体調すら悪くなったような気がするほどだ。自分が作り出したこの張り詰めた雰囲気を破るためのジョークを何か必死に考えようとした。だが、何も思いつかなかった。なんだってんだよ、まったくもう!



「グランドで会おう」ブランドンは、心底不安定な気分で、そう声を上げた。彼はジェイクとの折り合いの付け方を見つけ出さなければならない、さもなければ頭がおかしくなってしまう。または、もっと酷いことになるか。彼は、両手で頭を抱え、ジェイクに会う度に必ず彼の全身を満たす、奇妙に温かな興奮を振り落とそうとした。彼には今、こんな反応に対処する余裕はない。

「ああ」ジェイクは硬い顔つきで同意し、可能な限り素早くその場から逃げ出した。彼には氷水か何かが必要だ。この感情になんとか対処しなければならない、それも早急に。

 
もうちょっとだけ…、第四章まで?続くかも…。

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