2011年11月8日火曜日

Full Houseって、韓流ドラマだったのね…







久々に、ツボにしっくりはまる、面白い長編Slashを読みました。





Title:『 The Only House on the Right 』


Pairing: Jared/Jensen

Rating: NC-17

Word Count: 51, 464語

Summary - When Jensen comes back from a vacation to find that his childhood home has been sold, he isn't counting on action hero/egotistical jerk Jared Padalecki to come swooping in to save the day. Soon he finds himself married to a celebrity and learns that love has a funny way of knocking on your front door.


Based on KBS' Full House.




フルハウスというドラマをもとにしているというので、私はてっきり、双子のオールセン姉妹が子役として出ていた、あのほのぼのファミリードラマだとばかり思っていたら、


KBSって、韓流ドラマなんですね!


なるほどー。恥ずかしながら、今、日記を書き始めつつ検索して、初めて知りました。


私の知っている『フルハウス』とは、ストーリーが似ても似つかないと思ったのは、全く違うドラマだったからなんですね。


Jensenが、生まれ育った大切な家を奪われてしまう過程の設定が、あまり極端というか、説明不足な感じで、そこだけが唯一消化不良ぎみだったのですが、(今まで一度もちゃんと見たことないんだけど…)韓流ドラマがもとになっていたのだとわかれば、なんか妙に納得です。


俺様なアクションスター(action hero/egotistical jerk)のJaredと、

ほそぼそと短編小説を発表したりしている、とても売れっ子とはいえない作家のJensen。


韓流ドラマの『フルハウス』をご覧になった方なら、たぶんストーリーの大筋は一緒なのだと思いますので、もう私のあらすじはつけないことにしてしまいますが、


Jared & Jensenのキャラクターが、とにかく好みで、ストーリーの流れも、もろ好み…。


特にJensenが、次々ととんでもなく不幸な状況に晒され続けるっていうのに、全然くじけないし、明るいし、でもどうしようもなく同情しちゃう感じに可愛いしで、

(でも、今になって考えると、これこそが、きっと韓流ドラマのヒロインの設定なんですよね!な、なんか、最後までどっぷりと感情移入して読み終えた自分を思うと…悔しくなってきた…)


それにしても、こんなラブストーリーをドラマとして見せられたら、イチコロで韓流ドラマファンになっちゃいますね…。


ああ、やっぱり私って、韓流世代なんだなー。


でもっ、まだっ、韓流には手を出さないつもりです。


ちなみに、このお話に興味を持たれたかた、PDFファイルをダウンロードして読んだほうが断然楽です。


私は通常、投稿されたLJでそのまま読んでいく派、なのですが、このお話は、チャプターごとに、すごく細かくページ分けされているので、次ページをクリックしつつ進んでいくのが、かなり面倒なのです。





2011年10月14日金曜日

Caught Running 第五章

大丈夫かな? 大丈夫かな? と、恐る恐る様子を見ながら投稿し続けてきた、私の一番のお気に入りの


Gay Romance 小説 Caught Running。





いい加減、たぶん、これが最後になってしまうかなーと思うのですが、第五章を投稿します。


(と、言いつつ…、主人公の二人、まーだラブシーンに突入してくれないので、本当はもうちょっとだけ…投稿したい)



私のつたない翻訳ではありましたが、Gay Romance 小説っていったいどういうものなの?と疑問をお持ちだった方々に、片鱗でもヒントになったのであれば、


そしてこのジャンルの小説に興味を持っていただけたのであれば、私としては、



『同志が増えた!!』



ということになりますので、何よりも嬉しいことです。




どうぞ、引き続き、息を潜めて、こっそり読んでいただければと思います。









『Caught Running』









第五章






三月二日、金曜日の夜。ということはつまり、地元チームのサポーターたちが大挙して押し寄せるということを意味する。ジェイクとしては、シーズン最初の試合はアウェイでの試合が望ましいのだが。大抵の場合、そのほうが、プレッシャーがいくらかでも軽減されるからだ。しかしそこには欠点もある。ホームグランドの強みを失うだとか、はるばるパウダースプリングスくんだりまで何時間もバスに乗っていかなければならないだとか。


マッカカーン・インディアンスは、パークビューが地元ではないのだが、まるでホームで試合をしているかのように戦っていた。ジェイクが想像するに、昨年パークビューを相手に屈辱的な敗北を喫したことで、尻に火がついたということなのだろうと思ったが、七回を迎えた時点で、インディアンスは四対三でリードしていた。空は暗くゴロゴロと鳴り始めており、ジェイクはベンチからそんな空を見ながら、この試合は最後まで継続可能だろうかと考えていた。


彼はユニフォームの文字の上を擦り、鼻に触れ、それから耳を引っ張った。思い切り振っていけ、のサインだ。選手はうなずき、バットをもう数回試し振りしてから、青いドーナツ型の錘を地面に落として、バッターボックスへと向かった。ジェイクはひまわりの種をいくつかぷっと吐き出すと、手を叩き、選手の名前が最後につく、特別意味もないような一連の言葉を声援として怒鳴った―野球言葉というやつで、ベンチにいる人間は皆、ははっきりと理解しているようだ。


ブランドンは三塁ベースの横に立っていた。ヒットや走者が沢山出て、彼にとっては神経をすり減らすような初試合となり、これまでずーっと死にそうにびびっていた。でもこれまでのところはなんとかうまくやれているらしい。とにかくジェイクからの怒鳴り声は飛んできていない。一塁ベースコーチとは違って。彼は選手を二塁に送りアウトにしてしまったため、こっぴどく噛み付かれていた。科学教師はベンチから飛ぶ声を聞き、少なくともそのうちのいくらかは言葉に意味があることを知って、彼の注意をバッターに向けた。


マウンドに上がった新しいピッチャーは、強い球を投げたが、ついに降り始めた雨の中、少しコントロールを乱していた。四球投げて、四番打者のカウントはスリーボール、ワンストライクとなっていた。ジェイクは彼に声をかけ、鼻を触ってから、耳を引っ張り、それから胸の文字を擦って、顎を触った。振るな、と選手にサインを出したのだ。


次の一球で、バッターはフォアボールで一塁へと歩いた。彼らの逆転への追撃が始まった。しかしそこで雨は本降りとなった。そして振り続けた。そしてさらに降り続く雨に審判は試合中止を宣言した。不運にも六回をまわっていたため、試合は成立したものと考慮され、パークビュー・パンサーズは、シーズン最初の試合で苦い敗北を喫することとなってしまった。


ブランドンは、雨の中、びしょ濡れになることを覚悟で大学生たちと一緒に用具を荷造りしていたが、それも重い荷物を抱えてバスへと走る子供たちに比べればましというものだった。全員が荷物をまとめ、その荷物をコンパートメントに積み込むと、バスに乗り込んだ。ブランドンは静かに話し込んでいるジェイクと一人の四年生を押しのけて進み、中ほどからやや後ろの自分の席を探した。彼はどさっと座ったものの、ビシャという感触に少し身をすくめた。自分へのメモ: 天気予報が雨じゃなくてもタオルと着替えを荷物に入れること。


短い話し合いの後、ジェイクは生徒を席につかせ、運転席に滑り込んだ。全員が揃ってバスに乗っていることを確認すると、ジェイクはドアを閉め、体をぶるっと振って水を盛大に振り飛ばして、バスをスタートさせた。負けたことについては、彼は子供たちに何も言わなかった。彼らは、再び戻ってくることを知っていて、そしてその時には絶対いい試合をすることを知っているのだ。言うべきことはそれだけだった、本当に。三十分後、ジェイクは扱いにくいバスをウェンディーズの駐車場へと乗り入れ、立ち上がって後ろを向くと、疲れて濡れた子供たちをじっと見た。「四年が先だ」彼が大声で言ったのはそれだけで、その後ブランドンに向かい、立ち上がってこっちへ来いとうなずいて見せた。


ブランドンはバックパックを取り上げると、ヘッドコーチに続いてバスを降り、二人一緒にレストランへと入って静かに注文し、部屋の奥の方のテーブルについた。二人はレストランにどんどん入ってくる子供たちから目を離さずにいて、子供たちの最後には二人の大学生アシスタントたちがついていた。


ジェイクは自分のファストフードのトレイにかがみ込み、物悲しそうな顔でポテトフライでケチャップの溜まりを突いた。「お前、よくやったよ」ようやく口を開いた彼はブランドンに向かってそう呟いた。「緊張したか?」


サラダのトッピングのアーモンドのパックを破って開けながら、ブランドンはつぶやいた、「緊張したか、と彼は聞く。ああ。死ぬほどびびってた」と、彼は自分の食事から視線すら上げずに小声でささやいた。


ジェイクは微笑んで自分の食事を見下ろし、初日の練習以来ずっと募り続ける温かさと親しみの感情に抵抗した。「俺もそうさ」彼は簡単に認めた。


ブランドンは驚きを込めて視線を上げたが、その驚きは自分の気持ちを楽にしてくれたジェイクに対する感謝へと変わった。彼は自分のサラダに注意を戻し、ドレッシングを半分かけて、全部を混ぜ始めつつ、この一ヶ月ほど、ほぼ毎日顔を合わせ続けた後で、彼ら二人がどれほど距離を縮めたかに思いをはせていた。ジェイクには、いまだにしょっちゅう足元をすくわれっぱなしではあるけれども。「皆、頑張ったよね?」と、彼は食べながら言った。


「やつら、本当によくやったよ」ジェイクは子供たちを見やりながら同意した。生徒たちはまだほとんどがユニフォームのままで、まだ濡れていて、汚れていて、疲れた様子だったが、一列に繋げたテーブルの周りに固まって、大きな一塊の集団となって座り、おしゃべりし、冗談を言って、笑っていた。ジェイクは愛情のこもった笑顔で子供たちを見て、自分の食事に戻った。


サラダを前にして椅子に深く座り、ブランドンはチームのメンバーを興味深く見守っていた。彼らがいいプレイのことを語り、逃したチャンスについて声高に不平をぶちまけて、仲良くやりとりしているようすを見つめた。彼は、湿っているどころではない濡れに身震いし、ほとんど空になったサラダボウルを下ろした。自分のバックパックを見下ろし、ふとあることを思い出した。「すぐに戻るから」彼はそう小声で言って、バッグを持ってトイレに向かった。


ジェイクは一瞬手放しの切望を込めて歩いていく男を見やった後、再び頭を下げて、ポテトを突いた。彼の心に募った、このちょっとしたのぼせをなんとかしなければならない。街へと出かけて、ガス抜きでもするか。


一つだけのトイレに入ると、ブランドンはバッグを落とし、ジャージと濡れて気持ち悪いアンダーアーマーを脱いだ。彼は手を乾かす温風乾燥機の風を強くして、しばらく壁に寄りかかったまま、うめき声を上げつつその前に立っていた。風が止まると、彼はバックパックの中を探り、あの『男女混合裸レスリング』Tシャツを引っ張り出した。彼はTシャツを再びまじまじと見て鼻を鳴らして笑った。ジェイクがいなかったら、彼がこんなものを着ることは絶対になかっただろう。彼はTシャツを頭からかぶり、乾いた感触を嬉しく思った。濡れたジャージをもう一度羽織ったものの、ボタンは開けたままにして、テーブルへと戻った。


ジェイクは戻ってきたブランドンを見上げたが、自分の貸したTシャツを目にして、思わず二度見した。確かにとりあえず乾いてはいるよな。「あー、お前ずるいやつだな」ジェイクは小さく微笑みつつ文句を言った。「とにかく、ガキどもにはお前が濡れてないってことを知られるなよ、永遠にここから出られなくなるから」


ブランドンは笑顔になった。「なんで僕がまたジャージを着てきたと思ってるんだい?」彼はそう尋ね、再び席に座って、食べている生徒たちを見やった。「後どのくらいかかると思う?」


「なに言ってんだ」ジェイクは静かに笑った。「やつらは食ってるんじゃない、吸い込んでるんだ。五分だな」と、彼は請け負った。「ああっと、フロスティシェイクを飲むから十分か」


ブランドンは、採点はパスすることにした。今の時点でこんなに疲れ切ってしまうなんて信じられなかった。バスで少し仮眠をとることにしよう。そうすれば、家まで運転して帰れるようになるだろうし、その後二時間くらいは仕事ができるだろう。「うーん。フロスティシェイクか」彼はちょっとその考えに惹かれて呟いた。


「もし飲むなら今すぐ決めろよ」ジェイクはそう警告して自分のゴミを集めて立ち上がった。「長い列に二回並ぶ時間はないからな!」


ため息をつき、ブランドンはシェイクをあきらめた。今晩は走れないだろうし、なのに無駄なカロリーを摂取することはない。彼は自分のゴミを片付け、ジェイクからそれほど遅れずに、バスへと向かった。


ヘッドコーチは運転席へと滑り込み、ここへ座ってチームがよろよろと戻ってくるのを待っていれば、少なくとも忙しそうには見えるだろう、と自分に言い聞かせた。ブランドンが近くにいるといつだって、手持ち無沙汰でいることを後ろめたく感じてしまう自分に気づいていた。これは彼にとって間違いなく新しい感情だった。彼はブランドンがバスのステップを上ってくるのを視界の片隅で見つめ、大きなバックミラーでそれとなくブランドンの動向を追いかけた。


目を擦りながらブランドンは腰を下ろし、隣の席にバックパックをどさっと置いた。彼は、ジェイクがバスを道路に出すまでなんとか目を開いていたものの、比較的静かな周囲の状況と、規則的な振動に、冷んやりした窓に頭をつけて、すぐにうとうとし始めた。ジェイクは、この暗さと雨の中、必要以上にバックミラーをちらちら見ている自分に気づき、ついに強制的にブランドンから視線を引き剥がして、正面へと固定させた。三十分後、彼は動きの悪いバスを学校の駐車場へと乗り入れ、そこで待っていた親たちのグループに向けてクラクションを鳴らした。


ジェイクは脇に立ち、彼に別れの挨拶を言いながらバスをぞろぞろと降りていく少年たちの頭を一人ひとりポンっと叩いてやった。明日、つまり土曜の午後には、また試合があり、彼は、子供たちは皆、それに対する準備が出来ていることを知っていた。自分の意思で土曜日をあきらめるティーンエイジャーはそう多くない。本気で打ち込んでいるものだけだ。生徒たちが移動しはじめると、ブランドンは体を起こして、ぼんやりと何度も瞬きしながら、自分が今どこにいるのかを把握しようとした。子供たちが全員バスから降りると、彼は立ち上がり、数歩歩いてから、振り返って自分のバッグを掴んだ。彼は目を擦りながら、バスの前の方へと歩いた。「用具は?」彼は静かに尋ねた。


「俺が片付ける」ジェイクは頭を振って答えた。「やつらは皆疲れ切ってるから、家に帰らせてやらないとな」彼は、子供たちがそれぞれの迎えの車へと散っていくのを見守りながら、そう断言した。彼はブランドンを振り返り、眉をひそめた。「お前、ボロボロだな」彼は目の前の男ににべもなく言った。「お前それで、家まで運転して帰れるのか?」


「うん」ブランドンは自動的にそう答えたが、ステップの一番下で立ち止まった。まだかなりぼうっとしていて、ちゃんと立っていられないくらいだった。「駄目かも」と、彼は訂正した。


ジェイクは少し笑顔を見せ、それから自分が何をしようとしているのかを自覚して、さっと冷や水を浴びた気分になった。そんなことをすべきでないことはわかっていたが、それは三百ポンドの男が自分に突進してくるのを目にして、もしボールを捨てれば、そいつが自分にぶつかってこないと分かっている時と同じようなものだった。ジェイクはそんな時、ボールを手放せたためしがなかった。どれだけ痛い目をみることになるとわかりきっていても。「車の鍵を貸せ。お前は俺の家に泊まればいい」コーチは、断固としてそう命令し、鍵を求めて指を動かした。


ブランドンは疲れきった目をジェイクに向け、半分でも本気の反論をつむぎ出すことができなかった時、自分がどうにもならない状態にあることを知った。鍵を探す代わりに、彼はただバックパックを差し出した。ジェイクはバッグを受け取り、小さなポケットをいくつか慎重にさらって、鍵を見つけた。彼はリモコンを使ってブランドンの車のロックを開けたが、車は割合に近くに停まっていた。彼はブランドンを車の方へと向かわせた。「中で楽にしてろ、俺もすぐに行く」彼はコーチの声でそう命令し、ブランドンの肩を少し押しやった。


科学教師は反論しようとすら思いつかなかった。自分がどうなってしまったのかもわからない。ただあのままバスで眠っていたかった。彼は車の助手席へと倒れこみ、ドアを閉めた途端、そのドアに寄りかかった。まるで彼の体が金曜の晩であることを知っていて、彼の意向を無視して勝手に機能を停止させてしまったかのようだった。


ジェイクはブランドンが車に乗り込むのを見守ってから、子供たちがバスの横に残した用具の山を振り返った。彼は、家に帰りついた時に襲ってくるであろう様々なうずきや痛みを刺激したくなかったため、ゆっくりと全てをダグアウトへと運んだ。全てを運び終えるとドアに鍵をかけ、バスを駐車スペースへと動かし、ゆっくりとブランドンの車に向かって歩いていった。胃袋がそわそわとヒクついたが、落ち着け、と自分に言い聞かせた。これでは全くガキな上にマヌケだとしか言いようがなく、こんなことはすぐに止めなければならない。こんな風に、ブランドンに対する熱を抱え続けていたら、いずれ何かを犠牲にすることになるだろう。おそらくは彼の正気を。


彼は静かに車に乗り込んだ。ブランドンは既に眠り込んでいるらしく、静かに息をしていたが、薄暗い灯りの下でその顔は落ちくぼんでいるようで、目の下のくまは余計に誇張されているように見えた。車のドアを閉めても彼は動かなかった。ジェイクは座ったまましばらく彼を見つめ、彼の顔に見入った。なんとかこの男と親しくなる方法はないものかと思ったが、彼にばつの悪い思いをさせるようなことくらいしか思いつかない。静かにため息を一つつき、ジェイクは車のエンジンをかけ、駐車場から走り出て、自分のトラックは置き去りにして自分の家へと向かった。


車が停まり、エンジンが切られると、それまでの心地よい振動が突然消えたことで、ブランドンは目を覚まし、無理やり目を開いて雨に濡れた窓の外を見やった。「な?」彼はぶつぶつ言いつつ、座りなおそうとした。


「家に着いたぞ」ジェイクは彼にそう告げて、車から降りると、後部座席からブランドンのバッグを取った。「この中のもの何か必要か?」


ブランドンは小雨の中に降り立ち、ジェイクの家を見上げ、今更ながら、これっていい考えだったのだろうかと自問した。「ううん」と彼は答えてドアを閉め、そのまま車にもたれかかりたいと思った。


「だったら中に入れ」ジェイクは車の後ろを回ってきながらそう命令し、優しくブランドンの肘をとった。「シャワー、乾いた服、そしてベッドだ」彼は小さく微笑んで、そう言い聞かせた。


そのまま動きたくないと思いつつ、ブランドンは一瞬時が止まったような瞬間を目にした。消え入りそうな月明かりの中、ジェイクが彼の隣に立ち、雨が二人を包むように降っていて、ジェイクは優しい表情を浮かべ、彼の目にそれ以上に優しい感情が溢れている。その後、その瞬間は破られて、時間は再び動き始め、ブランドンはジェイクに導かれて家へと入った。


「階段を上がって、廊下をまっすぐ進んで、突き当たりのドア、それが俺の部屋だ。そこのシャワーを使っていい、シャンプーもタオルもある」ジェイクはそう指示して、バッグをドアのところに置いた。彼自身のためにも、別のバスルームを来客用に準備しておけばよかったと思いながら。「それから、あー、お前が入っている間に、何か着るものを用意しておく」


ブランドンは動き出してから、一言もしゃべってなかったことに気づいた。何かを言おうと振り返った時、ジェイクが彼のすぐ後ろいて驚いた。ジェイクは彼に突っ込み、彼の両腕を掴んでなんとかバランスを保った。「ああ、ごめん。っていうか、ありがとう。うん。つまり、その…」と、ブランドンは手を小さく動かした。


「礼なんかいいさ」ジェイクは口ごもりながら、そう返事を呟いた。彼の体が予期せぬ接触に緊張するのにつれ、彼の指はゆっくりとブランドンの腕に食い込んだ。


ブランドンはジェイクを見上げ、二人が触れているところからチリチリするような疼きを感じたりするな、と自分自身に命令した。彼らは数回鼓動が打つ間その場に立っていた。それからブランドンはふと、ジェイクは彼が動くのを待っているのだと気づいた。彼は素早く視線を落とした。「あー、僕、シャワーを浴びるよ」彼は早足に前に足を動かした。


ジェイクはヤケドしたように彼を放し、そのままの腕の状態で指を広げたまま、彼から離れていくブランドンを前に、その場に立ちつくしていた。「着替えを出しとく」


ブランドンはうなずき、指示に従ってバスルームへと入ると、ドアを閉め、とにかく疲れきって、どさっとトイレの便座に座り込んだ。一晩によくても五時間しか睡眠時間をとれないという事実をもはや無視できなくなってきているということは、とっくに分かりきっていた。彼は両手で顔を擦り、体を傾けてシャワーを出すと、服を脱ぎ、脱いだ服を空いているタオル掛けに掛け、靴をラグマットの上に置いた。シャワーカーテンを押し開けて中に入ると、冷えてべたつく肌を打つ、熱いお湯にうめき声を上げた。


廊下では、ジェイクが立ち尽くしていた。彼が何かバチ当たりなことをしたとでもいうのか? この潜在的な最悪の事態がどんなことになっていくというのだろうか? ブランドンとの間に距離を置かなければならなくなるだろうというのは確かだったが、それはシーズンが終わるまでは不可能に近い、ならばいっそのこと、―駄目だ。感情のままに行動することなどできない。それは問題外だ。そうでもないのか? 彼は頭を振り、なんとか体の硬直を解いた。まず客室へと入り、彼の昔の部屋だ、ベッドにちゃんと洗ったシーツがかけてあることを確認した。それから自分の部屋に入って、ゆっくりとクローゼットを探り、ブランドンが着られるようなものを探した。ジェイクは、スウェットとTシャツを並べながら、水音を聞いていた。彼にパンツをやる…というのはまずいことなのか? これがトロイやジョナサンが泊まっていくというのなら、彼はパンツをやるだろう。彼はため息をつき、ボクサーショーツを一枚取り出して、他の着替えと一緒にベッドの上に投げた。それからベッドの足元のベンチに腰を下ろして靴紐を解き始めたが、ついに一日の疲れが追いついてきたのか体はのろのろとしか動かなかった。


いつものカラスの行水よりは少し眺めにシャワーの中にいたブランドンは、片腕で体を支えながら、このままでは立ったまま眠りに落ちてしまうという危険に直面していることを自覚しながらも、まだ雨の中のジェイクのことを考えていた。ブランドンは唇を噛んだ。まったく、こんなことはやめなくては駄目だ、さもないとそのイメージが頭を満たして、離れなくなってしまう。彼はシャワーを止め、タオルを掴んで、濡れた髪は別にして、可能な限り乾いた感じを実感できるまでごしごしと体を擦った。幸いにも、タオルは特大だった―ジェイクの特大の体を楽に包めるように、と、邪悪な小さな声が響いた―そしてブランドンは壁に額を数回打ちつけてから、タオルを腰の周りに巻きつけ、ドアを半分開けてベッドルームを覗き込んだ。


ジェイクはベッドの足元に立ち、濡れたアンダーアーマーを少し苦労しながら脱いでいた。冷えと濡れのせいで、肩が痛み出していた。彼は、シャツをやっと頭から引き抜くと、うんざりしながら床に放り、短い髪を両手で梳いているところで、ドアが開いていることに気づいた。「よう」彼は驚いてそう言ったが、まるでブランドンが出てくることを全く予想していなかったかのようだった。「俺、あー、お前がどんな格好で寝るのが好きなのかわからなかったから…」ジェイクは少し顔を赤くして、ベッドから服の塊を全部取り上げると、それをもってブランドンに近づいたが、服を手渡しながらも視線はそらしていた。


ブランドンは服を受け取り、小声で礼を囁いた。彼はジェイクが腕と肩をできるだけ動かさないように抱えているのをめにした。「これに着替えて、濡れてるものを取ったら、バスルームを空けるから」ブランドンはそう言いつつ、目の前の男がこれ以上の痛みに苦しむことになる前に、熱いシャワーが助けになるといいと願った。


「慌てなくてもいいぞ」ジェイクは後ろを向きながら、静かにそう言った。彼は、つかの間どうすべきなのか確信が持てないまま、その場でぐずぐずしていた。最終的に、彼はぐしょ濡れのグレーのアウェイ試合用のズボンをはいたまま寝室を出て、足を引きずるようにして廊下を歩き、階段をどたどたと下りて、薬を探しにキッチンへと入った。


ブランドンはジェイクが歩き去るのを見つめていた。疲れすぎで、ぴっちりしたズボンに包まれたジェイクの尻から目をそらすことすら出来なかった。その代わりに彼は目を閉じて、後ろを向いた。バスルームに戻り、彼はタオルを落としてボクサーショーツとTシャツを見につけ、ジョギングパンツをどうしようかと考えた。今や体もかなり温まっていたから、彼はジョギングパンツをたたんでシンクの上に置いた。彼は濡れたものと靴を全て集め、廊下へと出て階段に向かいながら、袋かなにかをもらえば、濡れたものを全部詰め込めるな、と考えた。


ジェイクは目を閉じてカウンターのところに立っていた。片手には錠剤の瓶を握り、もう片方の手は花崗岩のカウンタートップの端を掴んでいる。彼はするどい痛みや怪我には対処することができる。しかしこの鈍痛やうずくような痛みというのには消耗させられる。彼は背後からの柔らかい裸足の足音を耳にして、目を開き、薬瓶をキャビネットの元の場所へと戻し、慎重にドアを閉めた。「必要なものは全部あったか?」ジェイクは、普通の声が出ていてほしいと願いつつ、そう尋ねた。


「うん」ブランドンは静かに答えながら、ジェイクの体が痛みに緊張しているのを見て取り、それが声にも影響を及ぼしているのを聞き取った。「この濡れたものを入れる袋を取りに来たんだ。僕はどの部屋で寝ればいいのかな。君に迷惑はかけたくないんだけど。絶対君だって僕と同じくらいにはヘトヘトなんだろうからね」


「ああ、俺の昔の部屋にベッドを用意してある」ジェイクはゆっくり振り返りながらそう答え、カウンターの上の半分空になったゲータレードのボトルを掴んだ。生徒の一人がバスに置き忘れていったものだが、ジェイクは全く選り好みはしないたちだ。彼は錠剤を口に放り込むと、きついレモン味のドリンクでがぶっと飲み下し、全身を振るわせた。「スーパーの袋があるぞ」彼はそう申し出ながら、再び震えに襲われ、顎をガチガチ鳴らした。


「オーケイ」ブランドンは、言いながら同情に身を竦ませた。「ジェイク、何か僕で助けになれるようなことないかな?」彼は尋ねた。彼を見ているだけでも辛かった。


「助け?」一瞬、借り物の服の非常に薄い布地に包まれたブランドンに気をとられつつ、ジェイクは戸惑った様子で聞き返した。ジェイクは、自分自身がその服を着ても、今のブランドンほど似合っているのだろうかと考えた。


筋肉が走っている場所を正確に把握しているブランドンは、片手を挙げて凝った肩にそって親指をそっと動かした。「君は痛いから、肩を庇っているけど、ここが固まっちゃってるんだよ」と、彼は冷静に言った。


ジェイクは思わず体を強張らせ、触れる感触に身震いした。「ああ、そこだ、あー、そこが時々うずくんだ」彼は、そう低く呟きながら、視線をどこに落ち着かせたものか決めようとした。「変に庇わないようにはしているつもりなんだが」彼は、そう付け加えながら、必死に何か話すことを探そうと努力した。


「君、何か筋肉痛用の軟膏を持ってるだろ? まずシャワーを浴びて、そしたら僕がそれを塗り込んであげるよ。そうすれば君も少し楽になるだろうからさ」ブランドンは、自分を制止する前に、そう口にしてしまっていた。ジェイクの肩がそんなふうに痛むためには中で何が起こっているのか、彼には、知識として、わかっていた。筋肉や靭帯が引き伸ばされ、痛めつけられて、引きちぎれたり、引き攣れたりしているのだ。彼には、全ての筋肉がどんな風に重なり合っているのか、どこが一番痛いのか、一番ひどい懲りの原因となっているのは何なのかがわかる。それは、単純な解剖学だ。


ジェイクは不安げに顔をしかめて彼を見たが、しまいには素直にうなずいた。これほどの痛みを軽くしてくれるというのであれば、なんだってするというのが、正直なところだった。ブランドンはうなずいて、手を離した。「じゃ、いっておいで」科学教師はそう急かした。彼は自分で袋を探せるだろうし、そうでなければ、間に合わせでカウンターの上に服を掛けておいてもいい。


ジェイクは唇を舐め、ゲータレードを置くと、ブランドンを迂回して、ベッドルームとシャワーに向かった。「袋は食料庫の中だ」ベルトを外しながら、彼は肩越しにそう声を上げた。「っていうか、服はカウンターに置いとけよ。俺のと一緒に洗濯機に放り込んじまおう」と、彼は言い足した。「明日も試合だ」


うなずいて、ブランドンは洗濯物をシンクの脇に山にして置き、じっくりと時間をかけて窓越しに雨を見つめた。二階から聞こえる水音に意識を漂わせた。明日も試合だ。午後遅くのホームでの試合だ。ということは、明日はそんなに大慌てする必要はないということだ。彼にはゆっくりとした休息が必要だし、ゆっくり休まなければならない。


ジェイクはまだ湯気の残ったシャワーに入り、熱いお湯が肌を打つと静かに呻いた。たった一晩ブランドンが廊下をはさんだ場所の泊まるだけだ。自制心を失ったりしないでいられるさ、だろ?


そうさ。


彼は素早くシャワーを浴びて、熱いお湯で冷えた体を温め、凝った筋肉を緩めた。シャワーからもらえる全ての恩恵を受け取り終えると、彼はシャワーを止め、少しためらった後、シャワーを出て、柔らかなタオルで体を拭いた。彼は唇を固く引き締め、それからシャワーに入る時に何も着替えを持ってこなかったことに気づいてするどく悪態をついた。特大サイズのタオルを腰に巻きつけ、彼は湯気の立ちこめた部屋から、ためらいがちに踏み出した。


シャワーの音が止んだ時、ブランドンは頭の中であれこれ考えていた。彼は階段の方へと数歩歩いたものの、立ち止まり、冷蔵庫へと戻って、ジェイクのための何かまともな飲み物を探した。ビール。ビール。コーラ。ビール。よし! ゲータレードがあった。彼は二本掴んで廊下に向かった。


ジェイクはタオルを掴みながら、引き出しをかき回し、ボクサーショーツとTシャツをもう一枚ずつ探した。ブランドンが近づいてくる物音を聞いた途端、両肩が再び緊張するのを感じた。ったく、こんな感情は振り切らないと駄目だ。だんだん馬鹿らしくなってきた。


戸口に立ち止まって、ブランドンはボトルを振った。「ゲータレードを持ってきた。筋肉の痙攣を鎮めるのに役立つから」彼はそう言ったものの、それがどれほど馬鹿げてきこえるか承知の上だった。しかし、彼は、彼の視界を満たした、うっすらと毛に覆われた巨大な筋肉質の裸から何とか目をそらし続けるので精一杯だったのだ。


「うう~」ジェイクはボトルを受け取って、そう反応した。「馬用軟膏(筋肉痛などに効く)は、そこの引き出しだ」彼はボトルのキャップをあけつつ、二人に近いベッド脇のテーブルを指してつぶやいた。


ブランドンはベッドの端に座り、言われた引き出しを引き出した。中を覗き込んですぐ、彼は薄氷の上に立っていることを知った。小さな潤滑剤の丸いボトルが、何冊か積まれた雑誌の上に転がっている、雑誌はたまたま表紙が下になっていて、わざわざ見ようとしないかぎり、ブランドンはタイトルを見ることはできない。他にはアコーディオン状になった未使用のコンドーム、筋肉痛用のサーマフレックス軟膏の大きなチューブ、テレビのリモコン、角の折れたジェイムズ・パターソンのミステリー小説が一冊。特別ショックを受けるほどのものはない。ブランドンがサーマフレックス軟膏を取り出すと、二枚の写真が出てきた。一枚を半分隠すように、もう一枚が重なっていて、彼はそれをチラッと見てしまった。一枚目はジェイクともう一人の男がそれぞれ両腕を相手の体に回して、二人でカメラに叫んでいるように見えた。周囲の景色からすると、ニューオーリンズのマルディグラカーニバルのど真ん中にでもいるようだった。もう一枚は、白黒の芸術的な、―そして刺激的な写真だった。ブランドンは、数瞬遅れて引き出しを閉めた。


ジェイクは、その引き出しに入れておいた色々なものを思い出して、体を硬直させたが、ブランドンの手を止めるにはもう手遅れだった。彼は、目の前の男の反応を注意深く見つめた。そこには、「コーチはペニスが好きだ」と叫んでいるような兆候はこれと言って見て取れないが、頭のいいヤツの反応はわからないものだ。そういうタイプは、ジェイクが良く知っている輩とは、異なった考え方をする。そういうタイプは、物事をより大きな視点から考えるものだ。彼はブランドンがどんな反応をするか立ち尽くして見守っていた。


ボトルを振り、科学教師は顔を上げて、ジェイクに彼の前に座るよう身振りした。彼は二枚の写真をどんな風にでも好きなように解釈できるが、それは彼ら二人の関係を損なうようなものでは全くない。全く違う。望みを持つのは勝手だが、そんなことをしたら、事態をもっと望まない方向に導くことになる。例えば、この執着をもっとひどくするとか。彼は軟膏をいくらか指に搾り出した。「右の肩、だったよね?」と、彼は冷静に尋ねた。


「ああ」ジェイクは静かに答えてベッドの端に腰を下ろし、期待を込めてブランドンを見上げた。実際のところ、タオル一枚であることに感謝していた。ある意味、服を着ているよりもあるものを隠せる気がする。


ブランドンは軟膏をジェイクの肩のラインにそって軽く伸ばした。「傷めたのは斜角筋、それとも僧帽筋か、三角筋なのかな?」彼は、そう尋ねて、ジェルを塗りこみ始めた。


「筋肉っていうより、腱とか靭帯とかってやつだ」と、コーチは言った。「酷使しすぎたせいで骨棘ができちまってな。俺が痛いって言ってるのが、ただの不平なんかじゃないって気づいてもらった時には、すっかり手遅れになってて、お払い箱になって家に送り返されるしかない状態になってた」と、彼は、ブランドンの手が彼の肌の上の動くのに合わせ、とりとめもなく話し続けた。「だけど、痛むのはほとんどここに沿ってだ」彼は、肩の前側に沿って痛の筋を指でなぞりつつ、質問の答えを追加した。


ブランドンは軽いタッチで擦り込み始め、軟膏が浸透していき始めるまで、ゆっくりと指の握りを強めていった。指で同じラインを辿る。「ここは烏口肩峰靱帯だ。烏口突起、肩峰―」彼は指をジェイクの鎖骨に沿って滑らせた。「そして、上腕骨頭をひとまとまりにしている」彼は塗りこみを終わらせて、軟膏の残りをジェイクの肩の付け根のふくらみに擦り付けた。「きっとすごく痛かっただろうね」


「痛かった」ジェイクは、右から左に解剖学的名称を素通りさせ、小声でそう言った。彼はその代わりに、自分に触れる温かい手、全くなじみのない男から漂う、自分のシャンプーと石鹸の馴染み深い香りに意識を集中させた。彼は、ジェルが液体に変わっていくのにつれ、頭を横に向け、目を閉じた。ブランドンが肩の筋肉を押し、擦り、撫で、擦り、また撫でて、肩の周辺から乳酸を押し出し、筋肉が落ち着いて楽になるように努力している間、彼の両手の下で、彼の肌は温まっていった。


同じ動きを何度も繰り返しながら、ブランドンは隣の男が発する熱に捕らわれていた。ジェイクは目を閉じていたので、ブランドンは、この機会を捉えて、彼の顔立ちをじっくりと観察した。歯を噛み締めるのに合わせ、顎の筋肉がびくっと動いたが、それを除けば、彼の顔は穏やかで、ほとんどのどかといってもいいくらいだった。


ジェイクがこれまで何年もの間、何度となくこんな風な治療を受けてきたのは明らかだった。彼は肌についた軟膏に冷んやりした空気が触れると、激しく体を震わせた。ブランドンは男の顎の下へと手を持ち上げ、顎骨の後ろに指を沿わせて関節をマッサージした。「リラックスして」彼は厄介な歯軋りを止めようとしながら、そう要求した。「君は一箇所がリラックスすると、別の場所が緊張するんだ」声にあまり心配が出すぎないようにしつつ、そう呟いた。「こんな調子で眠れるのかい?」


ジェイクは顔をゆがめて笑顔をつくり、目を開いた。「ヤクと酒は助けになるぞ」と、彼は返事をぶつぶつとつぶやく。


奇妙な緊張の瞬間は軽くなって、ブランドンは頭を振った。「君専用のマッサージ師を雇って、ゆっくり湯船に浸かるべきだよ」そう提案し、最後の軟膏を塗りこみつつ、こんなに早く浸み込んでしまわなければいいのにと思った。


「なんだよ、お前、週末働くか?」ジェイクは小さく笑ってそう聞きながら、ブランドンと目を合わせた。ブランドンの瞳は緑と青が奇妙に交じり合っている―まるで緑がかった海のようだ―そのことに、今まで気づいていたのか、ジェイクにははっきりせず、彼は他に何を言おうとしたのかも忘れて、目の前の男を見つめた。


ブランドンは面白そうに目じりにシワを寄せ、体を伸ばして横たわったジェイクを目の前にしたら、その体に何をしたいだろうか、と考えた。ファック。比喩的にも、まったく。文字通りでも。頭を下げろ、坊主! だ、全く。彼が興味を持つことなんか絶対にないんだ。「きっとなんとかできると思うよ」しかしブランドンは自分の考えを検閲せずにそう答えてしまった。彼はごくっと喉を鳴らし、混乱状態に陥った。「だって、解剖学と生理学の学位を持ってる人間って、そう沢山はこの辺を走り回ってないだろ?」


ジェイクは片方の眉を上げ、にやりと笑った。「見返りに何を期待してるんだ?」と、彼はからかった。「俺、バーベキューの腕はかなりのもんだけどな」彼はそう申し出た。


ブランドンがにっこりすると、その目にあかるい光が閃いた。「バーベキューか。いいね」と、彼は答えた。「眠る場所、っていうのでもいいよ」彼はそう言った。あくまで今晩のこと、そしてジェイクがさっき言った客間のことを考えたのであって、他のなにものでもない。


ジェイクは少し目を見開き、頭を傾けた。目の前の男が、今彼の頭に浮かんだようなことを意味して言っていればいいのにと思いつつ。「お前、痛みをいくらかでも減らすためなら、俺が体でも売るだろうって言ってるのか?」と、彼は冗談っぽく尋ねた。「それ間違ってないかもな」彼は静かに笑い声を立てた。


ブランドンは一瞬パニックの発作に襲われたような気がしたけれども、ジェイクがからかっているのだと気づくと、その感覚は薄れていった。彼は微笑み、そこまで意味ありげなコメントに対して、山のように浮かんだ返答をより分けながら唇をひくつかせた。「どうだろう、そんなオファーに見合う腕を僕が持ってるといいんだけど」彼はなんとかそう返答し、両手を自分の腿のところに落とした。軟膏も、彼に触れるための口実ももう消えてしまった。


ジェイクは判読できない黒い瞳で彼を見上げ、硬い笑顔を見せた。「ありがとな」彼はうまく声を出せずにそう囁いた。


突然、ブランドンの胸と腹の中の緊張がもう避けられない、そして耐えられないくらいになり、今動かなければ、本当に、本当に、無分別なことをしてしまいそうだった。だから彼はうなずき、立ち上がった。「おやすみ」と、彼はそう呟き、軟膏のチューブを引き出しに戻し、ドアへと向かった。


「おやすみ」ジェイクは、頭を下げて座ったまま、実際にしゃがれ声を出した。歩き去っていくブランドンを目にしたら、タックルしてしまいそうだった。


ブランドンは裸足で廊下を進み、ベッドが使える状態になっている部屋を見つけ、中に入った。ジェイクの部屋からの灯りだけで、十分に部屋の中が見えた。彼は慎重にベッドの端に腰掛けた。高まった鼓動が、今だけは疲れを押しのけているようだった。ああ、神様。もう手遅れだった。彼はもう完全にジェイクに夢中になってしまった。もしほんのわずかでもジェイクに気づかれたら、最悪の結果になることは確かだ。あのからかい、あれはジェイクの声に秘められた何かに突き動かされたものだった。それは何か本能的なもので、ブランドンはそれがなんなのか今にも見て取れそうで、理解できそうで、でもはっきりしなかった。親密さを増した友情、っていうことか? 二人の同僚の間に築かれた信頼? 角突き合わせる代わりに、仲良くする方法を見つけようとする二人の男か? じゃなければ―彼の体が彼に考えさせようとするある考えに、彼は後ろに倒れて身もだえした―何か現状以上のものを求めて探り合う二人の男? ブランドンは寝返りを打って、頭の上に枕を被せた。

ジェイクは、タオル一枚のまま、その場にもうしばらく座っていたが、しまいに一度長い一続きの息を吐き出した。彼は立ち上がり、歩いていって、灯りを消し、床にタオルを落とすと、ベッドに潜り込んだ。裸で、軟膏の匂いに包まれて。



***



読んでくださっている方は、非常に限られたメンバーのように見受けられるので…。



もう一章だけ?なら?




その内、投稿しちゃっても、大丈夫かな?



Manhandled Dean




Slash のもはや一ジャンルと言ってもいいのではないかと思う、ある意味王道の形式というか、フォーマットのようなものがあって、それは、




誰々が、〇〇した、5回の時(or 事)





という、短いお話の集合体となっているFanficです。



〇〇の部分が様々に変化するわけですが、

とある一つのテーマを据えて、主人公となる「誰々」が、全く異なる状況で、「〇〇」に遭遇するシーンを5つ立て続けに書く、というものです。



たぶん様々なFandomで活用されている形式だとは思うのですが、大抵の場合、前後の説明もなく、あるワンシーンを切り取った短い断片的な文章となるため、

いまひとつ…な腕前の作家さんだと、テーマから微妙にピントがずれてしまったり、「んんん?」と、なかなかシーンの状況解読ができなかったり、

いいプロットだと逆に、「もっともっと長~く読みたいっ!」と、欲求不満が残ってしまったりと、

人によっては、このタイプのSlashはあまり好みじゃない、と言う方も見かけます。


でもまあ、それぞれ数分で読み終わるような短いお話が五つ固まったものなので、

書き手さんにとっても、読者にとっても、たまの息抜きという感じで気楽に書けて、気楽に読める楽しい作品になることも多い、という意味では、

好みのテーマのものを見つけると、とりあえずざーっと目を通してみたくなるお話であるといえます。



***



ということで、今回ご紹介するのは、またもや freshflutter さん…で、


 (Gordon/Dean, Alastair/Dean, Sam/Dean, 3.4k, nc-17)

ディーンが力ずくで身体を自由にされた5回の時(ちょっと誤解を与える書き方かしら…)



という作品。





彼女がこのお話を書くことになった経緯というのは、以下のとおり:

Couple of weeks ago, during the course of a weekend spent watching SPN and the Jensen-highlights of Dark Angel, bertee and I agreed that we enjoyed Dean being manhandled to the extent that he should be being manhandled by someone whenever he is on screen.

To combat the sad fact that the show runners probably won't go in this direction, we have both written 'five times Dean was manhandled' fic. I'm afraid my writerly mojo is a bit borked currently, but here is my offering. bertee will be posting hers at some point – I'm not exactly saying you should all go camp out on her journal, but I would certainly not judge if you did.

This is not beta'd, or ameripicked, and is purely to indulge in the kink of manhandled!Dean so please do not be expecting stunning literary insights.


bertee というお友達と、SPN およびダークエンジェル(Jensenが出てる回ばっかり)マラソンをした彼女は、Deanという人は、画面に出ている限り、誰かから常に力ずくで「manhandle」されているべきであるという結論に達したのでした。

とはいえ、ドラマの制作サイドはこの方針に同意してくれそうもないので、Deanが「manhandle」されているシーンばかりを集めた短いお話を自分たちでちょこっと書いてみることにした、というもの。






Manhandle という単語を日本語で一言で言い表すのは難しいですが、

特にSlashなんかで使われる時には、

「相手の意思に逆らって、もしくは相手の意思を無視して、力ずくで好きなように相手の身体を動かしたり、移動させたりする」

という意味合いが強くて、もちろんワタクシのような、完全 Sammy(Jared)Top 推奨派としては、

Dean(Jensen)が、Manhandleされるお話というのは、微塵の迷いもない「大好物」ということになります。


今回ご紹介する「Five Times」ficlet も、短いながら、それぞれに大変上手くポイントをついたいいお話になっています。

(実は、お友達の berteeさんも、ほぼ同時に、「5つの場合」を投稿していたのですが…、私の好み的には、「んんん?ん~~…」なパターンだったかな…。
もちろんこういうタイプのお話こそ、作家さんとの相性というものが大きくなってくるという事実はあるにしても、才能の差、というものも大いに感じてしまいます。)





5つの小さなお話、それぞれ全部良い味を持っているけど、僅差で一番のお気に入りに挙げたいのは、トップバッターでもある「RoboSam(=SoullessSam)」のお話でしょうか。



大変短いお話なので、流し読みに日本語をつけてみます。

(本当に、いい加減につけた日本語ですので、大きく間違っていたり、意味がとれなかったりしたらあしからず、ということにしておいていただけるとありがたいです)



「RoboSam」




Dean isn't a small guy, Sam's just bigger. Bigger and taller and stronger, and none of that is a problem when Sam's his usual awkward and overgrown self, because what Dean lacks in size and power he makes up for in sheer badassery, and Sam respects that. But without a soul, Sam just doesn't understand how that greater weight and strength should operate in relation to Dean, how it relates to their relationship.

ディーンは小柄な男じゃない、ただサムがもっとでかいだけだ。ディーンよりも大きくて、背が高くて、力が強い、それって、不器用で、育ちすぎの子犬みたいないつものサムだったら、なにも問題になることじゃない。だって、大きさや力でかなわないところは、ディーンの生粋のクールさで補えているわけだし、サムもその辺は尊重してくれてるから。
でも魂が抜けてると、サムって奴は、体重や力強さの優位性というものを、ディーンに対しては、加減して使うべきなんだってことを全く理解しないのだ。そういった体格や力の差を二人の関係にどう関連付けるべきかってことを。



That, in Dean's opinion, is RoboSam's whole problem: he just doesn't get their dynamic.

ディーンの見解からすれば、それこそが、ロボサムの問題の全てをあらわしていると言える。つまり、魂の抜けたサムは、二人の間の力関係ってものをまるで分かっていないのだ。



As such, when he sees a poltergeist-propelled piece of debris coming loose overhead and falling straight at Dean, Sam doesn't shout a warning or push him out of its path or anything like that. No. He just puts his arm around Dean's waist, lifts him smoothly off his feet and sets him down in a new, less dangerous spot.

というわけで、ポルターガイストが吹っ飛ばした瓦礫の破片がディーンの頭の上に真っ逆さまに落ちてくるのを目にした時、サムは警告を叫んだり、破片の落下経路からディーンを押しのけたりとかっていうそんなようなことを一切しなかった。しなかったのだ。サムは、単に片腕をディーンのウエストに回すと、ディーンをひょいっと持ち上げ、新たな、あまり危険じゃない場所に、ぽんっと降ろした。



It's not only the sensation of having his ribcage jerked up around his shoulders that keeps Dean from reacting immediately; there's a lot of stunned indignation to deal with too.

ディーンが素早く反応できなかったのは、肋骨をサムの肩でぐいっと押し上げられた衝撃によるものだけじゃない、とっさに対処しなければならない怒りが一挙に溢れかえっていたからだった。



Eyeing the point of impact curiously, Sam nudges Dean a few inches further out of the way. "This place is a deathtrap, man. How the hell are we supposed to find the bones when pieces of house keep falling on our heads?"

瓦礫の落ちた場所を興味深げに眺めながら、サムは、もう数インチ、ディーンを遠くに押しやった。「この場所はまるでデストラップが仕掛けられてるみたいだな。ひっきりなしに頭の上に瓦礫が落ちてくる中で、どうやって遺骨をみつけろっていうんだ?」



"Don't," Dean manages at last. "Don't you. Just." He points a finger in Sam's direction, who regards it with the same placid interest with which he reacts to everything that's a part of finer feelings these days. "Don't ever, ever do that to me again."

「やめろ」ディーンは、やっと声を絞り出した。「お前、もう。とにかく」彼は、サムの方向に指を一本突き出したものの、サムは、彼があらゆるものに向けるのと同じ落ち着き払った態度で、その指をじっと見ている。近頃では、これが繊細な感情っぽいものってことになっているのだ。「おまえ、二度と、二度と俺に対してこんなことをするなよ」



Sam's brow creases. "Do what?"

サムは眉をしかめた。「何を?」



Dean doesn't even like having to clarify. Saying the words makes it all a little harder to forget what just happened. He squeezes his eyes shut as he says it. "Pick me up like that. Don't do it. It's just… not cool."

ディーンとしては、はっきりと口にもしたくないところだった。言葉にすることによって、たった今起こったことをちょっと記憶に焼き付けてしまうことになる。彼は両目をぎゅっと閉じて、口を開いた。「あんな風に、俺を持ち上げたりすることだ。あんなことはするな。あんなのは、とにかく…クールじゃない」



"It was gonna fall on you. And we don't have time for you to be concussed. This is a two-man job."

「瓦礫は、兄貴の上に落ちるところだったんだぞ。俺たちには、今兄貴に脳震盪なんか起こされてる暇はない。これは二人っきりの仕事なんだからな」



"So you open your big flappy mouth and warn me next time."

「だったらこの次は、お前のそのでっかくて締まりのない口を開いて、俺に警告しろ」



"Warn you that I'm gonna pick you up?" Sam asks, frowning even harder.

「俺がこれから兄貴を持ち上げるぞって、警告しろって?」サムは、さらにしかめっ面になって聞いた。



Dean's patience is fast evaporating and it sounds it in his voice. "No. Warn me that there's a Wicked Witch of the East burial coming my way."

ディーンの堪忍袋の緒は急速に細くなっていき、その事実はディーンの声音に現れていた。「違う。この先に悪い東の魔女が埋まってるぞって警告しろって言ってんだ」



Sam shrugs. He looks back upwards, through the punched hole in the ceiling, to where the upper levels of the house shift and creak. "Easier just to move you someplace else."

サムは肩をすくめた。彼は、再び天井を見上げた。天井に空いた穴の向こうでは、上の階がずれて軋みをあげている。「兄貴を移動させた方が簡単だ」



"It really isn't," says Dean. He straightens himself up like he's getting ready to throw a punch, rolls his shoulders as though it might fool Sam into thinking he's bigger than he is. "You want me to prove it?"

「まじで、そんなことはないんだ」ディーンは言った。彼は、今にもパンチを繰り出そうとでもするように背筋を伸ばし、両肩をまわした。そうすることで、サムが、自分のことをサムより大きいと騙されて思ってくれるとでもいうように。「証明して欲しいか?」



Sam sighs a long-suffering sigh, looks upwards and points without a word. Dean follows the direction of his finger – and takes a piece of falling timber to the shoulder.

サムは、長く重々しいため息を一つつくと、上を見上げ、無言で指差した。ディーンは彼の指さす方向を辿り-落ちてきた木材の欠けらを肩に受け止めることになった。



He grunts, staggers, and goes down on his knees. Sam looms over him, taller than angels, a dusty halo of light around his head where the daylight pours through the demolition.

彼は呻いて、よろけ、両膝をついた。天使よりも丈高くディーンの前に立ちはだかったサムの頭の周りには、崩壊した穴から差し込む日光が降り注ぎ、埃っぽい後光が差している。



"You need a little help?" Sam says.

「手を貸そうか?」サムが言った。



Dean clutches blindly at his hand, and he's making a good attempt at getting back on his feet – particularly impressive considering half his body is still ringing with pain – when Sam sighs again, sweeps Dean's legs out from under him, picks him up and starts walking.

ディーンは、ろくに考えもせずにその手を掴み、なんとか立ち上がろうとなかなかの努力を始めた-身体の半分がまだ痛みでビリビリしていることを考えれば、感服ものの努力だともいえる-そんな時、サムは再びため息をつき、ディーンの両脚をすくい上げると、ディーンを抱き上げて、歩き出した。



"Easier this way," he says simply.

「こっちの方が簡単だ」 彼は、そっけなくそういった。



And though he might be right, and though it means crawling out of the danger zone on all fours, Dean still punches him hard enough in the neck to get him to drop him.

サムの言い分は正しいかもしれない、そして、この行動により四つん這いで危険ゾーンから這い出さなければならないハメになるだろう、それでもディーンは、サムの首筋にキツいパンチをお見舞いして、彼を抱くサムの腕から落ちてやった。



He may not have the muscles, but he has his badassery.

腕力ではかなわないかもしれないが、ディーンはクールな男なのだ。




***




五番目の、普通の(?)サムとの濃厚な NC-17シーンを切り取った Ficletも好きです…。

父ちゃんや、ゴードンとの話も、それぞれ良い味出してる!っていう感じなんですけどもねー。


2011年9月30日金曜日

Caught Running 第四章



Jake と Brandon 、なかなか仲良しシーンが出てきませんね!




こんなに仲良くなるまで引っ張ってたの?




もうこの際だから!ということで、もう1章、続きを投稿させていただきます。







どうぞ、引き続き、息を潜めて、こっそり読んでいただければと思います。









『Caught Running』













第四章




「他にも誰か疲れたなんてグチりたいやつはいるか?」と、ジェイクは、標的となった運の悪い子供が、グランド5周のノルマの一周目を始めるとまさに叫び声をあげた。彼の声の様子はいつもと違っている。ジェイクはいつも叫んでいる。でも叫ぶのとキレるのとは別物で、ジェイクはほとんどキレることはない。今日の彼はしかし、キレていたし、子供たちはそれを感じ取っていた。日暮れは迫っていたが、誰一人として練習が終わりに近づいているなどという希望を持ちはしなかった。トロイですら、眉をひそめてジェイクを眺め、子供たちを注意深く見守っている。彼は、割って入りたそうにも見えたが、明らかにトロイもこんな機嫌の時のジェイクには近づくべきでないことを経験上知っているようだった。彼はまたジェイクがどんなに機嫌が悪くても、決して子供たちを傷つけるようなことはしないということも知っていた。

ブランドンは近くに立ち、身がすくむのに近い感覚を覚えたが、それはジェイクの言葉よりも、その声の調子に対してだった。それにしてもキレて怒鳴り散らす声というのはいたたまれない。ブランドンは、もしジェイクが本当に子供たちを虐待するようなことをするなら、素晴らしいコーチという名声はありえないことは承知していた。さらに、ブランドン自身の心に秘めた意見としても、子供たちはもっと走り込む必要があると思っていた。彼らは耐久力を強化する必要がある。何人かの子は、一マイルと持たずに脱落してしまうくらいだったから。

ついにジェイクは、いまいましげに子供たちの練習をやめさせ、子供たちに背を向けながら、一言も発することなしにグランドから出て行けと手を振った。ゴロのエラーに、ボールの取り損ね、一マイルも的を外したバッティング、極めつけは、そうでなくても彼の神経に障る泣き言を言うやつら、そんなことが際限なく続いた。自分はこんなところにいていいのかという疑問が湧いてくるのは、こんな日だ。他のコーチたちはただ静かに待っていた、唸り声をあげる虎を突つくべきでないことを承知しているのだ。トロイすら大人しくしているというのは、ブランドンにとっては驚きだった。

ジェイクは他の男たちに唸ってみせ、頭を振った。「ビールだ」と、男たちの前を通り過ぎながら、彼らに向かい怒鳴りつけるように言った。肩をすくめ、ブランドンは先頭を切って、ジェイクの後に続いた。コーチたちは今夜、ヘッドコーチの家に行くことになっていた、ジェイクの悲惨な機嫌にも関わらず、その約束はまだ生きているのだと、彼は推測した。「君たち、僕の車に乗っていくかい? 終わった後、またここで降ろしてもいいよ」と、彼はトロイとジョナサンに申し出た。

「その申し出を受けさせてもらうよ」と、ジョナサンが笑顔を見せる横で、トロイが首を振った。

「ありがとな。だけど俺はいい」トロイはそう答え、彼らの前方を大またで歩くジェイクを見やった。「ジェイクは今日、車で来てるから…」彼は、ジェイクが古いシボレーのトラックへと歩き、彼の用具バッグを後部座席に乱暴に投げ入れるのを目にして言葉を途切れさせた。ジェイクはいつも必ずバッグの扱いには十分に注意を払っているのに、だ。「実際のところ、うん、頼むかな。俺、助手席に乗る」トロイは彼らに向かい、そう言った。ジョナサンは彼に顔をしかめて見せて、三人はブランドンの車へと歩みを進めた。

ブランドンは鼻を鳴らし、皆が乗り込めるようドアの鍵を開けた。「ライムの上に座るなよ」と、彼は今にも助手席に飛び乗ろうとしたトロイに警告した。床には、六本入りのコロナの瓶も積んである。

「これって法律違反じゃないのか?」トロイは、シートに滑り込み、床からビールを引き上げるとそう訪ねた。「くそっ! ジェイクのやつ、俺にはキャンパスにアルコールを持ち込んじゃ駄目だって言ったんだぜ」と、彼はふてくされて、ドアを閉めた。

後部座席でジョナサンが笑い声をたて、トロイの頭をぽんっと叩いた。「それは君がランチ用に持ち込もうとしたからだよ」

「くそったれ」トロイはせせら笑いを浮かべ、ビールを抱きしめた。「お前ら皆くそったれだ」彼がそう宣言した時、ジェイクのトラックが彼らの横に来て停まった。

「俺んちに集合な」ジェイクはトラックの窓から頭を出して彼らにそう言った。「俺はひとっ走り店まで行って、何ケースか買ってくる、お前ら皆、先に行っててくれ」

「僕にコロナをもう一パック買ってきてくれないかな、僕が持ってきたコロナにトロイがすっかり愛着を感じちゃってるみたいなんで」ブランドンは、今や透きとおったボトルに向かってささやきかけるような声を出しているブロンドの男を見やって、おどけて言った。ジェイクはブランドン越しにトロイを見やり、呆れ顔で目をくるっと回した。「コロナだな?」と、彼は確認のために尋ねた。

ブランドンはうなずいた。「うん」彼は手を伸ばしてトロイから六本パックを取り返そうとしたが、その手はぴしゃりと叩き落された。「ろくでもないやつだな!」彼は、トロイに向かって怒鳴って見せたものの、その顔には笑顔が浮かび、後部座席のジョナサンは大笑いしている。

ブランドンが自分の権利を主張する様子を笑顔で見つめつつ、ジェイクはロッカールームでの感情が再び湧き上がってきていることをゆっくりと自覚した。「やつをライムに近づけるなよ。お前、一生心に傷を負うことになるぞ」突然の感情になんとか抵抗し、微かに声を強張らせつつ、彼はそう警告した。それ以上見つめ続けることになる前に、彼はエンジンをふかして、駐車場から素早く走り出た。

トロイに向かってぶつぶつと文句をいい、睨む振りをしながら、ブランドンは車のエンジンをかけた。「運も尽きだな。せっかくビールを持って来ても、君にくすね盗られるんだから」と、彼は低い声で悪態をついた。

ジョナサンはシート越しに体を乗り出しつつ、まだ笑い続けていた。「トロイにライムを与えたらどんなことになるか、まあそれを見てみなよ」

「それは、ああ、それはかなり見ごたえがあるぞ」と、トロイは邪悪な笑い声を立てた。「それより、なあ、ジェイクのやつなんであんなに虫の居所が悪かったんだろうな?」

「マジで、コーチ、食物繊維かなにかとった方がいいと思うよ」と、ジョナサンが言う。

ブランドンは大笑いしそうになるのをこらえた。「わからないけど。彼、最後の授業の後は、機嫌よかったんだよ」と、彼は言った。「僕が思うに、今晩の彼って、ちょっと…」

「キレてた」

「ああ」

「あいつがあそこまでキレるなんて、あん時以来だ、あの…」トロイは突然そこで言葉を切り、じっと窓の外を見つめ、それから口が滑ったとでもいうように首を振った。「よっぽど嫌なことでもあったんだろうよ」と、身動きもせずにそう言葉を終わらせた。

ジョナサンがトロイの肩を突つく。「いつ以来だって? 今日のキレ方って、今後も僕たちが目にする可能性があるってこと?」

「わかんねえ」トロイはしぶしぶと答えた。「つまり、今回キレた原因はわからねえってことだけど。前にやつが今日みたいなとんでもないキレ方をしたのを俺が目撃したのは、肩が駄目になっちまったってことをあいつが知った時だったんだ」

ジョナサンが、十年前にはどれだけ多くの選手たちが無理をさせられすぎた挙句、それが原因でキャリアを棒に振ることになったかについて熱心に語り始める中、ブランドンはハンドルをきつく握り締めた。ジェイクの肩? くるぶしと、ぶっ壊れた膝のほかに? そんな状況に立ち向かうため、彼はこれまでどれほどのことをくぐり抜けてきたのだろう? ブランドンは、ジェイクがどれほどスポーツを愛していたかについて、全く知らないという事実に気づいた。二人の男たちがおしゃべりを続ける中、彼は深く思いに沈みながら運転を続けた。

ジェイクのドライブウェイに車を乗り入れても、まだトロイはコロナをしっかりと掴んでいた。「それ返してもらえないみたいだな?」ブランドンは力なくそう言った。

「うん」トロイは満面の笑顔で答えつつ、車から降りる。

「ライムは独り占めにはさせないからな」と、ブランドンは言い返した。

「どっちにしても俺がライムちゃんを用済みにする頃には、お前はライムを欲しいとも思わなくなるさ」トロイはそう呟くと、まるでこの家の住人であるかのように、ふんぞり返って玄関まで歩いていく。彼はドアの上の隠し場所からスペアキーを取り出し、ドアの鍵を開け、むかつくような笑顔で彼らを手招いた。

ジョナサンは笑って、階段を弾んで上っていった。「早く、ブランドン。ライムが欲しいなら大至急確保しないと」彼にそう言われたブランドンは、バックパックを掴むと、階段を駆け上がり家の中へと入った。



ジェイクはそれから間もなく家に着いたが、そのまま座って、自分の家の玄関を睨みつけた。「手綱を引き締めろよ、自分」彼は両手首をハンドルに預けて座ったままそう呟いた。彼はこれまでにもこんな状況に対処した経験がある。惹かれてはならない相手に惹かれてしまうという状況に。今度も上手くやれるさ。不機嫌に鼻を鳴らし、彼はトラックから降りて、トロイに荷物を取りに来させるため、物音荒くドアを叩きつけた。そして買ってきた数ケースのビールを掴むと、玄関まで苦労して運び上げた。

車のドアが閉まる音を聞いて、ブランドンは玄関へと急ぎ、ジェイクのためにスクリーンドアを開けてやった。「トロイには気をつけろよ。あいつ、もうばか騒ぎしてるから」ブランドンが警告する間もなく、ブロンドの男が、くすね盗ったコロナの瓶をマイクに見立てて歌いつつ、靴下履きの足で堅木張りのフローリングの玄関ホールにすべり込んできた。

「ああ、なんてこった」トロイがターンをして、彼らに向かって尻を振り、気取った歩き方で退場すると、ジェイクはうめき声を上げた。「やつにライムをやったな?」彼は、ブランドンにぶつぶつ言ったものの、わずかに笑顔を見せて、荷物と一緒にキッチンへと向かう。「座れ!」と、彼はトロイに向かって、最高にばかでかくて、もっとも高圧的な声で怒鳴った。トロイは素直にソファにポトンと座り、唇をとがらせて彼を見上げた。「酔っ払いすぎちまう前に、俺たちはチームを仕分けなきゃならないんだ」と、ジェイクは彼に思い出させた。

トロイは、ふんっと息をはき、ジョナサンはドリトスの袋を抱えて彼の隣にどさっと腰を下ろした。ジェイクは軽く唸って見せて、サンルームにおいてある回転式のホワイトボードを取りにいき、それをテレビの前に据えると、大またにキッチンへ入っていって、マーカーを何本か探し出した。戻る途中、彼は冷えたビールを一本つかみ、小さな薬の壜を沢山しまってあるキャビネットの扉を開けた。



ブランドンは二本目のコロナとライムを取ろうと別のドアからキッチンに入ろうとして、キャビネットのところに立っているジェイクに衝突しかけ、ドア口で立ち止まった。「ごめん」彼は低く呟き、ジェイクを迂回して冷蔵庫へと向かった。

「問題ない」と、彼は呟いて、錠剤を掌に出し、そこから二つ取り上げた。「狭い台所は仲良し家族を作るのに役立つ」と彼は考えもせずに言った。この家は相当に広くてキッチンもそれほど狭くはないのだが、彼の母親が好んで口にしていた言葉だ。

驚きに背筋を伸ばし、ブランドンはライムを切るためまな板の方へと移動しながら、興味を持って、ジェイクを見やった。それは面白い格言だった。その言葉は、彼が生まれ育ち、今だに暮らしている家には、ぴったりだと思った。この言葉には愛情がこもっている感じがする。彼は瓶の蓋をねじあけ、瓶の口にライムを押し込みながら、ジェイクが錠剤をビールで流し込むのを見つめた。今の言葉を口にしたのが他の誰かだったら、ブランドンは絶対に何かコメントしていただろう。

ジェイクは肩越しにブランドンに視線を投げ、自分が今何を言ったのか、と、ブランドンが静かに自分を見つめていることに気づいた。「ん?」ゆっくりと顔を赤らめながら、何の気ない口調になっていることを願いつつ、彼は尋ねた。

ブランドンが必死に葬り去ろうと努力している、あの惹きつけられる感覚が、その魅惑的な頭をもたげてきて、彼は瞬きしつつジェイクを見つめることしかできなかった―今、目の前にいる男が、彼の本当の姿なのにちがいない。威張り散らしてもいない、コーチでもない、怒鳴ってもいない、ジョークも言わない。ただ疲れきって肩を落とし、のど仏をびくびく動かして、髪はくしゃくしゃで、肌は上気して。科学教師は目の前の情景を断ち切るため、完全に目を閉じなければならなかった。「準備はいいかい?」彼はかすれた声で、トロイとジョナサンがアメリカンアイドルについて楽しそうにくだらない口論をしているのが聞こえてくる別の部屋の方をボトルで指して、そう聞いた。

ジェイクはその機会をとらえ、自分の指を引き出しで勢いよく挟んでみることを真剣に検討した。そうすれば簡単に気を散らすことができる、そうだろ? そうとも。 「おう」と、彼は呟き、三本のマーカーと自分のビールをつかむと、別の部屋へと向かった。

ブランドンは彼について歩きつつ、白い野球ズボンに包まれたジェイクの尻を見つめないよう必死で努力した。とにかく必死で。なんだよ、もう! 考えるな。ジェイクがホワイトボードの前に立つと、彼は、トロイをドリトスから引き離す方向へと押しやって、ソファに腰を下ろした。

「頼むよ、バートレット、いじわるすんなって」トロイが哀れっぽい声を出し、チップスの袋に手を伸ばそうとして、実際にブランドンの上によじ登ると、ジョナサンは身もだえして大笑いし、ソファから床に転がり落ちた。

「トロイ!」ジェイクは怒鳴った。長い一日の後で、ただでさえうんざりして、疲れて、暑くて、薄汚れているってのに。 「落ち着きのない子供に飲ませるあのリタリンでもなんでも飲め!」彼はイライラと怒鳴り散らしながら、マーカーのキャップを外した。

トロイは彼に向かって中指を立てて見せたものの、ソファの自分の端へと戻った。ブランドンはチップスの袋をつかみ、トロイの胸元へと放った。 「ほら、いい子にしてなさい」彼が静かにそう言うと、トロイは笑いを噛み殺して、きちんと座りなおした。その顔には子供のような笑顔が浮かんでいる。

「ったく」ジェイクは呻き、マーカーの先をホワイトボードにつけたものの、その手を引っ込めた。「お前は、チーズを過剰摂取してハイになっとけ、俺は着替えてくる」彼は力なくそう呟いて、マーカーを置くと、階段を上りながらシャツを脱ぎ、それを使って胸元をぬぐった。

ジェイクの代わりにイライラを引き受け、ブランドンは手を伸ばして、トロイの後頭部を叩いた。 「君は彼の友達だろ? 彼がどんなに疲れてるかわからないのか? ちょっとは口を閉じたらどうだ、トロイ」

「なんだよ。もしあいつが疲れるたびに口を閉じてたら、俺は年がら年中黙りっぱなしでいなきゃならないぜ」と、トロイはぶつぶつ言って、生物の教師を睨みつけた。

「ま、ちょっと大目にみてやってよ」と、ジョナサンが床に落ちたままの場所から言った。「じゃなきゃ、トロイとジェイクなんていうガキどものことは放っておくかさ。僕らだって、ヘッドコーチから酷い目に遭わされてるんだから」

トロイとジョナサンは低い声で話し続けていたが、ブランドンはただじっと階段を見つめ、彼が目にした裸の胸と背中で、筋肉が動いていた様子を思い出していた。彼は唇を引き締め、今晩はこれを最後の一本にしておこうと決めていたにも関わらず、手にしたビールをごくごくと飲んだ。

ジェイクはシャワーを浴びなかったが、清潔な服に着替えただけでもだいぶ気分がよくなり、彼はそのまま階段をドスドスと下りた。彼はゆったりしたスウェットと、柔らかくて薄く、第二の皮膚のように体にフィットする大学の友愛会の名前の入ったTシャツを着ていた。くつろぎウェアってやつだ。彼は、他のメンバーにもそれぞれ一枚ずつTシャツを持ってきて、ソファの大体の見当に向かって投げ、再び自分のビールを取り上げた。

「よし」彼は短く息を吐き、マーカーを取り上げた。「みんな落ち着いたか?」彼は、トロイがアンダーアーマーを脱ぎ、居心地良くジェイクのTシャツを着込むと、疲れた声で尋ねた。ジョナサンはTシャツを受け取ったものの、たたみなおしてそのまま横に置いた。あきらかに、小柄な男はアンダーアーマーを着たままでも窮屈でないのか、もしジェイクのシャツを着たら、パパの服を着た五歳児のように見えることを知っているようだ。

ブランドンは、ジェイクが彼に向かって投げたシャツを持ち上げた。 『男女混合裸レスリング』 なかなか趣がある。彼は控えめの笑顔を浮かべ、トロイがジェイクに小声で謝っているのを聞きながら、ジャージを脱いだ。次にアンダーアーマーを脱ぎ、ブランドンは肌に触れた冷たい空気に驚いた。ユニフォームの中にこんなに熱が籠もっていたことに気づいていなかった。ただ熱を冷ますため、彼はTシャツを持ったままその場に座り、トロイがちゃんと座って、少なくとも自分の半分の年齢くらいの態度をとるようにする、と約束しているのを聞くともなく聞いていた。

ジェイクは振り返り、何かを言おうとして、突然言葉を止めた。彼の目はブランドンの裸の胸を捉えていた。彼は瞬きし、素早く視線を逸らすと、赤面しないように努めながら、しばらくの間ホワイトボードを凝視した。ったく、どんどん重症になっていく。無言で、彼は野球部のトライアウトに参加した少年たちの苗字を書き始めた。六十人全員分、記憶だけで。アルファベット順に。学年ごとに。

科学教師はあくびをし、ちょっと伸びをして背中のこりをほぐしてから、Tシャツを着て、それが実際彼の体によくフィットすることに驚いた。お気に入りで着古した感じがする。彼はショッキングな言葉を手でなぞり、笑いを抑えた。

「一年が二十二人いる」ジョナサンはジェイクにそう言って、ソファに背中を預ける形で床の上に落ち着いた。「少なくとも五人は残したい」

「四年が十五人」ジェイクは一つうなずいて応えた。「なんてこった、三年は全滅しちまうぞ」彼はぞっとしたように呟いて、また一連の名前を書き始めた。彼はしばしその場に立ち尽くして、計算した。選抜チームに入れられるのは二十人きっかりだ。そしてそれでも目一杯なのだ。「誰か名簿を取ってくれ、やつらの学年じゃなく、生年月日で考える必要がある。それと、去年の統計からな。ったくなー」彼は首を擦りながらひとりごちた。

「これって、俺のチームを皆殺しにすることになる。それはお前の来年のチームを皆殺しにするってことにもなるんだぜ」と、トロイは、ついに素面に戻った声で言った。 「三年たちに残された時間はわずかだし、もし今年外されたら、辞めるやつが出てくるかもしれない。大学に向けて、試合に出るチャンスをつかむためにバークマー高へ転校するやつさえ出てくるかも」

ブランドンは移動してジェイクのバッグをつかむと、自分の足元へと引きずってきて、コーチが要求する名簿を引っ張り出した。彼は生徒たちの略歴のページを開き、ヘッドコーチを見上げた。「読み上げようか?」

「待て待て」ジェイクは首を振りながらつぶやいた。彼は首の後ろを擦り、ボードの名前をしかめっ面で眺める。 「いいさ、なんとかなるだろう。最初は、完全に野球の技能だけでやってみる。それぞれ二十人に絞るんだ。それからってことにしよう、いいよな? 成績がどうかなんてことはとりあえずどうでもいい。第一選考に残るほどの技能があるなら、代表チームに入るに値する。それからあれこれいじくり回してみることにすればいい」と、彼は言い、確認のため他の三人を振り返った。

科学教師は肩をすくめ、トロイとジョナサンを眺め、二人が揃ってうなずくのを目にした。ブランドンはソファに深く座り、両足をコーヒーテーブルに乗せ、足首を交差させた。長い夜になりそうだ。

ジェイクはうなずき、ホワイトボードに向き直るとリストの名前を読み下して、確実に代表チームクラスである生徒たちの名前をチェックした。彼は明らかな初心者、そして何らかの理由で、実戦に向かない数人の生徒の名前を線で消し、一歩後ろに下がった。

十四人の代表候補が残った。その内五人は三年だ。彼はため息をつき、助言を求めて振り返った。トロイは肩をすくめてうなずいた。 「四年を削るのか?」彼は疑わしげにそう尋ねた。

「やつらの何人かは三年に負けてるからな」ジェイクはわずかに眉をしかめて呟く。「それにあのチビのガーナーは、もうちっと成長するまで、木に付けといた方がいいだろう」彼はそう付け加えて、その子の名前に思いっきり線を引いた。

「ガレットを削った方がいいかもしれないよ」と、ブランドンは、昨年の代表チームにいた四年生の名前を挙げ、静かに提案した。非常に優れた選手でもなければ、スターというわけでもないが、常に信頼の置ける選手だ。

「削るって?」ジェイクは真面目な顔で聞いた。科学教師からアドバイスを受けたという事実に瞬きすらしない。

「ああ。彼は毎日練習に来てるし、試合でもきちんとプレイする、だけど心ここにあらずだ。彼は、君が見てない時には、ほかの考え事に気をとられている。それに、ある噂を聞いたんだ…」ブランドンはそこで話を切った。野球に関係ない話なんかを皆聞く気があるのか確信が持てなかった。

「続けろ」ジェイクは一つうなずいて促した。

「クリスマス休暇の間に、彼がレイチェル・リチャーズに結婚を申し込んだって聞いた。噂では、彼女は妊娠してて、彼は天にも昇りそうに大喜びしてるって」

ジェイクは目の前の男をしばらくじっと見つめ、それから喉の奥で唸って、目をくるっと回し、首をコキッと鳴らすと、ホワイトボードに向き直った。 「坊主、頑張れよ」彼は低くつぶやき、その名前を消した。

ブランドンは肩をすくめた。 「クラークも問題ありかもしれない。女の子じゃなくて。成績の方で。マーティからは、今日ラウンジで、中退して、軍に入ろうかと思うなんていう話を聞かされた」

「ヤツは確かに殺しが好きだよな」トロイは、冷笑を浮かべ小さくコメントする。

「ああ。去年は、バッティング練習中、バッドを銃みたいに構えるなって、警告したくらいだったからな」ジェイクは低く呟いてリストから名前を消した。

ジョナサンはそれまで大人しくしていたが、突然、甲高い声で、完全にテーマからはずれた質問をした。「今年のロッカールーム係って誰が担当するの? 皆で分担?」

「去年と同じようにな」ジェイクはうなずいてそう答えた。「トロイ、どいつを入れたい?」と、彼はリストをじっくりと検分しつつ、突然聞いた。トロイがボードへと小走りに近づくと、二人の男は気楽な様子で肩をくっつけて並んで立ち、五分ほどをかけて、リストの名前を使ってぞっとするような〇×ゲームを展開した。

ジョナサンはその様子を首を伸ばして眺め、ブランドンに笑顔を見せた。 「ビール、おかわりは?」彼は静かにそう申し出た。

ブランドンは首を振った。 「運転する時は、二本が限界なんだ。それに、夕飯を食べてないから、まじで何か食べた方がいいみたいだ」と、彼は付け加えた。 「トロイのドリトス以外に何か食べるものある?」

「ねえコーチ、ピザなんかどうですか?」ジョナサンはブランドンの膝をポンッと叩いてそう聞いた。

ジェイクは振り返ると、ぽけっと二人の姿を凝視し、瞬きした。彼は、実際にジョナサンに嫉妬したのだという事実を無理やりに脇へと追いやり、うなずいた。なんてこった! ジョナサンが全く男に興味がないってことは、百も承知だし、そして彼の知る限りではブランドンも同様だっていうのにだ。彼は全くどうかしてしまったのだろうか? 「金は引き出しに入ってる」彼は片手を振って、上の空で呟いた。

ジョナサンは立ち上がると、わざわざブランドンの上にかがみ込んで、こう囁く、「もし飲みすぎれば、コーチ、ここへ泊めてくれるかもしれないよ。今日は長引きそうだしさ」 彼は、相手の教師の耳へと囁き、体を起こして言葉を続けた。 「何かトッピングのリクエストはあるかな?」

「肉!」トロイはそう要望を出した後、直ちにホワイトボードのところへと戻った。ブランドンは首を振った。彼は何でも食べるし、食べたくないものは摘まんでよける。その時、ジョナサンがよろめいてバランスを崩しかけたので、ブランドンは手を伸ばして尻を押し上げてやった。 「モレリの店に電話するなら、パークビューが州大会にでるところを見たいなら、大急ぎで配達しろって言ってやれよ」と、彼は言う。 「あそこのオーナーは卒業生だから」

「はいはいはい」ジョナサンは片手を振って、ふんっと息を吐き、電話をかけにキッチンへと言った。 「タダで尻を掴まないでよね」彼は、にやにや笑いながら、そう付け加えた。ブランドンは呆れ顔で目をくるりと回し、手を振って彼を追い払った。

ジェイクは小さく唸り、背をそらせ、眉をしかめてジョナサンを眺めた。 「ピーマンを追加だ」彼は、ブランドンがジョナサンの尻を掴んだことは自分にはなんの関係もないことだと、自分自身に言い聞かせようとしつつ、そう付け加えた。 「それからマッシュルームも!」と、彼が追加する横で、トロイが笑いを噛み殺している。 「おう! それとタマネギ!」さらに彼が追加すると、トロイは抑えきれずに体を震わせ始めた。 「黙れ」

「その顔なんだよ?」トロイは馬鹿げた大笑いの合間にそう尋ね、その結果、ヘッドコーチから強烈な一撃を喰らうことになった。

「どんな顔だって?」ジェイクは身構えるように言った。

「その、誰かが僕の子犬をけっとばしちゃって僕はそのことにムカついてます、って顔」と、トロイは描写を試みる。 「ったく。俺、お前のそんな顔見るの、初めてな気がするぞ。どうしたんだよ、何が気に食わないんだ?」

ブランドンは二人の男を交互に眺めながら、ソファからその会話を聞いていたが、最終的にジェイクに視線を落ち着け、トロイが描写する表情というのを識別しようとした。彼の目には、ジェイクはなんともないように見える。

「黙れ」ジェイクはぶつぶつ言って、リストから別の名前を線で消した。トロイはそのままソファの上に倒れて大笑いしている。

「君、コロナを何本飲んだんだい?」ブランドンは、ほとんど期待すら込めて尋ねた。

「一本だけさ」トロイは、だがクスクス笑いをしてジェイクを指差す。 「でも、俺はその顔知ってる。今、その顔の意味を思い出したもんね」彼が歌うようにそう言うと、ジェイクは振り返って彼を睨みつけた。 「お前、気になる娘を見つけたな」トロイは、歌うような声のままそう追求する。 「あーあ! そのコに振られたのか? お前が一日中、マジギレしてたのって、そのせいか?」と、彼は大喜びで尋ねた。

ブランドンの両眉が飛び上がった。なんてこった。まるで高校時代に逆戻りしたみたいだ。ここで再び、彼は物言わぬ傍観人へと格下げになるわけだ。ジェイクの顔が雷雲のように暗くなり、ブランドンは、キッチンにいるジョナサンのところへ合流した方がいいのだろうかと思い巡らせた。そうすれば、事件の目撃者はいなくなる。

「お前の母ちゃんにはいつだって振られっぱなしだからな」ジェイクは最終的に、その目にからかいの気配を込めてそう答え、ホワイトボードに向き直った。彼は、自分に向けて投げつけられたビールの空瓶をひょいっと掴み、ジョナサンが両手を広げて、いったい何を見逃したんだ? と聞きながら部屋に戻ってくると、鼻で笑った。トロイは再びソファに倒れこみ、ブランドンは、ジェイクが口にしなかった言葉はなんだったのだろうと考えた。こ気味いいやり返しの言葉の前、ちょっと長すぎる間があった。トロイは気づいている風もないけれども。金髪の男が、数本のビールですっかり出来上がってしまうくらいに酒に弱いことは明らかなようだ。ブランドンは、ソファの自分とトロイの間にジョナサンが座れるよう横にずれたが、ソファとコーヒーテーブルの間に体をねじ込もうとするジョナサンがバランスを取るため、ブランドンの肩に手を乗せたことには気づきもしなかった。

ジョナサンが再びブランドンに触れるところを目にして、ジェイクはさらに両肩を緊張させつつ、これは全て自分が考えすぎているだけのことなのか、と不思議に思い始めた。 「よし」彼はほとんど唸るようにして言い、吐息をついて、緊張をほぐそうと首を回した。 「あと十三人切らなきゃならない」彼は数えながら、そう宣言した。 「名簿を持ってるのは誰だ?」と、彼は尋ね、コーヒーテーブルにどさっと腰をおろした。ブランドンはバインダーを持ち上げ、空中でそれを振ってみせた。 「それに目を通して、こいつらの中で、九月以降に生まれたやつがいるか見てくれ」ジェイクは、彼が丸をつけた複数の名前を指しつつ、そう注文を出した。

ブランドンはページを繰って確認し始めた。 「エリス。ウォーカー」数ページ進む。 「あのスティストンって子。それだけだ」

「三人とも二軍だ」ジェイクは直ちにそう言明し、自分のビールを取るため、後ろに体をそらした。 「残りは…、くそっ、ここからがとにかく最低なんだよな」彼は呻いて、座った姿勢に体を戻し、眉間を摘まんだ。

トロイはため息をつき、これから彼らが下さなければならない厳しい選択を前に再び大人しくなった。あと十人の子を切らなければならない。 「俺は、ミラーとロドリゲスを除名候補に挙げる」と、彼は静かに言った。

「理由は?」ジェイクは望みを込めて聞いた。理由があるなら、結論を出し易い。

「やつらは一つのポジションでしかプレイできない、強みが一つしかないってことだ。他は全員複数のスキルを持ってる」トロイはそう答えた。 「代表チームに融通性を持たせることができるだろ」

ジェイクはしばらくこの点について考えをめぐらし、残念そうにうなずいた。 「やつらには、来年またトライアウトに参加しろってきっちり伝えとかないとな」彼はそうコメントすると、ゆっくりと立ち上がってホワイトボードのところへと戻り、その子たちの名前を消した。 「この中で、成績に問題があるやつは?」と、彼は尋ねた。

ブランドンは、リストに残っている名前をチェックした。あと八人切らなければならない。 「グレゴリーは、補習を言い渡されたところだ。化学の平均点がC以下に落ちたもんだから」と、彼は名前を挙げた。

「実際問題さ、マネロとスロダメシュを切ってくれ。もし今度あの馬鹿野郎どもがトイレでタバコをふかしてるところを見つけたら、ムチで尻をひっぱたいてやる」と、トロイが言った。 「あいつらも、それがチームの規則に違反してるってことは承知の上だ」

「そうか」ジェイクは、興奮ぎみにそう応えた。 「フルクとギリアムは冬休み中、飲酒で補導されてる」彼は皆にそう伝えた。彼はその事実を名簿に書き込むつもりだった。彼は名前の挙がった五人の名前を消し、最後の二つの名前に向けて頭をかしげた。 「トロイ、どうだ、お前のチームに十九人抱えられるか?」と、彼は尋ねた。

「しょうがないな。やつらがベンチに座ってるのに飽きれば、二軍のチアリーダーでもやってればいい」ブロンド頭のコーチはそうのんびりと言って、周囲からうめき声のコーラスを集めた。

「なに言ってやがんだ」ジェイクはぶつぶつ言いながら、自分にはまた別に対処が必要なチアリーダーたちがいることを思い出した。時々彼は、単にあの時の女性と結婚して、彼女を惨めにしておけば、彼の人生は今よりずっとシンプルだったろうと考える。 「いいだろう」彼はしばらくリストを見つめた後、そう言った。 「俺たちのチームが決まったぞ」彼は、ちょっと驚いたような声でそう宣言した。なんだかあっという間に決まった。まるでそれを祝福するかのように、ドアベルが鳴った。

「おおう、僕が出る」ジョナサンは興奮して大声をあげ、ソファーから離れるため、実際にブランドンをよじ登った。

ブランドンはどう見ても膝蹴りを喰らったらしく、呻き、あえぎ声をあげた。 「くそっ、ジョナサン、気をつけろよ!」彼は、するどく息を吐いて、年下の男の太ももの後ろを叩いたが、ジョナサンはそのまま玄関へと続く廊下へと駆け出て行った。彼は目をくるっと回し、ちょっと体を動かして、ニヤニヤしているトロイを睨んだ。 「君も気をつけろよ、ライム坊や君」ブランドンは喉の奥で唸り声をあげた。

「なんだよ?」トロイは戸惑った様子で尋ねた。その顔に浮かんだ表情を見ただけでジェイクは思わず含み笑いをし、部屋を出て、皿を取りにキッチンへと向かった。

ため息をつき、ブランドンはソファの端に頭を乗せ、思いっきり体を伸ばして横たわった。彼は現在、もはや礼儀をわきまえてなどいられないくらいに疲れていた。それにトロイなんか、礼儀が近づいてきて尻を噛まれでもしなければ、礼儀なんてものを知らないってことは確かなのだ、なんでブランドンが気にする必要がある? ブランドンの無礼にジェイクがムカついたとしたら、彼は遠慮せずにそういうだろうし。 「やだやだ」彼は最終的にそう呟き、天井を見上げ、明日のことを考えた。

「チームのメンバーは掲示板に張り出す」ジェイクは、ブランドンの嫌悪の表情を、チームメンバー絞込みに対する考えの表明と受け取って、そう応えた。 「選手たちは、自分たちがメンバーに入ったかってことは朝の放送で知らされるんだ。俺たちは、ガキどもが打ちひしがれるところを見なくてすむ。臆病者の逃げ方ってやつだな」彼がそう認めた時、ジョナサンが二つの大きなピザを持って戻ってきた。ジェイクは皿を置き、全員に新しいビールを手渡した。

ブランドンはビールに目をやり、心から飲みたいと思った。でも、もし今晩ここに泊まることになったら―もうそれほど寝る時間もない、今や九時になろうとしているのだから―いつもよりもずっと早く起きて、家まで運転して帰り、着替えて、学校が始まる前の朝の補習のため、街へと車で戻って来なければならないってことになる。彼はため息をつき、ボトルをコーヒーテーブルに置いて、自分の皿に数切れのピザを取ると、再び座って、トロイとジョナサンのそれぞれのチームに対する計画についてのおしゃべりを聞きながら、食べ始めた。

ジェイクはコーヒーテーブルの前の床に腰を下ろし、箱からピザを一切れ掴んで、皿なんかには構わずに食べ始めた。 「もう飲まないのか?」彼は手付かずのビールをちらっと見て、ブランドンに聞いた。 「俺んちには寝室が4つと、ソファも腐るほどあるんだぞ」と、彼は半分本気で冗談を言った。トロイは時々、床を荒らしてやりたい気分になったらしい時には、床で寝ている。

「僕は、今晩どうしても運転して帰らなきゃならないんだ」ブランドンは口一杯にソーセージとペパローニを頬張りつつ、そう言った。 「もしここに泊まったら、とんでもなく早い時間に起きて、家に帰って、それからUターンしてまた街に戻ってこなきゃならない」

「お前な、俺にとっちゃ、家に帰らずここに泊まることをあきらめさせるほどの早起きなんて存在しないぜ」トロイはある種子供のような陽気さでそう表明する。 「お前んちまで車でどのくらいだ?」彼はしかめっ面で聞いた。

「マウンテンパークまでは、四十分弱だよ。暗くなってからだともっとかかる、鹿も沢山出るし」ブランドンはそう答えて、前に屈み、全部乗せピザを一切れ掴んで取った。 「もし泊まったとして、いつもどおりの時間に学校に間に合わせるためには、僕はここを午前三時に出発しなくちゃならない」

「なんだって?」ジョナサンは恐怖に慄いて聞いた。

「お前、毎朝何時に学校に着いてるんだ?」ジェイクは、自分で聞いておきながらその答えを知りたくもない、そんなことは彼の知ったことではないし、それに、ブランドンの喉を凝視するな! と自分に言い聞かせつつ尋ねた。

「六時ちょっと前」と、科学教師は低く呟いた。彼は視線を端から端へと動かし、三人の男たちが、様々な度合いの恐怖の表情を浮かべて彼を見つめているのを確認した。弁解なんかしないぞ、絶対…と思いつつ、「なんだよ?」と、彼はうっかり口を開いてしまった。

「なぜだ?」トロイは、いつもより少し甲高い声で断固として尋ねた。彼の口調は人類を代表して憤っているかのようだった。

ブランドンはピザを飲み込んだ。 「僕は、補習を受け持ってるから」彼は短くそう言って、体を少し動かし、片足を体の下に敷きこんだ。

「自分で進んでか?」トロイは同じ信じがたいという口調で尋ねた。

「うん、自分で進んでね」ブランドンは身構えるようにそう言い、攻撃に備えるかのように少し体をすくめた。

ジョナサンは眉をしかめた。 「そういうことをやらせるのに、フルタイムで人を雇ったっていうのを地区の回覧メモでよまなかったっけ?」ブランドンはきまり悪そうに肩をすくめた。皆にそれが無報酬の仕事だということを話すつもりはなかった。

ジェイクは目の前の男をじっと観察し、彼が少し自分の殻に引きこもり始めたのを見て取った。そんなことをする理由は全くないのにだ。そしてジェイクは、ブランドンが早朝に子供たちの勉強を手伝っているという事実について、皆で寄ってたかって彼に恥ずかしいことだと思わせるようなことをしている自分たちを彼はどう思っているのだろうと考えた。ある理由から、それは彼をちょっと苛立たせたが、それ以上に、居心地悪そうなブランドンのことが心配だった。 「去年の秋、俺たちが毎週末チームを引き連れて回ってたのと大した違いはないだろ」と、彼はトロイに静かに指摘した。

「まあ、そうだけど、でも早朝六時だぞ?」と、トロイは言った。 「それって拷問だぜ! 少なくとも俺たちが働いてたのは昼過ぎだ」

ジョナサンはブランドンとトロイを見て、そこに不穏な空気を見て取った。 「黙れ、トロイ。ブランドン、君、今はコーチの仕事を引き受けたわけだけど、これからも補習は続けるってことかい? それって、一日十二時間から十四時間も働くことになる、それも練習日の場合ってことだ。試合の時は―遠征だったら、まじで―時には午前一時まで帰れない時だってあるんだぜ」

ブランドンは再び顔を上げ、皆が彼の答えを待っているのに気づいた。 「子供たちは僕を必要としてる。それが補習だろうが、コーチの仕事だろうが関係ない。僕は子供たちのためにそこにいる」彼はそう静かに言った。しかし彼の声は断固としていた。

ジェイクは目の前の男をもうしばらく見つめた。彼はいまだにこの男のことを気に入っているのかどうか、決めかねていた。二人きりの時は気に入っている、しかし他人が周りにいる時に自分の殻に引きこもってしまうような不器用な様子を見ると―というか、ったく、ジェイクに対してすらそんな態度を取るやつだ―ジェイクはどう対処していいものかわからなくなる。彼の周りの人間は、常に、彼が気楽にしていて欲しいと思う時には気楽にしている人間ばかりだったから。 「お前がもしエネルギー切れになりそうだと思ったら、俺たちに知らせろ。遠征試合はサボってもいいから」ジェイクはそう静かに提案しながら、三本目のビールを開け、ごくごくと飲んだ。薬とビールがやっと効き始めたが、まだ足りない。

そんな風に仕事をサボったりするという考えは本当に嫌だったが、ブランドンはその事実については既にたっぷり心配していたことだったから、反論しなかった。少なくとも今のところは。 「覚えておくよ」と彼は言った。 「ありがとう」

トロイとジョナサンは意味ありげな様子でお互いを見やった。その後、一年生チームのコーチは甲高い声を出した。 「僕、テストの採点手伝えるよ」と、彼は申し出た。ブランドンは彼を眺め、片方の眉を上げた。トロイは低い声でぶつぶつ何事かを言った後、鼻の頭にしわを寄せた。 「俺だって手伝えるさ」と、彼は呟いた。それから彼は急に明るい顔になった。 「俺、スクールバスの座席で寝る最高の方法を実地で教えてやれるぜ」

ブランドンはあまりにびっくりして、言う言葉が見つからなかった。彼はこの男たちのことをほとんど知らないっていうのに、彼らときたら、こうして助けの手をさし伸ばしてくれている。自分をとんでもなく小さく感じる、まさにそんな感じだ。これがチームのメンバー同士の仲間意識っていうものなのだろうか? チーム仲間はいつだって協力し合うものだって言うのは、こういうことなのか? ブランドンが一度も経験したことのないことだった。

「それに坊主たちだって、お前がちょっとだけ信用してやれば、たぶん何かしらできると思うぞ」ジェイクは、完全なショック状態のブランドンには気づいた様子もなく、ピザに手を伸ばしながら追加した。

「あー」ブランドンは何と言っていいかわからないままだったが、「嬉しいよ」という言葉で落ち着いた。

ジョナサンは身を乗り出し、彼の肩を叩いた。 「ブランドン、君はもうチームの一員なんだ。俺たちはお互い面倒見合うもんなんだよ」

「それか、お前の下着を旗竿の天辺からぶらさげるか」と、トロイがにんまり笑って付け加えた。

ジェイクは呆れ顔で目をくるっと回し、何年も前、ライバルチームに勝利した祝いに、自分自身のボクサーショーツがぶら下げられたことを思い出した。 「俺たちはもうそういうことはしない」彼は目の前の男に保証した。 「この頃じゃ、どんな種類のいじめをやっても、チームから放り出されるからな」彼は殊の外、彼に向かって満面の笑みを見せているトロイに向かって言った。

「僕のライムたちに対して行われた、不快で自然に反する行為もいじめにカウントされる?」ブランドンは真面目を装ってそう尋ね、トロイを睨みつけた。ジョナサンが含み笑いをする。

「とにかく、そんなライムなんか捨てちまえ」ジェイクは素早くそう言って、イメージを払拭するかのように頭を振った。 「なあ、お前、そんなことばっかやってると、悪い評判が立つんだぞ」と、彼はトロイに向かって追加で言った。

「俺、自分の男らしさには自信あるもんね、巻き毛ちゃん」トロイはクスクス笑って言い返し、笑顔でコロナの残りを飲み干した。

ブランドンは思わず笑い出した。 「巻き毛ちゃん?」彼はジェイクの短く刈った髪を見た。

ジェイクは大っぴらに顔を赤くして、視線を下げたかと思うと、その場に座ったまま、なんと実際に言い訳をし始めた。 「俺の髪は、これ以上長くなると、カールし始めるんだ」と、彼は説明する。 「学生時代を覚えてるだろ。巻き毛ちゃんなんて、最高の悪口だぜ」彼が肩をすくめてブランドンを見上げると、トロイとジョナサンは大笑いした。

科学教師は頭を傾け、いたずらっぽい光をその目に浮かべ、軽く声を震わせて歌い始めた。 「サンダー、サンダー、サンダー、サンダーキャット!」

ジェイクがびくっと視線を上げ、完全に百八十度変わった彼の態度に驚き、信じれないという顔で目の前の男を見つめると、トロイは盛大に噴き出し、彼を指差して小さな少年のように全身で笑い続けた。ブランドンは大笑いしすぎて、ソファから落ちかけた。 「なんだい?」彼は笑いの合間に聞いた。 「あの歌、覚えてないのか?」

「俺、あれを覚えてるやつは全員脅して記憶喪失にさせたと思ってた」ジェイクがそんなことを口にすると、トロイはわき腹を押さえてソファの上で転げまわり、制御の効かない笑いの発作に襲われ始めた。

ブランドンは肩をすくめようとしたものの、単にもっとひどく笑い始めた。 「だったら、僕のことを見落としたんだね。まったく。あのフレーズは学校中を巡ってたんだ。トイレの壁にまで書かれていたんだから」ジョナサンとトロイは、そこでまた新たに一連の笑いの発作に取り込まれた。

ジェイクは居心地悪そうに体をもぞもぞさせた。 「なんでだよ?」彼は実際半泣き状態だった。フットボールの試合中の掛け声で、彼がどうしても理解できなかったのがまさにそれだった。なのにチアリーダーたちは、いくつかの試合でまで使っていたのだ。

ショックに目を見開き、ブランドンはただじっと彼を見つめた。 「君、理由がわからないっていうのかい? まったく、僕ですら理由はわかるよ。マンガがあっただろ? 『サンダーキャット』っていうさ? あのマンガのリーダーの若い男は、大きな声をとどろかせて、チームを戦いの勝利に導くんだ。あれって、賞賛の掛け声だったんだよ、フットボールコートにいる君へのね。今となっては、死ぬほどおかしいことだとしてもさ」

「マンガ?」ジェイクは疑わしそうにオウム返しで聞いた。彼は不満そうに息を吐き、より一層顔を赤くして、ビールを飲み干した。

「知らないの。今度、君のためにレンタルで借りてきてあげるよ」ブランドンはそう言って、頭を振った。 「とにかく、僕を信じてくれ。あれは賞賛の掛け声だった」彼は再び含み笑いをし、片足でジェイクの膝を軽く突いて、聞こえよがしの囁き声で言った。 「スピードボール君」

「わかった、もう思い出話は沢山だ!」ジェイクは大声を張り上げ、空中で両手を振って目を閉じた。 「なんてこった」と、彼は呻く。 「あの当時ですらこっぱずかしかったってのに、何年経っても余計にひどくなるだけだな」

ジョナサンとトロイは、笑いすぎでほとんど泣きそうになっていて、ブランドンはなんとか真面目な顔を保とうと唇を固く引き締めたものの、惨めにも敗北した。 「どれも、僕が昔呼ばれてたあだ名に比べたら比較にならないくらいマシだよ」科学教師は当然だという顔でそう指摘した。

「お前な、観覧席に満杯の人間からそれを叫ばれて初めて、本当の比較ってことになるんだからな」ジェイクはそう反論したものの、昔のいくつかの試合のことを思い出してさらに赤くなった。相手のチームが大笑いし始めるまでは、それほど悪くなかったのだ。もちろん、やつらが笑っていられたのも、試合でコテンパンに打ちのめされる前までだったが。 「ったく。しまいには対戦してる選手まで、俺をそう呼び始めやがったんだ」

トロイは鼻を鳴らして笑った。 「それでお前が余計に怒ったおかげで、俺たちはやつらをメッタメタにしてやったんだよな」ブランドンは、トロイがジェイクのワイドレシーバーだったことを覚えていた。このやりとりの間ずっと笑い続けていたジョナサンは立ち上がり、再びブランドンをよじ登ると、『サンダーキャット』のフレーズを口ずさみつつ、もっとビールを取りにキッチンへと向かった。

ジェイクは物騒に唸り、依然として盛大に赤面したまま体を丸め、その場の全員を睨みつけた。ブランドンは我慢できずに忍び笑いをもらしたものの、ジェイクに同情を表明した。 「ごめんよ」彼はそう呟いたものの、その顔は思いっきり笑顔だ。

「ろくでなしどもが」ジェイクはふてくされた様子で応答した。ったく、こういう思い出を掘り返されるのはこんなに恥ずかしいものか。なぜここまで恥ずかしいのか、彼にも判然としなかった。ひょっとしてそれは、この午後一杯ブランドンに劣情を抱き続けていたっていうのに、当のブランドンが昔の彼について覚えていたのは、馬鹿げたニックネームだけで、しかもそれを彼が大声で口にしたってことに、何かしらの関係があるのかもしれなかった。

ジョナサンは三本のボトルと、ブランドンのためにコーラを一本持って戻ってきて、皆にそれを手渡して回った。 「さあ」と、一年生のコーチが口を開く。 「他にも僕らが知っておくべき、美味しいゴシップ話が何かあるかな?」と、彼は尋ねた。

「ゴシップ? パークビュー高校のならいくつかあるけどな、でもお前、パークビューの職員知ってるのか?」トロイは中学校の教師に聞いた。ジョナサンはただニッと笑顔を見せた。 「よし」と、トロイは言った。彼は他の男たちを見回した。 「俺、ジェイソン・ビールズとタミー・パーカーが美術室の用具入れの中にいるところをレナータが見つけたって話を聞いたぜ」

「なんだ、俺は前にそいつらをロッカールームから追い出したことがあるぞ」ジェイクは頭をふりつつ笑い声をあげた。 「うっ」そこで彼は自分が今何を口にしたかに気づいて、声を上げた。 「そろそろ俺の口にガムテープを貼った方がよさそうだな」彼は呻いて、立ち上がると自分が飲んだ三本のビールの空き瓶をつかんだ。 「薬が効いてきた、じゃあな、お前ら」

「僕はもう行かないと」ブランドンは残念そうにそう言った。 「君たちここへ泊まるのかい?」彼はトロイとジョナサンに尋ねた。

「お前が乗っけてくれるなら、学校まで乗っけてもらう」トロイはうなずいて立ち上がると、柄にもない心配げな表情を浮かべて、キッチンへ入っていくジェイクを見つめた。

「僕も」ジョナサンはそう答え、ピザをまとめ始めた。

ブランドンはトロイの視線の先を追った。この二人は本当にいい友達なのだろうと彼は思った。金髪の男が常にふざけまわっているにも関わらず。そしてそんな彼が心配な顔をしているということは…、ブランドンは頭を振り、名簿をジェイクのダッフルに押し込むと、空き瓶を集めてキッチンへと運んだ。トロイとジョナサンも、それぞれピサの箱と瓶を数本手に彼の後に続く。ジェイクはビールを片手にキッチンカウンターに座り、両足をぶらぶらさせていて、トロイはピザをカウンターに置きながらクスクス笑った。

「なあ、俺たち試合の後、こんなことやってた夜が何回あったかな?」ブロンドの男は、突然神妙な顔に戻って、考えにふけった。彼はジョナサンとブランドンを笑顔で振り返った。 「毎週金曜の夜の試合の後、俺たちはここに溜まってたんだ。チームのほとんど半分くらいが来てた。学校のやつらは俺たちが外に繰り出して飲んだり、パーティーをやったりしてたと思っていたけど。でも俺たちはキャンベル家に来てたんだ。こいつの母さんが皆にフライドチキンを作ってくれてさ、俺たちは焚き火を囲んで一晩中裏庭にいたんだ。そん、時ビールなんてあったかな、俺、思い出せないや」彼は懐かしそうにジェイクにそう語った。

「あるもんか」ジェイクは「そんなもんがみつかったら、親父に俺たち全員尻の皮が剥けるほどひっぱたかれてた」彼は頭を振りながら笑った。 「ドリトスとゲータレードだ。神々から授かった食い物だ」

トロイは鼻を鳴らして笑い、ジェイクを指差して満面の笑みを浮かべた。 「アトランタのトーナメントから運転して帰った夜のこと覚えてるか?」彼は大笑いしながらそう尋ねた。ジェイクは笑顔になり、その夜のことを思い出して頭を振ったが、昔話に没頭してブランドンとジョナサンを置いてきぼりにしてしまったことを詫びるように視線を向けた。 「俺たちは土曜のトーナメントのために車でそこへ行ってたんだ」と、トロイが続けて二人に語り始める、 「で、そっからの帰り、ジェイクの車には俺たちと、あと二人のやつらが乗ってた。俺らはどっかのガソリンスタンドで停まって、腹をもたせるためスナックを買ったんだよな、それから皆で車に戻って、ジェイクは運転しながら自分の飲み物を袋に入れたまま飲み始めたんだ」

「ちなみに俺たちが買ったのは、ドリトスとドクターペッパーだ」と、ジェイクが口を挿む。

「するとあるおまわりが、こいつが運転しながら茶色の紙袋に入れたものを飲んでるのを目撃したわけだ、な? その警官は俺たちの車を停めさせた」トロイは笑いながら話を続けた。 「で、その警官、スポーツやってる人間になんらかの反感を持ってたんだろうな、なにしろすげえ勢いでキレ始めたんだ。俺たち全員まだユニフォームのままってのもあったし、警官はジェイクを車から降ろして線の上を歩かせた、だよな? こいつが酔っ払ってるとでもいうみたいにさ! それから警官は顔をくっつける勢いでジェイクのまん前に立つと、『坊主、俺に息を嗅がせてみろ』って言ったんだ。この時点で、残りの俺たちは車の中で死にそうだった、だってジェイクはその警官より余裕で一フィートはでかいっていうのに、そいつはやけにいきがってて、しかもジェイクはほとんど一日中ってくらいずーっとドリトスを食ってたんだ。ジェイクはこう言った、『俺の息なんかまじで嗅ぎたくないはずですよ』」トロイは、楽しそうな笑顔を浮かべているジェイクのことを指差しながら笑いすぎて話を続けられないくらいになった。 「それで、警官は余計いきり立った」トロイはほくそ笑みながら続けた。 「だからジェイクはただ肩をすくめて、皆さんご存知のドリトス臭い息をやつに思いっきりかけてやったんだ」トロイは甲高い笑い声をあげた。 「ったく、あれは笑えた」そう言って、彼は懐かしそうにくすくす笑う。

ブランドンは驚きに目を見張った。 「じゃ、君が逮捕されたっていう噂はその件が発端なんだね?」と、彼はジェイクに聞いた。

「たぶんな」ジェイクはちょっと笑顔を浮かべてのんびりと言った。 「俺がどんなに言っても、誰もそんなことはなかったって信じてくれなかったけどな」

ブランドンはただ頭を振り、時計を見て、身をすくめた。九時十五分だ。 「行かなきゃ。さ、みんな。バスが出発するぞ」彼はバックパックをとるためリビングに向かった。

ジェイクは黙り込んで、胸の奥の落ち込む感覚に浸った。これはやばい。この男におかしな気持ちを抱くなんてことはやっちゃいけない、ブランドン・バートレットは駄目だ、とにかく今は駄目だ、この先だって駄目だ。今の彼は、あの男を目にするたび見惚れてしまい、それからブランドンが誰かを自分自身に思い出させ、そんなことをする自分を責めるか、もしくはそもそもブランドンに見惚れたりした自分を責めることになるのだ。この状況にはイライラする、控えめにいっても。

ジョナサンがトイレに行ってくる、と声を上げると、トロイはブランドンの後に続いて歩き出しつつ、ジェイクの肩を叩いた。ブランドンは体をかがめてバックパックから鍵を探し、ジャージを肩にかけた。 「ねえ、ジェイク、このTシャツ洗って返したほうがいい?」彼はアンダーアーマーをバックパックに詰め込みながらそう声を上げた。

「いや、どうだっていいさ」ジェイクは微かに震えながらぶつぶつ言った。

ブランドンはゆっくりうなずき、ドア口に立っている男を見やった。 「また明日」と、彼は言った。

「おやすみ」と、ジェイクは言い、奇妙な顔つきでブランドンを見つめた。彼は、トロイが咳払いするとひどく驚いて、頭を下げ、少し顔を赤くした。 「俺、寝るわ」彼は、きまり悪そうな口調でそう付け加えた。

トロイは横目で彼を見て、うなずいた。 「おやすみ」と、彼は言い、ドア口に佇んで皆を見送っているヘッドコーチを一人残して、他の二人に続いて車に向かった。

「コーチって今、何錠くらいあの薬飲んでるの?」と、ジョナサンがトロイと一緒に歩きながら低い声で尋ねた。

「あの薬は単なる関節炎用タイレノールだ」と、トロイは肩をすくめて答えた。 「ヤツがおかしな態度をとってたのは、薬品のせいじゃない」

「処方薬の瓶に入った関節炎用タイレノール?」車に乗り込みつつ、ブランドンは静かにそう質問した。

トロイは一瞬口をつぐんで考え込んだ。「あの瓶のことは聞いたことないな」と、その後彼は答えた。

彼らは赤信号で停まるまで黙り込んでいたが、ブランドンはふと、ジョナサンが変わった質問をしていたことを思い出した。 「ジョナサン、ロッカールーム係がどうとかって、あれ、なんだい?」

「あー」話題が変わったことに明らかにほっとした様子で、ジョナサンがそう返事の声を出した。 「えーっと、僕ら試合の前はいつも見回りをやってるんだよ。興奮状態の選手たちが行き過ぎたことをしないようにさ」

「って、つまり?」ブランドンはさらに追及した、どういうことが起こるのか、心の準備をしておきたかった。

「つまり、試合の前も勝った後も、あいつら少し気持ちが高ぶってるってことさ。だから、あいつらの冗談とか、いたずらとか、ふざけてひっぱたき合ったり、くすぐり合ったり、なんていうのが手に負えなくなったりしないようにするってことさ」と、トロイは言った。

「ふざけてひっぱたき合ったり、くすぐり合ったり?」ブランドンは驚きあきれてそう聞いた。高校のロッカールームで?

トロイは単に肩をすくめただけで、彼もジョナサンもそれを特別奇妙だとは感じていないようだった。 「大抵の場合、僕らがロッカールームにいるだけで効果があるんだ」ジョナサンはそう付け加えた。 「僕らの存在があの子らを落ち着かせるんだよね」

ブランドンは頭にぽんっと浮かんできた様々な質問を飲み込み、ジェッタを駐車場に乗り入れ、ジョナサンの車のところで停まった。 「皆、また明日」と彼は呟いた。

「乗せてもらってありがとう」ジョナサンはそう応えて、後部座席からすべり出た。

トロイはドアハンドルに手をかけ、ジョナサンが自分の車へとのんびり歩いていくのを眺めながら、ちょっとの間、助手席に座ったままでいた。 「あの処方薬だけどな」と、彼はついにゆっくりと話し始めた。 「あれのおかげで、やつはあれ以上の馬鹿なことをせずにもってるんだ」

彼はブランドンがこれまで見たことのない真面目な顔をしていた。 「君って、彼のことをとてもよく知ってるんだ。そうだよな?」と、科学教師は尋ねた。

「ああ」トロイは頭をひょいっと動かし、顎を引き締めてそう答えた。

ブランドンはゆっくりとうなずいた。 「わかった」と、彼は静かに言った。それ以上追求するつもりはなかった。ちゃんと事情をトロイが把握しているというのなら。

トロイは、もっと何か言いたい様子でもう少しそのままでいたが、しまいに彼はドアのハンドルを引き、ドアをゆっくりと押し開けた。 「乗せてもらってありがとな」彼はそう静かに言って、車を降り、芝の中に停めてあるゴルフカートに向かって歩き出した。

ブランドンは家への帰り道の間中、トロイの顔に浮かんだ表情のことを考え続けた。






***






ひょっとしたら、もう少し続きを投稿するかもしれません。



だってこの後が…!もごもごもご…。

Gay for Pay


前回のご紹介は、職業として Porn Star をやっている J2 でしたが、今回は、



Gay for Pay



ということで、お金のため、(両方もしくはどちらかが)ストレートなのに、Gay Pornにチャレンジすることになるというパターンのお話。







Title:『 The Plan 』



Pairing: Jared/Jensen

Rating: NC-17

Warnings: amateur porn!AU, straight!Jared (totally consentual, though)

Notes: Written for the awesome Working Hard for the Money fic meme prompt "Jared and Jensen live together in an apartment. They both have jobs that don't pay all that great. They get behind in their rent and face eviction. They need the cash quick and desperate times... Jensen suggests on line amateur porn it pays well and quick. The only thing is Jared is straight but you know he's going to give in and like it... a lot!" Have I mentioned how I suck at following directions? Yeah, not quite the same as the prompt, but close!

Summary - Jared's plan is perfect: amateur porn = easy money = getting the heat turned back on... there's just that tiny little problem about Jared being straight. Then again, maybe that's not as much of a problem as he thought.







家賃の滞納のため、新年早々、(完全に友達として同居している)アパートの暖房を切られてしまったJ2。



凍えそうになりつつベッドに潜り込んで、Hな一人遊びをしようとしていたJared(ストレート)は、ふと、(ある意味)一石二鳥の名案を思いつきます。



同居している親友のJensen(ゲイ)とのアマチュアポルノを撮って、ネットにアップすれば、簡単におこずかい稼ぎができる!


Jared も決して見苦しくはない見た目だし、Jensen は、超美形でホットなんだから、二人の絡みを見たいっていう人間は沢山いるはず。(ちなみに、私ももちろんその一人)


Jared 自身がストレートだってことがちょっとネックといえば、ネックではあるんだけれども、Jensenのあの容姿だもん、いけるんじゃない? 特にあのふっくらした唇! 絶対いけるって!



ってことで、暖房復活をかけ、全然乗り気じゃない Jensen を強引に説得して、二人のセックスシーンを録画することに。



ひたすら能天気なJaredが小憎らしいくらいに可愛いのですが、このお話も、偶然にもここ数回ご紹介しているお話と同様、


ストレートのJaredにずーっと片思いし続けている、ゲイのJensenという設定のお話ですね。


Jaredのことが大好きだからこそ、お金のための、心の伴わないSexなんてしたくないのに…という Jensen のせつなさが胸をくすぐってくれます。



パート3まで続編が書かれています。



残念ながら…、パート3はリバーシブルですが…、Jensenの心の描写がとてもせつなくて可愛いので、私と同様に Jared 受は NG なの…という方も、せめてパート3の前半部分までは、読んでみていただければと思います。





Porn Star J2


以下にご紹介するのは、Jared & Jensenが、それぞれトップクラスのPorn Starであるという設定のAUです。





Title:『 Let's Ride This Thing Through 』



Pairing: Jared/Jensen

Rating: NC-17

Word Count: 2767

Warnings: Pornstar!AU, Director!JDM, rimming, barebacking, total PWP

Disclaimer: Don't own, still broke

Summary: Jensen Ackles’ ass is the reason Jared Padalecki got into porn


Written because I’m stuck in the house waiting for the hurricane and I write porn when I’m bored. Inspired by the infamous Jensen ass picture and the fact that locknkey said “Write pornstar fic!” This is totally her fault.





Writerさん曰く:



ハリケーンで家から出られなくて、退屈だったから書いちゃった、完全なPWP(=プロットって何?やってるだけのPornです)よ。



ということで、思春期の性の目覚めの時、衝撃的に出くわした新星Porn Star Jensen さんのお尻によって、自らも Porn Star となる道を選ぶことになったという Jared さんのお話。



手っ取り早くNC-17シーンに突入するため、二人がPorn Starという設定のお話は、沢山書かれてきていますが、このお話は、PWPと言う割りに、ちゃんとJared&Jensenの心情描写もされていて、JDMの役どころもなかなかいい感じ。

しかも、完全に、Jared がTop、Jensen がBottom なのです。


とても短いですけれども、(私的には…)満足感を感じられるお話でした。



読者に請われるまま、Sequel も書かれ(本文の一番下にリンクがあるので、よければぜひこちらも読んでください)、



さらには、Verse となって、まだ続きが書かれるかもしれないとのこと。



ぜひとも続きが読みたいものだけど、そうやってワクワク期待しているお話ほど、このまま立ち消えになったりもするんですよね…。







***







で、上の Porn Star ‘verse の続きがそろそろ書かれていないものかと、このWriterさんの日記ページを覗いたら、



この後、別の日記としてご紹介するつもりだった Librarian!Jensen/Cowboy!Jared のお話も、上のお話と同じWriterさんが書いていたことに、(いまさらながら…)気づいたので、



一緒にご紹介してしまうことにします。







Title:『 Home Is Where the Hurt Is 』



Pairing: Jared/Jensen

Rating: NC-17

Word Count: 14,867

Warnings: Unrelenting schmoop; gratuitous use of CWRPF side characters; desecration of a circulation desk

Disclaimer: Don't own, still broke

Summary: Librarian Jensen Ackles has been secretly in love with cattle rancher Jared Padalecki since high school, but Jared's been pining after the Big Oil socialite that got away. When said socialite returns to their small town newly single, Jared decides to finally woo her by having Jensen teach him how to be a proper gentleman. Jensen never could say no to those stupid dimples.





図書館司書のJensenは、カウボーイのJaredに高校生の時から片思いしているっていうのに、Jaredったら、石油財閥のお嬢さんに夢中。

しかもそのお嬢さんが、最近恋人と破局して、J2の暮らす小さな町に戻ってくると聞いたJaredは、彼女を振り向かせるため、真の紳士となるための特訓をして欲しいとJensenに頼んできたのです。

内心がどうあれ、Jaredの馬鹿みたいに可愛いえくぼを見てしまったら、Jaredのお願いを断るなんてことはできないJensenなのでした。







お約束といえば、お約束どおりの展開なお話ですが、お約束どおりだからこその面白さというものもあるものですよね。



最後にちょっとしたどんでん返しを含む形でハッピーエンドになるわけなのですが…、



私としては、(以下ねたばれになるかもしれないので、一応文字を伏せます)どんでん返しはなくなってしまうけれども、Jared目線の描写が交互に入れられていたら、もっと『きゅんっ』としたと思うのになー、という感じでした。


でも、Jaredのことが大好きなのに、Jaredと別の女性との恋の成就のために協力しなければならないJensenの切なさがよく描かれていて、ちょっとほろっとされられたり、


ちょっと軽いラブコメを読みたいという方にはお奨めです。




2011年9月20日火曜日

Caught Running 第三章

どうしても、Jake と Brandon がもうちょっと仲良しになるところまで、ご紹介したい!



ので、ちょっと大丈夫なのぉ…???と、我ながら少々びびりつつ、続きを投稿させていただきます。



どうぞ、引き続き、息を潜めて、こっそり読んでいただければと思います。




『Caught Running』






第三章




科学教師は三塁線のところのフェンスにジョナサンと並んで寄りかかっていた。年下の男は、入部適性トライアウトでジェイクが実施しているいくつかの基礎練習の根拠について深く考え込んでいる。昨日から今日にかけ、大体四人が不合格となっていたが、それは、一年生コーチによると、予想よりも少なかったのだそうだ。

グランドでのジェイクは力そのものだった。ハンサムボーイのトロイでさえ、ジェイクの圧倒的な個性の前では影が薄らいだし、ブランドンはヘッドコーチの中に皆から人気のある学園祭のキングの姿を容易に見て取ることができた。しかし今やその魅力は、自分に自信を持ち、その自信を行使することをためらわない男へと姿を変えていた。またもやブランドンは仕事上の関与を超えて湧き出した興味の瞬きを抑えつけた。彼は、そんな感情の発露を抑えつけ、絶対に日の目を見させるようなことはさせないと心に決めていた。

ジョナサンが、自分がやると申し出てくれたのだが、今日もブランドンは走り込みを担当した。彼はジェイクの夕べの痛みを覚えていたし、ヘッドコーチに走らせるようなことはさせたくなかったのだ。今回は二人ではなく、三人に振り切られてしまったが、その差は半歩となかった。公園での練習に、ダッシュの練習を少し取り入れるべきなのかもしれない。

ジョナサンからサイドステップの練習をしている生徒たちを見るよう指摘され、生徒たちの努力を観察する間に、ブランドンは、サイドステップに関係するバランスに長けた生徒は多くないことを見て取った。そこへジェイクの厳しい声が浴びせられれば、尚更バランスを崩すことになる。

「お前らグローブすらはめてないんだぞ!」とジェイクが怒鳴る。「まともに立ってもいられないで、どうやって打球をさばくつもりだ?」彼は、複雑な基礎練習を行う少年たちの列の間を歩きながら、そう問いかける。この練習を行う最大にして最も重要な理由は、生徒たちの筋肉に記憶として染み込ませることにより、もっとも効果的なターンの仕方や走り方を教え込むことだった。しかしそれはまた、ベース間を上手く走る訓練ともなり、昨日の練習をすり抜けた雑草を引き抜く手段にもなるという二つの意味も備えている。

「足を上げろ!」トロイが選手たちの列の反対側から声を張り上げた。二人はタッグを組んで、ハゲワシのように子供たちの周りを周回しながら、生徒たちを威嚇する。ジェイクは、他のコーチたちが子供たちに励ましの声をかけているフェンスの辺りに視線を投げ、善玉悪玉に分かれて取調べを行う刑事たちのように、実に上手く機能するコーチングスタッフが揃ったものだと考えた。彼は、ちらっと視線の端にブランドンの姿をみとめた。ジョナサンの隣に立ち、二人で何かを囁きあっている。彼はそんな二人の姿に気を散らされる前に視線をそらせた。彼は夕べブランドンに語ったことの一部を思い出した。おそらくはどんな相手であっても語るべきではなかったことで、彼はその記憶に少し顔を赤くした。彼が自分のプライベートを公にしないと決めているのには理由がある。そしてブランドンという男に対し突然湧いたこの興味は、いいこととは言えない。



「うーん、僕も初めてやるとしてそう上手くできるかはわからない。でも僕は、バランス感覚はかなり良い方だから」とブランドンは言った。彼は視線を上げ、ジェイクが彼ら二人に視線を投げ、それから子供たちの方へ視線を戻したのを目にした。「僕らも何かした方がいいのかな?」

「いや、基礎練習が終わるまで待つ、じゃないと邪魔になるだけだから」ジョナサンは手を振って答えた。「で、ガキどもを観察するんだ。群れの中から一番弱いのを見つけ出す、ま、そういうことをするわけ」

ブランドンは、夕べ集めた情報に今目にしていることを併せながら、ゆっくりうなずいた。ふと思いついて、彼は夕べ思いついたことを小さなポケットサイズのノートに書き留めておいたのだ、そのノートは今、尻ポケットに入れてある。「君は学生時代、野球をやってたのか?」と、彼は尋ねた。

「うん、ここ、パークビュー高校でね。ジェイクが四年の時、僕は一年だったんだ」ジョナサンは、太陽の日差しに目を細めながら、一つうなずいてそう答えた。「時々、僕らのコーチは練習を止めさせて、勉強のために代表チームを観察させたんだよ」彼はそう言って笑った。「まったく、彼らはとんでもない才能の集まりだったな。チャンスさえあったら、あの人たちの何人かは凄いキャリアに進んでたと思うんだけど」彼は、ジェイクが倒れこんだ生徒のところへ大またで近づき、その子のベルトを掴んで体ごと地面から掴みあげるのを見ながら、考えに耽った。

少年の顔に浮かんだ恐怖の表情を見て、笑いを噛み殺しながら、ブランドンは隣の男に向き直った。「君が、この学校に通ってたなんて知らなかった。長い間には、いったいどれだけの人間が戻って来てるんだろうな」彼は数えてみようとした。戻ってきてまた移っていく人間もいた、特に彼が勤め始めた最初の数年間には、ここで教育実習をして、その後もっと大きくて、もっと金のあるアトランタや、時には州外の学校へと向かう人間が大勢いた。

「大学で挫折した人間が戻ってくるのかもな」ジョナサンはあえてジェイクを目顔で指しながらそう言った。



「次に倒れこんだやつが出たら、全員グランド一周だぞ」ジェイクは、掴んだ生徒を列に投げ戻して大声を出すと、徘徊を再開した。基礎練習はそれからさらに一分ほど続き、これ以上やれば子供たちがバタバタと倒れ始め、もう起き上がれなくなるだろうという、まさにその直前、ジェイクは止めの声をかけた。「水を飲んで来い!」彼はそう命令し、フェンスのところへ戻ってきた。彼の背後では、何人かの生徒が文字通り這ってベンチに向かっている。

ブランドンはジョナサンのコメントに一瞬ショックを受けたが、ジョナサンはスポーツのことを言っているのだと気づいた。ジェイクは教員免許の資格を取らなければならなくなったかもしれないが、スポーツができなくなったからといって、それで彼がおしまいということにはならない。膝の故障の意味が、より納得できるようになってきた。そして、なぜジェイクがここにいて、どこかのプロ野球チームにいないのかということも。そこで彼は、打ち合わせがあるという話を思い出した。彼はジェイクが近づいてくるのを見て、少し姿勢を正し、ノートを取り出していくつかメモを書くと、数人の選手の背番号を確認した。

ジェイクは小さなノートをいぶかしげに見て、もの問いたげに片方の眉を上げ、フェンスのところに来てフェンスに寄りかかった。「あのチビはお前のチームの先頭打者になるぞ、俺が保証する」彼は身長がやっと五フィートちょっとという一年生に顎をしゃくって見せながら、ジョナサンにそう言った。「ショートだな」

ジョナサンはうなずいた。それは別の中学校から入ってきた子で、彼が知らない生徒の一人だった。しかし、ジェイクが認めた才能は、彼の目にもはっきりと映っていた。

「見ていて何か気づいたことは?」トロイがうるさい足音を立てて、弾むように駆け寄って来ると、ジェイクはブランドンを会話に招き入れた。

ブランドンは自分の殴り書きを眺めた。「ジャックは走りが速い、エヴァンもだね」彼は二人の三年生の名前を挙げた。「ジミーは凄く足が速いとか、走りに向いてるってわけじゃないけど、安定してる。一塁、かな。で、外野にいる三年、彼は持久力がある。視力がどうかはわからないけどね」彼は視線を上げ、三人が揃って彼をじっと見つめていることに気づき、もじもじし始めた。「なんだい?」本日、もう数え切れないくらいになるが、彼はそう尋ねた。

ジェイクは笑いを噛み殺し、首を振った。「いいだろう、ってことで」彼は質問に答えることなくそう応えた。「やつらを仕分けるか」彼はフェンスから離れつつそう指示し、命令を怒鳴り始めた。

「あれがどういうことなのか、知りたくないような気もするんだけど?」グランドに戻っていく代表チームのコーチの後に続いて、他のコーチと一緒に歩きながら、科学教師はそう低く呟いた。

「わからなくてもいいんじゃないかな」ジョナサンは笑って頭を振った。

子供たちは、重い足取りながら従順にグランドへ出てきて、昨日と同じ基礎練習に取り組み始めた。ジェイクは、日が沈み始めるまでその練習を続けさせ、そこで練習の終わりを告げると、生徒たちは用具を片付け始めた。

「誰かが金を払って野球をしてくれと頼みにくるまでは、お前ら、自分の道具は自分で片付るんだ!」ジェイクは監視しながらそう怒鳴った。「もし誰かに仕事を押し付けるのが俺の目にとまったら、俺が特別に仕事を作ってやるぞ!」

ブランドンは三塁ベースの近くに立ち、子供たちがあちこち動き回るのを見ていた。全く、あの子たちを見ているだけで疲れる。じきにグランドはきれいになり、彼はホームベースへと歩いて、他のコーチと合流した。

「明日からリスト作りに取り掛かる」ジェイクは、彼の周りに集まったコーチたちにそう告げた。辺りはどんどん暗くなり始めており、彼はきちんと片付いたかを確認するためグランドを見回した。「金曜までには、チームを決める。まあ、そんなところか?」他のコーチたちが従順にうなずくのを目にして、ジェイクは目をくるっと回しかけた。「また明日」ジェイクは、コーチ陣にそう告げ、一人の大学生の背中をばしっと叩いて前によろめかせると、ゲートへ歩き出した。

ジョナサンからバイバイと手を振られたブランドンは、それに一つうなずくと、彼自身も体育館へと歩いて戻り始めた。トロイはゴルフカートに乗り込み、うなりをあげて走り去った―一体全体彼はどこであんなものを手に入れて、ジェイクはその乗り入れを許しているのだろう? ―そんなことを考えつつ、生物教師は薄暗がりの中、気づけば駐車場を抜けて歩いていた。そこは静かでひんやりとしていて、彼は少し身震いした。

ジェイクは入り口近くの階段にどさっと腰を下ろし、スパイクを脱いでスニーカーに履き替え、再びゆっくりと立ち上がると、重たい用具バッグを肩に担ぎ、他のコーチたちが帰っていくのを眺めた。彼は、その時点で自分が何を考えているのかもはっきりしないまま、ブランドンをしばらく見つめた。ブランドンに対して湧いた感情の意味がつかめないという今の状況にはイライラさせられる。彼はその場に立ってストレッチをした。彼の長身が優雅にアーチを描く。それから彼は家まで歩いて帰るため、道路に向かいかけた。

その時突然、ブランドンが甲高い声を響かせた。「もう家に帰れるのかい? コーチ」彼は、コンクリートの上で、カチッとスパイクを鳴らして立ち止まり、なんということもない口調でそう尋ねた。ジェイクは体を回して、男を見返した。「ああ」と、彼は答えを返した。「道っ端でトロイをハイジャックして、やつのゴルフカートを盗んでやろうと企んでる」と彼はまじめな顔で言う。「仮にあんなもんでハネられたとしても、大したダメージも受けないだろうしな」と、小さく笑う。

ブランドンは鼻にしわを寄せて笑った。「一体、なんで君は彼にあんな非常識なものの乗り入れを許してるんだい?」と彼は聞いた。

ジェイクは芝の上から出て、駐車場へとぶらぶら戻ってきた。「あいつはあれで通勤してるんだ」と、ニヤニヤ笑いながら答える。「やつは、向こう側の一マイルくらいのところに住んでる」と、彼は自分の家とは反対の方向を指差した。「あいつはせこくて、ぐうたらってことだな。それに恥知らずと抜け目がないってのを足したら、恐ろしい組み合わせになる」

思わず笑い声をたて、ブランドンはただ頭を振った。「それって、とんでもないことだよ」とコメントし、目を躍らせる。

ジェイクは微かに笑みを浮かべてうなずき、これから歩いていく道路の暗がりを見やった。それは興味深い感情の混合だった。早く家に帰り着きたいという気持ちが、これまで全く関わりもなかった男と話し続けていたいという気になる感情と同居しているのだ。まあ、そんな窮状を解決するのに、簡単な方法が一つあった。「なあ、お前さえよければ、家まで乗せていくっていうお前の申し出を受けてもいいんだがな」彼は、もう一度ブランドンをちらっと見て、そう言った。「日もずいぶん短くなったし」

「構わないよ」ブランドンはあっさりとそう答え、ドアのところで立ち止まった。「ただ、僕は荷物を取って、靴を履き替えなきゃならないけど。すぐに戻るから」硬い床で靴をカチカチ鳴らしつつ、彼はすばやく校舎に入っていった。

ジェイクは静かにうめき、大きな体をドスンと階段に落として、そこに腰掛けて待った。実際問題、もう車で通勤せざるを得なくなるだろう。朝、歩きたい気分だったからといって、十二時間後に同じ気持ちだとは限らないのだ。

ブランドンは二分ほどで、外に出てきた。「僕、今日はこっち側に車を停めたんだ」彼はそう言って、駐車場の中ほどにある車を指差した。「その方が夜、楽になるんじゃないかと思ってさ」彼はジェイクに立ち上がる手助けのための手を差し出した。

ジェイクは、何のためらいもなくその手を掴み、男に引っ張ってもらいながら、小さなうめき声を上げて立ち上がった。「俺ももう年だな」彼は素直な気持ちでそう不平をもらし、ブランドンと並んで車へと歩き出した。

ブランドンは笑い声をあげた。「昨日、君、僕らは老いぼれてないって言ったじゃないか!」と指摘する。

「老いぼれたのは俺のある一部分だけってことで、それだけだ」ジェイクは言い訳がましくそう答え、笑顔で用具バックをぐいっと引き上げた。

「気持ちだけは若いっていうのは、ありふれた言い草だけど、それも一理あると思うな」ブランドンはそう言い、ジェッタの近くまで来ると、車の鍵を探してバックパックに手を突っ込んだ。「とにかく君にとってはね」

「おう、そうか?」ジェイクはちょっと面白がって尋ねた。「どうしてそう思う?」

「君に当てはまるってこと?」ブランドンは、リモコンで鍵を開け、バックパックを後部座席に投げ入れた。「君は、スポーツを愛してる。胸躍る試合をね。君は情熱を持ち続けてる。時にはうんざりすることがあったとしても、夜、痛みに耐えていても、君はそれでもスポーツが大好きなんだ」

ジェイクは暗闇の中で顔が赤くなるのを感じ、咳払いして後部座席のドアを開いた。「ああ、まあな、そうだな」彼は呟きでそう答え、自分のバッグを投げ入れると、ドアを閉じた。

ブランドンは、ジェイクが少し照れているのに気づいて、ちょっと微笑んだ。なので、彼はそれ以上追及することなく、車に乗り込んだ。すぐに彼らは出発し、ジェイクの家へと向かった。朝、彼が付けっぱなしにしていたラジオからは、静かにクラッシックロックが流れていた。ジェイクはこんな風な静かなドライブ中、何を話していいものかわからなかった。何か話すべきだとは思うのだが、気楽に会話できるほど、相手の男を知らないことに気づいていた。彼らは本当の意味では、共通の仕事さえしていないのだ。二人とも確かに教師ではあるが、種類が違う。彼は脳みそを絞って何とか話題を探した。「あー、お前、昨日より前からジョナサンと知り合いだったのか?」彼が、ついに口にしたのがその質問だった。

「ううん、知らなかった。彼は、僕もパークビューに通ってたってことすら知らないんじゃないかな」とブランドンは答え、昨晩と同じ信号で停止した。「彼は君の名前を知ってたって言ってたよ。君の事を尊敬してたってさ」と、彼はちょっとからかった。

ジェイクはもっと顔を赤くして、唇を噛んだ。「そうだな」彼はそう同意して、窓の外に視線を投げた。多くの人間が彼を尊敬していた。誰を差し置いても、彼こそ大物になると考えていた。フットボールと野球の奨学金をもらい、メジャーリーグとNFLのチームからスカウトされ。

でもその代わりに、彼はここにいる。

笑顔を浮かべ、ブランドンはそこで話をやめた。それ以上、ジェイクを突いて、ちょっと面白がらせる代わりに、不快な気分にさせたくはなかった。彼は交差点をすぎ、一分もしないうちにドライブウェイに乗り入れ、車を停めた。「練習の前に聞くつもりだったんだけど」ブランドンは静かに口を開いた。「君の足、今日は調子が良くなったかなって」

「まあな」ジェイクは自動的に返答した。「リフトパッドをまた靴に突っ込みさえすれば、足首の問題は解決なんだ。気を遣ってもらってありがとな」と、彼は素直な気持ちで付け加えた。

「よかった」ブランドンは一つうなずいて答え、それっきり何も言うことがなくなった。彼はその場に座ったまま、頭をひねり、なんとかして何か言うことを探そうとしたが、どうしてそんな風に思ったのかはわからなかった。でも、実際は違う、その理由ははっきりとわかっていた。ただ、それを認めたくなかっただけだ。

「ビールと飯を勧めてもいいんだが、…」ジェイクはブランドンに顔を向け、微かな笑顔を見せた。「午後の三時をすぎると、俺は、一緒にいて楽しい相手じゃなくなるからな」

ブランドンは笑いを抑え込むため、唇を引き締めた。笑いの発作が治まると、彼は口を開き、「夕べの君はよかったよ」と、どちらかといえば平坦な口調で言った。とはいえ、彼は理解していた。夕べは例外だったのだ。今は立ち去るべきだ。やるべきことも山ほどあるのだし。「おやすみ」と、彼はつぶやき、影になった男の顔をちらっと見た。

ジェイクは少し笑って、「俺は、いつだって、夕べはよかったって言われるタイプなんだ」と、言いつつ、ブランドンを肘で突きながらかろうじて吹き出すのを堪えた。「また明日な。乗せてもらってありがとう」

ジェイクの切り返しに首を振り、ブランドンは片手を挙げてひらひらと振った。「じゃあね」そう、彼は静かに言い、この奇妙でむずがゆいような感情はしっかりとしまい込んで、現実の世界に戻れ、と自分に言い聞かせた。彼は車のギアをバックに入れた。

ジェイクは手を振って、車から離れ、それから片足で小さく一歩跳んで、車の屋根をバンッと叩き、身を乗り出してドアを開けると頭を車内に突っ込んだ。「コーチの飲み会は明日だ」と彼はブランドンに言った。「練習の後、ここに集合する。ピザに、ビールに、またビール…ってやつだが」

ブランドンはジェイクに車を叩かれて、びくっとしたが、彼の話が終わる頃には、どきどきも治まった。彼は、ほんのちょっとだけ笑顔を浮かべずにはいられなかった。「僕もコーチなんだから、僕も招待されてるってことだよな。何か持ってきた方がいいのかな?」

「ビールとかチップスとかに、特別こだわりの銘柄があるならな。まじで、単なる飲んだくれるための言い訳なんだ。ただし、ジーマとかそんなナメたもんを持ってきやがったら、ぶん殴る」ジェイクはそうからかって、ウィンクした。

ブランドンの顔に浮かんだ表情は、所謂、無言の恐怖というヤツだった。「ジョナサンがそれをやったなんて言わないでくれよ」

「いや、トロイだ」ジェイクは声を上げて笑い、車に寄りかかってドア越しに覗き込みながら、車内の男に満面の笑みを見せた。

「全くもう。あいつ学校はどこだったんだろう? 工科大でそんなものを飲んでるところを見つかったら、七十五号線のハイウェイの高架から投げ落とされかねないよ」ブランドンはまだ身をすくめたままそう言った。

「やつは、冗談だって言い張ってたけどな」ジェイクはくすくす笑った。「ヤツは単にクローゼットに隠れたオカマなんだと思うぜ」彼は肩を揺らして笑い、頭を振って体を起こし、その手でもう一度車を叩いた。「また明日な」彼はその声に笑いをにじませてそう言い、体を翻して玄関に向かった。

その場に固まったまま、ブランドンはジェイクが階段を上っていくのをただ見ていた、コーチに今現在の顔を見られなくて良かったと強く思った、なぜなら、見られたくないと思うあらゆることが、今の彼の顔全体に、確実に書いてあるだろうから。クローゼットに隠れたオカマ。くそっ。ブランドンは髪に指を通し、ドライブウェイから車を出した。ジェイクが今口にしたことを、いくらかでも愛情を込めた、からかうような気持ちで言ったのであることを心から願った。汚いものから目をそらすような気持ちからではなくて。

ブランドンは、そんな声をもう一生分も聞かされてきていたから。



「おはようございます、バートレット先生」翌朝、元気のいい小柄なチアリーダの子があいさつしてきた。「おはようっす、コーチ」彼女と一緒に歩いてきた少年がそう言いつつ、ブランドンに敬意を払って会釈をし、笑顔でそれぞれの席に向かっていく。

「ケイティ」ブランドンは、上の空でそう言いつつ、彼女の名前を名簿でチェックしたが、ジミーの挨拶には不意を突かれて、彼は思わず顔を上げた。眼鏡を押し上げて、体裁を整えなおす。「あー、おはよう、ジミー」

「おはようっす、コーチ」ほぼ同時にまたもう一つ挨拶が飛んできて、それに続いてパラパラと別の挨拶の声がいくつか、子供たちが列をなして入ってくるのと一緒に飛んできた。一日の最初の授業というのは、大抵の場合、疲れた様子の子供たちが、思い足を引きずって教室に入ってきて、うめき声と共にどさっと椅子に座り込む様子を目にするものだ。なのに、昨日までの二日間に野球部のトライアウトに参加していた少年たちは一人残らず、その朝、快活と言ってもいいくらいの態度でブランドンに挨拶した。

目をぱちくりさせ、そこで彼は、選手たちは授業を休まない、と、ジェイクが話していたことを思い出して、出席簿に目を落とし、コーチの言葉が正しいことを認めざるを得ないことになった。彼ら全員、欠席なしだったのだ。心地よい驚きとともに、ブランドンは教室の端にあるデスクへと移動し、この時間の指導目録を手にした。「さて、四つのグループに分かれてくれ。それから各グループごとにいくつか机をくっつけてくれるかな。今日は対話式の課題を行うことになるから」ブランドンが確実にいい手応えを感じるのは、こうした、教科書を離れた課題について、生徒たちが一緒に作業をするという活動だった。彼は個人的に、生徒たちは、見たり聞いたりすることよりも、実際に行動することによって、多くを学び取ると感じていた。そんなことを考えながら、彼は、お絵描き連想ゲームの生物用語版を始めさせ、生徒たちが取り組む様子に聞き入った。

一時限目の授業が始まると、ドアの近くのスピーカーから朝のお知らせが流れはじめた。放送の声がいつもの連絡事項をだらだらと読みあげ始めたが、声の主は明らかにこんなことは誰も聞いてないと承知しているようだった。最後には、こんな連絡があった、「それからキャンベル・コーチから全校生徒に覚えておいて欲しいことの連絡です。今度誰かロッカールームの天井に、濡らしたトイレットペーパーを丸めて投げてるところを見つけたら、そいつは…、待って、これって放送で言っていいんですか? 言っても大丈夫か、わからないんですけど」咳払いの音と、判別できないくぐもった声の後、放送を担当する生徒が続けた。「とにかく、そういうことはやめてください、これだけは信じたほうがいいです」

クラスの何人かの男子たちが声を殺して笑いつつ、何とか大きな声を出さないよう頑張っていたが、彼らのコーチが使う脅し文句は明らかにお馴染みのものであるようだった。ブランドンは眉をつり上げた。ジェイクが言いそうなことは、彼にも想像がつく。頭を振り、彼は小さく笑うと、シンシアの頭を軽く叩いて、屑籠を指差してガムを捨てるよう無言で伝えた。トロイが、最後の言葉をそのまま読み続けられるような上級生を見つけられなかったのは残念だ。もしそうなれば午前中一杯楽しい気分に浸れただろうに。

歩き回っている間、ブランドンは野球部の子の一人が絵を描くのに苦労しているのに気づいた。右手の代わりに左手を使っている。彼がそのことについて何か言おうと口を開いた時、その子の右手が目に入った。彼の指にはテーピングが巻かれている。教師は、邪魔をしたくなくて、口にしようとしていたコメントを取りやめ、そのまま観察した。その少年のペン使いは、確かにぎこちなかったが、その子はやり遂げ、他の生徒たちはきちんと答えを当てることができた。ブランドンは笑顔を浮かべ、その子の肩をポンッと叩いた。「よくできました」と、小声で言って、次のグループへと移っていった。

「ありがと、コーチ」と少年は自動的に答えた。

ブランドンのその日の他の授業も似たような感じで過ぎていった。三時限目、膝を固定する支持具をつけているため、片足を伸ばして座らなければならないチアリーダの子がいた。四時限目には、手首を固定しているソフトボール部の選手がいた。五時限目には、片目に青あざをつけているラクロスの選手がいた。教師はどうやってこれまでこうしたことの全てを見逃すことができたのか、理解に苦しんだ。全ては、彼の目の前にあったっていうのに。彼が生徒たちのことを良く思っていないとか、注意を払っていなかった、ということではない、単に彼は子供たちの怪我や、その子たちがその怪我にどう対処していたのかに、気づかなかったのだ。その事実を知った今、彼は心から自分を恥じた。六時限目が始まる九分前、書類やファイルをバックパックに詰め込み、デスクの下からダッフルバックを引っ張り出すと、体育館へと、そして『愛すべき』保健のクラスへと向かった。彼は、生徒たちが嫌がって逃げ出したがるに違いない解剖学の勉強に対し、いくつか計画があった。それに彼はまだ生徒たちとの間になんとか親密な関係を築こうと努力しているところで、ちょっとした楽しみを授業に挿むのも、長い目で見れば、生徒たちとの関係の向上に貢献する材料になるかもしれないと考えたのだ。彼は、ベルが鳴るほんの数分前に、体育施設棟にある教室に辿りついた。

体育館と、ロッカールームや職員のオフィス、そして教室を繋ぐ迷路のような廊下のどこかから、怒りに満ちた怒鳴り声がタイルにこだまし、開いたいくつものドアを通り抜けて響いてきた。その声は、駆け足の音と一緒に次第にはっきりと聞こえてくる。「隠れていた獲物がついに姿を現したようだな」廊下に立ち尽くしているブランドンに愉快そうな声が届いた。科学教師は振り返り、廊下の薄暗い一角の壁に学内在駐警察官が寄りかかっているのを目にした。彼が身につけている手錠と銃は、校内の廊下で、冗談抜きに場違いだった。再び叫び声が響き、どこかでドアを激しく叩きつける音がした。「やつは、何週間も、あの子ネズミどもを追い回してたんだ」と、警察官は笑い声をたてて言った。

「一体、なにごとですか?」ブランドンは、生徒たちが彼の横を抜けて教室に入っていく中、教室の外に立ち止まって尋ねた。

「ロッカールームにたむろしてるガキどもがいるだろ、ああいったやつらだよ」と、学内警察官は答えた。「ったく、やつらにとっちゃ、俺なんかよりも、よっぽどキャンベルの方が恐いんだからな」彼は静かに笑って、ペプシの缶を口元に持っていくと、慎重にタバコをその中に吐き出す。

ブランドンは思わず笑顔になった。「ああ、わかりますよ。僕もそうだから」と、彼は言った。二人の生徒が両開きのドアを飛び出してきて、彼らの前を通り過ぎ、本校舎へと続く屋根つきの渡り廊下の方へ全速力で走り去っていくと、彼の笑顔はさらに大きくなった。

学内警察官は、子供たちが彼の目の前を飛ぶように走り抜け、その少し後、再びドアが開いて、ジェイクが大またに歩き出してくるのを見て、大きな笑い声をあげた。「くそガキども」と、ジェイクは唸り声を上げ、周囲を見回して初めて、その場に他にも人がいたことに気づいた。「この次は、やつらを撃ってくれ、誰にも内緒にしとくから」と、彼は警察官に息巻いた。ブランドンと学内警察官は顔を見合わせ、二人揃って大笑いした。「うるせえよ!」ジェイクは不機嫌にそう言って、別の両開きドアを押し開け、広い体育館に入っていく。「てめえら、そのヘリから降りやがれ!」彼の背後でドアが閉まる瞬間、彼は突然そう地鳴りのような声を響かせた。

二人の男はそのままベルが鳴るまで笑い続けた。「野獣の館にようこそ」学内警察官はそう言って、ぶらぶらと歩き去った。ブランドンは笑顔のまま教室に入り、出席簿を取り上げだ。なんて騒ぎだ。デスクの前の角に腰掛け、彼は仕事に取り掛かった。まだ生徒たちの名前と顔を一致しきれていないのだ。

「紳士淑女のみんな。そしてロドニー」ブランドンは、窓の外をじっと見つめている一人の生徒を呼び戻した。生徒が慌てて前を向くと他の生徒たちが忍び笑いをもらす。「今日、僕らは人体の構造について勉強します」

このニュースへの返答として、笑い声や口笛が飛んだ。この騒々しいクラスで唯一大人しくしていたのは、ブランドンに対してしきりに睫毛をパチパチさせる女の子たち数人と、野球部のトライアウトに参加して、ブランドンのことをコーチだと認識している男子二人だけだった。

「いいだろう。誰か、宿題として言っておいた、このページの予習をしてきた子はいるかな? ほんの5ページだけど」と、彼は催促した。「やってきたという子は手を上げて」

数人が手を上げ、何人かは咳払いした。「絵は見たぜ!」と、一人の子が生意気な口調で申し出た。

ブランドンは手招きでその生意気君を教室の前に呼び寄せた。「君の名前は? ラリー・ウォレス? よし」彼は、手を上げている数人に視線を戻し、大人しくしていた女の子の一人を選んだ。「ここへ来てくれるかい、メリッサ。今回の課題の目的は、正しい名前を使って、体のパーツを確認することなんだ」

メリッサは呼び出されると顔を真っ赤にしたものの、素直に教室の前に歩いてきた。メリッサの横では、ラリーがクラスみんなの注目を一身に集めて、満面の笑みを浮かべている。ブランドンは二人の『ボランティア』の反応を心に留めた。「課題のルールは、体の部分を指一本で触ること、だ」

さざ波のような笑い声が教室に広がり、メリッサはさらに顔を赤くした。「本当にそんなことするつもりですか? バートレット先生」彼女は、少しかすれたような声で尋ねた。

ブランドンは励ますように彼女の肩を掴んだ。「ラリー、もし君がルールを破ったら」教師は、生徒の注意を引くため、あえて名前を強調して呼んだ。「つまり、もし君が不当にいやらしいタッチをしたりしたら、君は二つの選択肢から一つを選ぶことになる」

「ひっぱたかれるか、そのまま続けるか。そんなのなんもめずらしくないけど」ラリーは、鼻先でせせら笑ってそう言った。

「君の行動をメリッサのお父さんに説明するか、キャンベルコーチに説明するか、だ」と、教師は答えた。

ラリーの笑顔が引っ込み、その両肩ががくっと下がると、残りのクラスから笑いが起こった。ブランドンは続けた。「もちろん、同様のことがメリッサにも適用されるぞ。僕としては、なぜ彼女がウォレス夫人の可愛い坊やの尻を掴んだのかについて、彼女が説明している様子が目に浮かぶようだけどね、だろ? そうだよな。では。君たち二人とも、課題のデモンストレーションに向けての心の準備は整ったかな? それとも別のボランティアを募ろうか?」

二人は揃って半信半疑といった様子でうなずき、お互い無言の警告を込めて相手をにらみつけた。ブランドンは、思わず笑い声を漏らしかけた。「ああ。それから点数をつけるって言ったかな?」彼は何食わぬ顔でそう聞いた。二人とも再び甲高い声をもらし、教室にもう一度笑いが波のように広がった。

一時間後、教室のドアは閉まっているのにも関わらず、大きな歓声が廊下に響き渡っていた。その声は突然止まっては、湧き起こる。止まり、また湧き起こった。それからブーイングが響く。その後はまた歓声。そして今度は繰り返しの応援の声が、「ライーアン、ライーアン、ライーアン、ライーアン」そして「ネリー頑張れ、ネリー頑張れ、ネリー頑張れ、ネリー頑張れ!」と続いた。

ドアが突然開き、ジェイクが教室に頭を突っ込んで、子供たちとブランドンをいぶかしげに眺め回した。机はすべて教室の脇に寄せてあり、中心で向き合った男子と女子の二人のためにスペースが設けられていた。他の生徒たちが性別ごとのグループに分かれ、教室の両側から、それぞれのチャンピオンを応援する中、ロドニーがホワイトボードに点数を記録している。ブランドンはデスクの端に腰掛け、片足を床に、そしてもう片足は、選手たちに向かって単語を投下するのに合わせてぶらぶらと揺らしていた。解剖学の本を片手に、眼鏡がずり落ちている。

「よし。女子四点、男子二点だ。ライアン、デルトイド(三角筋)」と、ブランドンが挑発する。歓声のあまり、誰もドアが開いた音に気づかない。ライアンは注意深く考慮し、女の子の体を眺め、それから指を一本伸ばして、彼女の肩の正面をちょんと突いた。女の子が呻き、男子たちが歓声を上げる中、ブランドンが言った。「正解」すると、ロドニーがライアンの名前の横にチェックマークを追加する。

ジェイクは片方の眉を上げ、咳払いした。「随分とお楽しみのようだな?」と、彼は一目瞭然の事実を尋ねた。

ブランドンは笑顔で顔をあげ、何人かの生徒がもう一人のコーチに挨拶の声を張り上げた。「女子四点、男子三点だ。ネリー、ヒューメラス(上腕骨)」と、科学教師は言った。女の子は、がくっと元気をなくしたが、他の女子たちは彼女を励ました。ちょっとの間をおいて、彼女は肩をすくめ、指を一本突き出して、ライアンの鼻の頭に触れた。

ジェイクはもう片方の眉もあげ、ブランドンと一瞬目を合わせた。ブランドンはしっかりと状況をコントロールできているようだ。後で、授業の邪魔をしたことを謝らなければならない。「ってことなら、続けてくれ」彼は静かに笑い、ドア口から引き下がった。

授業の終わり間際には、さらに大きな女子たちのキャーッという喜びの声と、男子のうめき声が上がっていた。ベルが鳴ると、生徒たちは退出していったが、その多くは弾んだ様子でバートレット先生に「バイ」と声をかけ、「教育的」エクササイズについてのコメントを残していった。生徒たちがいなくなると、彼は一人くすくす笑いながら、デスクを押して列を戻し始めた。

開いたドア越しに、更なる叫び声が聞こえ、笑いがタイルにこだました。「もし神が、お前らを屋根の梁からぶら下げさせたいと思ったとしたなら、尻尾をつけてくれていたはずだ、このいまいましいサルどもが!」と、ジェイクが声を張り上げる。その声には明らかに笑いがにじんでいて、彼の声に反応して、もっと大きな笑い声がおこった。体育教師というのは、学校というシステムの中で、子供たちを罵ってもトラブルにならない、唯一の存在であるようだ。その少し後、ジェイクは開いたドア口に立ち、小さく笑顔を浮かべてドア枠に寄りかかった。

いまや随分と馴染みになったキャンベル怒鳴りを耳にして、ブランドンは机を元の位置に戻しながら視線を上げた。「やあ」と、彼は挨拶する。

「よう」ジェイクは笑顔のままそう返した。「さっきは授業に割り込んじまって悪かったな」と、彼は謝罪を申し出る。「大抵の場合、この辺りで大声が聞こえる時ってのは、教師が天井からつま先を上にして吊るされてることを意味するもんだから」

「尻尾でじゃなく、かい?」と、ブランドンは冗談を言った。「皆、いい生徒だよ。あの子達がゲームを楽しんでくれてよかった。少なくとも、僕に打ち解けやすくはなったと思う」彼は体をまっすぐにし、伸びをして、眼鏡を押し上げた。「君の一日はどうだった?」彼は慇懃に尋ね、まじまじとジェイクを見つめた。

「訳あって、俺たちはもうガキどもを拷問することを許されてないからな」と、彼は真面目な顔で不平をもらす。「俺、もう行かないと、スクールバスの監督があるんだ」そこで彼は実際に唸り声をあげた。「また後でな」

後に残され、ブランドンはこの三日間どれほどたっぷりと笑ってきたかについて思い巡らした。とにかく笑わずにはいられないのだ、特にジェイクのとんでもないユーモアセンスの前では。一つため息をつき、デスクに腰をおろして、彼は書類ばさみを取り出すと、いくらか―できればほとんど全部の―採点をこなしてしまおうと腰を落ち着けた。グランドにいくまで一時間ある。

五十分後、彼は来客用のロッカールームで服を脱ぎ、白い野球ズボンだけでストレッチを始めていた。彼は走り込みの準備をしておきたかったのだが、それには、グランドに出てやるよりも、ここでやる方が簡単だった。ジェイクは今日、チームのメンバーを絞ると言っていた。彼は、頭の中で選手たちについての自分のメモ書きを反芻することになかば気をとられながら、ゆっくりとストレッチを続けた。



ジェイクは、生徒たちが教室から出た後、いるべきでない場所に入り込んだやつらを追い出すため、ロッカールームの最後の点検を行っていた。猫のように物音を立てずにドアを押し開けては、部屋から部屋へと入り込む。彼は、ロッカーの最初の列を見回し、それからシャワーに入って、誰もいないことを確認した。それから別のロッカーの列に入り込んで、そこでブランドンを見つけた。半裸で、その長い足をゆっくりと伸ばしている。なんてこった。

コーチははたと立ち止まって瞬きし、突然湧きあがった強烈な欲情に襲撃されつつも、なんとかそれを抑えつけた。彼は、ごくっとのどを鳴らし、もう少しの間、目の前の光景を見つめてから、静かに退却した。苛々と唇を舐め、流し近くのコンクリートの壁に体を預ける。くそっ。ブランドンが人の気配に気づく前に、部屋から抜け出るべきだとは承知していたが、動くことができなかった。かつて、ここまで強く誰かに飛び掛りたいという衝動に駆られるほどの欲望に襲われたことがあったか、思い出せないほどだった。まさに、青天の霹靂ってやつだ。ここ何日かずっと心の片隅にあった感情はこれだったのか? 自分でも気づかない欲望だったのか? まったく。



静かにため息をつき、ブランドンはゆっくりと腰を折って、太ももの後ろを掴み、目を閉じた。その姿勢を保った後、体を起こして、両腕を上に伸ばし、首がポキッと音を立てると小さく呻く。彼は思わずあくびをし、喉の奥で低い声を出して、ストレッチを続ける間に湧いてきた眠気を振り払おうと頭を振った。



ジェイクは頭を振り、動けと自分自身に命令した。何食わぬ顔で男の前に姿を現すというのは、まだありだろうが、この場に立ち竦んで、相手の尻の形をじっくりと観察しながら、盗み聞きしているというのは、自分を汚らわしいと感じる領域に入るボーダーラインだと言える。彼は部屋の反対側へとすり抜け、誰に頭の中を覗かれているわけでもないとは知りつつも、より激しく赤面した。彼はロッカールームのドアを開けた。「就寝点検!」と、彼は声を張り上げたが、いつもの怒鳴り声は完全には機能せず、少しかすれた声になった。



ブランドンの目が、ぱちっと開いた。その場でくるっと向きを変え、ロッカーの角からひょこっと頭を出す。「就寝点検?」彼はオウム返しに言う。「ここって軍隊ですか? 軍曹殿」彼は頭を傾け、ジェイクがなんだか不機嫌そうなことに気づいた。

「ガキは一人もいないか?」ジェイクはからかいには反応せず、既に答えは承知していながら、目の前の男にそう聞いた。彼の声は硬く、ぶっきらぼうだった。彼が、何があっても避けたいのは、同僚の教師なんかに惹かれてしまうことだ。しかもその教師が、自分が大人になる前から知っている人間だとしたらなおさらだ。言うまでもなく、カミングアウトしたいなんていう気持ちはさらさら持っていないというのに、彼は目の前の男をいやらしい目つきで眺め回していたというのだから。まったく。だから彼は過剰に反対の態度をとった。彼の黒い目は険しく、彼の体は緊張していた。

正体のわからない冷たさの波長を感じ取り、ブランドンは頭を振ると、からかいの態度を引っ込めた。「いないよ」彼は短く言って、着替えを終えるため、ジェイクの視界から消えた。ジェイクにどう対処していいものか、彼には全くわからない。彼は子供たちを怒鳴り散らすが、しっかりと面倒もみる。友好的な態度にもなるし、冷たい態度にもなる。優しく説明してくれるかと思えば、威嚇する。そりゃあジェイクは、好きなようにどんな態度でもとれるさ、と、ブランドンは静かに認めた。「ただ予測がつかないっていうだけで」彼は、アンダーアーマーを頭から被りながら、低く呟いた。

「なんだ?」ジェイクは向きを変えて、ドアに向かいながら声を出した。実際に体調すら悪くなったような気がするほどだ。自分が作り出したこの張り詰めた雰囲気を破るためのジョークを何か必死に考えようとした。だが、何も思いつかなかった。なんだってんだよ、まったくもう!



「グランドで会おう」ブランドンは、心底不安定な気分で、そう声を上げた。彼はジェイクとの折り合いの付け方を見つけ出さなければならない、さもなければ頭がおかしくなってしまう。または、もっと酷いことになるか。彼は、両手で頭を抱え、ジェイクに会う度に必ず彼の全身を満たす、奇妙に温かな興奮を振り落とそうとした。彼には今、こんな反応に対処する余裕はない。

「ああ」ジェイクは硬い顔つきで同意し、可能な限り素早くその場から逃げ出した。彼には氷水か何かが必要だ。この感情になんとか対処しなければならない、それも早急に。

 
もうちょっとだけ…、第四章まで?続くかも…。